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国友鉄砲鍛冶衆の娘  作者: 米村ひお
迷い込んだ先
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父親一日目

「するわけ無いだろう、制限をしたところで何の得になるんだい」


 藤兵衛の返事を聞いたたくみは心から不思議そうに言葉を返す。


「ほんと? 卑しくない?」


 お替りが卑しいなどと聞いたことがない。まして育ち盛りの子供には自分の食べる分が減ってでも分け与えるものだと思っていただけに、頭の上からつま先まで強い衝撃が走っていく。


「卑しい? お替りが卑しいのか」


 驚きに打ち震えて聞き返すが、たくみは案外さらっと答えた。


「うん、シスター言ってた」


 それを聞いた藤兵衛の心では、その “しすたあ” という人物が相当な悪人だと確定する。てて無し子を囲い満足に飯を与えず、年頃になったら売り飛ばすのだろう。だからたくみは逃げてきたのではないかと厭世的な思考に傾倒していき。


「大丈夫、いくらでもお替りしていい、たくみは卑しくなんか無い。 それにしすたあの所へ帰らなくていい」


 仏様から授かった大事な子を悪の手に渡してはならない、親としての義務だ。という強い意志を持って言葉を返すと、たくみは驚きに声を上げた。


「お替り自由? シスターの所に帰らなくていいの? ほんとう?」


 下がっていたお尻をぐんと持ち上げて肩越しに藤兵衛を覗き込むその瞳は、どんぐりの様にころっとしていて一遍の濁りもなく輝いている。

 ほんの少し首を向けた藤兵衛は、横目でたくみの嬉しそうな表情を愛で、そして頷いた。


「本当だ、たくみは俺が守る」


「やくそく?」


「約束だ」


「うれしい! ありがとう!」


 ぎゅーっと重なるたくみの柔い頬を、恥ずかしくも嬉しく受け入れる藤兵衛だった。





 藤兵衛は国友村を南北に貫く小谷道沿いに屋敷を構えている。


 小谷道はまたの名を山西街道とも呼ばれ、北は小谷城から南の米原まで下る大手道だ。城まで続いている街道という性質上、道は随所で鍵折れに曲がり、遠目に見るとそこで道が終わっているかのように錯覚する。そんな鍵折れの場所に藤兵衛の屋敷はあって、門のある土塀に囲まれた屋敷は鉄砲鍛冶としての腕の高さを物語っていた。


 作業をする鍛冶小屋も敷地内に構えられているが、藤兵衛が作業をする日は他の鉄砲鍛冶よりも少なかった。それは国友鉄砲を宣伝するために領主やその同盟関係にある国、あるいは他国へ出かける日があるからだ。鉄砲鍛冶の傍ら領主様のご機嫌取りもこなせるのだから、鍛冶衆から一目置かれる存在であった事は間違いない。


「とうちゃんのおうち、本当に此処なんだね」


 背中のたくみは前から知っていたかのように楽しげに話す。


「私の屋敷を知っていたのかい」


「屋敷跡があるからね」


 先程たくみは国友に住んでいて、鉄砲鍛冶や小谷城が “昔々あった” と話していた。自信のある口調から察するに嘘だと思ってはいない、けれどもやはり引っかかるところはある。


『先の世から来た』

『はいそうですか』


 と鵜呑みにできるだけの心の広さも知識も藤兵衛には無し。そんな胸中は “もう一押し” 確実と信じさせてくれる証が欲しかった。

 それは嫌うためではなく、更に愛したいと無意識に願ったからに他ならないが、父親一日目の藤兵衛にはその理解が乏しかったことも事実だ。


 ―もしたくみの言葉に偽りがないのならこの問いに答えられるはずだ


 藤兵衛家まであと少しのところでたくみを降ろして、目線を同じ高さに合わせ優しく問う。




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