麦わら帽子の真っ黒ぶよぶよ
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碁盤の目のような道を走るバスの車内で、車窓を眺めているたくみは、一番後ろの席を恐る恐る見やる。
始発のバスに乗り込んだたくみはすぐにそれを見つけていた。けれど、言ったところで誰にも見えない事も知っている。だから黙っていたのだが。それでも気になる。どうしても気になるのだ。
それは真っ黒くて、ぶよぶよした塊だった。しかも透けて向こうが見えている。頭らしき部分にはぼろぼろの麦藁帽子を被っていて、顔は無い。
すると、黒い塊からぶるぶるした腕のような部分が現れた。一瞬の出来事にたくみの全身の毛がぞわっとそば立つ。けれど怖いものほど見たくなるから困りものだ。横目で見ていたはずなのに、いつの間にか首がそちらを向いてじっと見つめてしまっていた。
それはにゅるにゅると伸びてゆき、麦藁帽子に触れると、帽子をちょこんと浮かせて――
なんと、たくみに向かって会釈をしたのだ。
ヒュっと息を飲んだたくみは、すぐさま車窓へと首を戻した。
黒い塊も気になるけれど、もう見てはいけないような気がするたくみは、かぶりつくように車窓を眺めていた。そして、ある建物に向かって指をさした。





