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スイカの星の進化論  作者: MUMU
第七章 赤青緑に黄色のスイカ
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第六十二話



まだ混乱冷めやらぬ芯果マキュルの街。

「迎えに来る」との連絡をよこした直後、コントロールセンターを訪れるのは戦士タイプの猫人リカントであった。ドラムのような重戦士タイプに似ているが、その表情は岩のように固く、仏頂面にも似て静かである。簡素な服の上から狼の毛皮を羽織るように着ている。


「オウ オマエタチ ヨンデル」


カタコトの言葉でそう話す。舌がうまく回らないのか、猫らしいもったりとした喋り方とも違っている。


「ふにゅー、造山猫ドンスコイってはじめて見ましたにゅう」

「昔は街中でも見かけたんだけどね……」


その頃から人間味の薄い猫たちだったが、一応は彼らの地形造成はカラバ王国の指針に沿って行われていたのだ。この時代でもコミュニケーションは取れていたということか。

ルートーンが補足するように口を開く。


造山猫ドンスコイたちは時々このように街を訪れて、区画造成の案を求めてくるのですにゃ。ここ最近は、あの黒猫ジュブナイルの居住区を造成していただいていましたが、彼ら自身は独自でどこかに穴を掘っているそうですにゃ」


この地下階層都市と言われるものは広大ではあるが、もちろん星全体をまるごとミルフィーユ状にしているわけではない。面積で言えばこの星のごく一部に掘られた穴だ。造山猫ドンスコイたち自身はまったく異なる場所に居所いどころを作っているらしい。


「分かった。トム、一緒に来てくれ」

「了解にゃー」

「コッチ」


その造山猫ドンスコイに案内されて地下に降りる。先程の黒猫たちの草原に降り、そこから水平に移動。途中に扉や鉄格子もあったが、造山猫ドンスコイが何かを呟くとがらがらと開いていく。音声操作になっているようだ。


まさかこの調子で何十キロも歩くのかな、と思っていると、目の前に銀色の筒が現れる。それは大きさなら電車の一両ぶんほどか。表面が鏡面仕上げてつるつるしており、何の金属なのか分からない。


「トラム」


いきなりそう呟く造山猫ドンスコイ。彼が銀筒の壁面に触れると、今度は音もなく壁面が開く。


「トラム? 電車?」


それは本当に電車だった。内部は20脚ほどの椅子があり、液晶画面に周辺の地図が表示されている。アリの巣のように道が張り巡らされた地下の模式図。内部に何の音も響かないが、その模式図が横にスライドしていく。


「まったく揺れもしないけど、移動してるのか……? なんだろう、リニア駆動かな。それともエアシューターのような……」

「うにゃー、何だかすごいにゃー、ハイテクノロジーだにゃあ」

「略さずに言われるとなんかモヤモヤするな」


そしてどれほど移動したのか。地下の模式図を眺めるのにも飽きた頃。また扉が開く。

そこは真っ白な廊下だった。やはり飾り気がなく、やや広めの通路がまっすぐに伸びている。


「オウ オマチ」


造山猫ドンスコイは道の脇に寄って、うやうやしく頭を垂れた姿勢で固まる。ここからは僕たちだけで行けということか。


「……」


この星の歴史の影にいて、山脈を、地下都市を作ってきた猫たちの王。さすがに緊張してきた。いきなり攻撃される可能性も否定できず、僕はポケットの中の閃光弾の感触を意識しつつ進む。


すると通路の奥に椅子らしきものがあって、そこからぴょんと飛び降りた影が四足歩行のような動きで走り。


「ダイス様あああああ~~~~~っ!!!」


弾丸のように腹にぶちあたる。


「うわっ!?」

「ダイス様ダイス様ダイス様ー!! お会いしたかったですみー! 心細かったですみいいいい!」


その猫は小柄であり、一瞬だけ見えた顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。僕の腹に顔をうずめでわあわあと盛大に泣いている。着ているのは白い服で、王冠も飾りも何もない。


「き、君、もしかしてガウディ!?」

「んみー! 覚えててくださいましたみー! 光栄ですみー! またお会いできるなんて夢のようでずびいいいいいい」

「シャツでハナかまないでくれる!?」


そして落ち着くまでに十数分。


案内されたのは一応の応接室のような場所だった。あるのは床と一体化している椅子とテーブルのみで、部屋には飾り気など一つもない。造山猫ドンスコイが他にも数人いて、部屋の隅の方に控えている。

ちなみにシャツは新しいのを提供されたので着替えた。


テッシュを何十枚も消費して、ようやく涙と鼻水を流しきったガウディは昔の記憶とあまり変わらない。肉体が成長しにくい知力タイプの猫でもさらに小柄な方で、石組みや穴掘りに興味を持つ猫だったはずだが。


「ぼ、僕はこの場所で造山猫ドンスコイたちを指揮させられてたんですみー」

させられてた・・・・・・?」

「そうですみー! やれどこか掘らせろとか、何か作らせろってうるさいんですみー、掘っては埋めて掘っては埋めて、地図を何回書き直しても終わらないんですみー」

「アナホリ シメイ」


使命、と言いたいのだろうか。何人かの造山猫ドンスコイはそうしてうなずき合う。


「しかも街に行かせてくれないんですみー! 逃げようとするからとか! 仕事が山積みだとか!」

「マチ アブナイ ユウカイ サレル」

「んみー! そもそもご先祖さまが君たちに誘拐されたんですみー! 城を作ってたらスカウトされて無理矢理に王様にされたですみー! 霊薬を飲んでるからきっちり覚えてますみー!」


造山猫ドンスコイたちは互いに顔を見合わせ、二、三言呟いた後、やや胸をそらして言う。


「ジコウ ジコウ」

「君たち実はけっこう喋れるだろ」


まあそれはともかく、である。こうして再会できたことは素直に喜びたい。

あの無線路鉄道トラムから見て、造山猫ドンスコイたちはかなりの技術水準を持っているようだ。そのあたりも聞いておきたかった。


「ガウディ、僕を呼んだのは会いたかったから、だけじゃないだろう?」

「んみっ! そうですみー! まず見せたいものがございますみー!」


しゅば、と椅子から飛び降りて、ガウディは部屋の中で走り出す。その先で音もなく扉が開いていき、一瞬遅れて僕たちも慌てて後を追った。


「んみー、僕はこの場所でいろいろ研究してたんですみー」


彼について歩くと、道にはそれなりに変化が出てきた。

ある場所では片側がアクリル窓になっており、岩がむき出しの洞窟になっている。球体状の光源がふわふわと浮かび、その下で大きなつるはしを振るう造山猫ドンスコイがいた。


「この辺はいま掘ってる最中ですみー」

「もう居住区には十分だろう? 何を作ってるの?」

「マラソンコースですみー、とにかく何か作らせろってうるさいんですみー。古い穴を埋めたり、緑土タンドンまで伸びる縦穴を掘ったり、何か仕事を用意しろって言われるんですみー。今度は緑土タンドンに6000メートル級の山を作る予定でしたみー」

「地上にはもう造兵施設が無くなったからね。残った野良のドラゴンがおおよそ駆逐できれば、そこからは自由に山や川を作れるよ」

「存じてますみー、造山猫ドンスコイたちも楽しみにしてましたみー」


また少し進むと広間に出た。陽光に似た光源が真上から降り注いでいる。

そこに存在するのは果樹の木だ。スイカの木より細身で丈が低く、細かな枝葉がスチールウールのような質感で広がっている。その足元に落ちている赤い木の実は……。


「! これ、リンゴじゃないか!」

「そうですみー。ダイス様の伝えていた形を遺伝子編集で再現しましたみー。あっちには小麦とかジャガイモもありますみー」

「すごいじゃないか、これで食糧問題も解決するぞ」

「いいえ全然ダメですみ。そもそも芯果マキュルのフードセンターならスイカからリンゴでもイモでも作れるんですみー」


それもそうか。しかし新たな食物であるには違いないはずだが……。


「それに土壌の疲弊が大きすぎるんですみー。緑土タンドンを開拓するなら普通にスイカ植えたほうがいいですみー」

「ここで植物の研究をしてたの?」

「そうですみー、でもあのスイカの完成度には及びませんみー」


また部屋が変わる。どうやらこの付近は研究施設が集まっているようだ。

その部屋は液体で満たされたガラスの筒が柱のように林立しており、ときおり気泡がボコボコと上昇していく。トムが物珍しそうに周囲を見回して言う。


「うにゃー、変な施設ばっかだにゃー」

「ここでは菌類の研究とかやってましたみー。ゴミを処理する菌とか、土壌を改良する菌ですみー。カギは窒素固定なのは分かってるけど難しいですみー」

「すごいな、これだけの研究を……。君一人で?」

「いいえ、これはティル様が作った施設ですみー。もともと、地下都市の計画もティル様の指揮で行ってたんですみー」

「ティル……」


なんだか懐かしく響く名前だ。もちろん月で旅立った猫たちのことを片時も忘れたことはないが、一心不乱に研究に打ち込むティル、知性タイプの祖であり、あらゆるものに興味を持っていた白衣の猫。そんな姿を見たのはとても昔のような気がする。古王国時代よりもさらに前、あの貧しくも懐かしき開拓者の頃をわずかに思い出す。


「ティル様は造山猫ドンスコイたちの王になることを拒んで、知性タイプの猫たちを率いて研究を続けてましたみー。地下のあらゆる場所を掘り起こして最果ての四王の遺産も探してましたみー」

「……そう、だろうね。彼らが月に乗って旅立つなら、どうしても一つだけ、回収しておかねばならないものがあるはずだ」

「うにゃ?」


トムはピンとこないのか首をかしげる。どこで拾ってきたのか、キウイをむしゃむしゃ食べて何気にレベルアップしていた。


そしてさらにいくつかの施設を抜け、下層へと向かうエレベーターに乗る。

そのエレベーターだけは様式が違うことが見た目にも分かった。内部にある操作パネルも非常に高い位置についており、ガウディはちょっと背伸びをして操作する。


「これはこの星にもとからあったエレベーターですみー。もちろん補修はしてますみー」

「……」


そして下降。これまでも散々降りてきたのだが、星の大きさを思えばまだまだスイカの皮ほどの厚みもない地下世界である。

しかし今回の下降はとても長く思えた。実際の距離よりも、そのエレベーターシャフトの古さ、どこかで機械の軋む音、何よりもこれから目にするであろうものへの畏怖が距離を長く感じさせる。


そして扉が開き、ガウディが静かな口調で言う。




「お目にかけますみー、これがこの星の最重要区画。無限の魂に関わる施設ですみー」



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