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スイカの星の進化論  作者: MUMU
第六章 鏡写しの砂漠と楽園
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第五十四話

戦闘シーンを途中で切りたくないので二話更新としました



体を浮かせるような大股のストライド、斜路を三人が駆け下りていく。


ドラゴンは人間と同じような五感は持っていない。主に光学観測、そして熱感知だ。僕たちの身につけた遮熱マントによって多少はごまかせるが、ドラゴンの前に三秒以上姿を晒せば機銃の乱射を食らうだろう。その気配には警戒せねばならない。


マントの内側には黒の耐衝撃スーツを着ている。外見はライダースーツのような革のツナギに見えるが、内部には耐衝撃ゲルが充填されており、9ミリ弾ならば至近距離でも耐える。靴は通常の荒れ地用シューズ。静音は必要ない。すでに警報がけたたましく鳴り響いているから。

斜路は途中でシャッターが降りており、そこからロボット用の通路が右手に伸びていた。


「強行偵察しますにゅう!」


クーメルが駆ける。一瞬で僕たちとの距離を引き離して通路の奥へ。何かを打ち倒す音がして、奥の曲がり角から手招きが見える。


たどり着けば、そこには胴から白煙を上げるロボットがいた。ズンドウ鍋の体にマジックアームを生やした古典的なロボットだ。

クーメルが履いているのは先が黄色に塗られたブーツ。そこに90万Vの対機械用スタンガンが仕込んである。ドラゴンをひるませるほどの威力はないが、メンテナンスロボットならこれで十分だろう。

そこには情報通り、エレベーターの扉があった。すでに非常状態に切り替わっており、扉に太さ4センチの鋼鉄棒が渡されているのが隙間から見える。


「解除頼むにゃ」

「簡単に言わないでくれ」


僕はメンテ用の小窓を開け、大きめのゲーム機のような携帯端末を接続する。廃棄された基地で何度も練習した手順だが、どうやら有効のようだ。一度電源を落とし、エマージェンシーの配線を切ってから再起動する。ものの見事に扉が開いた。しかし設定がリセットされているため、マスターコードがなければカゴは動いてくれない。

しかし扉さえ開けば十分だ。僕は倒れていたロボットの体を扉の間にかませ、ク―メルが白い粘土状のものを床に設置。雷管を突き刺してアンテナを立て、物陰からスイッチを押す。

オレンジ色の閃光と爆風が通路を駆け抜け、スプリンクラーが起動する頃には僕らはシャフトの中へと降りていた。


縦に伸びるワイヤーに滑車つきの命綱をかませ、ゆっくりと降りていく。


「そういえば、翡翠エメロまではどのぐらいあるんだっけ」

「ざっと500メートルにゃ。この施設から下層へは行けないにゃ」


かつての王国時代、地下100メートル付近までは地下通路が張り巡らされていた。それらはドラゴンの猛攻によりほとんどが埋まり、今の階層都市は造山猫ドンスコイたちによって地下500メートル以降に築かれたものだ。

猫たちが住まう最下層、芯果マキュルまではおよそ5キロ。しかし地下施設自体はさらに何段階も奥まで掘られ、そこで猫たちは最果ての四王たちが築いたシステムに触れたと聞いている。


僕たちはさらに何度かエレベーターを乗り継ぎ、地下施設の奥へ向かう。迷路のように張り巡らされた地下施設だが、僕らの動きが早いことが幸いしたのか、警戒のロボットは上へ上へと向かっているようだ。僕たちはそれをやり過ごしつつ降りていく。


たどり着くのは地下17階。とっくの昔に未知の領域である。

かつての猫の軍勢は施設の把握に時間を取られ、下層から無限に湧いてくるドラゴンを処理しきれずに撤退した。強行作戦は何度か行われたが、いずれも結果は同じだった。ドラゴンは倒してしまえば巨大な瓦礫。それに進軍を阻まれていく道理だ。


僕たちは大きな通路を避け、メンテナンスロボット用の通路を進む。直線的な通路を駆けている時、頭部から銃身バレルを生やしたロボットが出現して信地旋回。


「うにゅっ」


瞬間、クーメルが身をかがめる直上を銃弾がよぎる。廊下に斜めの弾痕列を刻みつつロボットが狙いを修正。二連射目を仕掛ける寸前にその胴部に靴先が食い込む。激しい火花と白煙。

瞬殺ではあったがおそらく警戒網は刺激された。周囲からモーター音や何かの駆動音が集まってきて、ズンドウ鍋のようなロボットが次々と出てくる。


「突破するにゃ!」


前に出るのはトムだ。ロボットは長い銃身を持つために狙いが見抜かれやすい。トムは壁面を蹴って三角に飛び、ロボットが照準を合わせる前にその頭部に黒剣を撃ち込む、それは防御装甲の隙間に突き立てるような一撃。内部の配線を傷つけられたロボットは沈黙する。


背後に気配。僕は振り向きつつ。腰から銃を抜いて一撃。相手が撃つよりかろうじて早かった。ストックを切り詰めた12ゲージ相当の散弾銃、メタルジャケット仕様だ。通路いっぱいに広がってロボットの装甲板を撃ち抜く威力がある。


一体ずつならば仕留められるが、ここは地形が良くない。比較的真っ直ぐな通路に、左右に伸びる曲がり角がいくつか見える。どこから敵のロボットが出てくるか分からない。


「敵を釣り出しますにゅう!」


クーメルが腰を沈め、廊下の奥に向かって一気に駆け出す。左右に伸びる通路から放たれる12ミリ機銃が千分の一秒だけ通路をよぎってクーメルの影だけを抜く、次いで出てきた機体に向かって僕が反応。足を前後に開く構えでしゃがみ、ショットガンを二連射する。

弾が放射状に広がっているため、ロボットの影に隠れていればクーメルに弾は届かない理屈。跳弾まで考慮するとかなり危険だが、クーメルの度胸勝ちか、敵襲はそこで止む。


「――早い」


クーメルの駆ける速度がどんどんと増している。クーメルは通路の奥でさらに戦っており、機銃弾を残像だけ残すような動きでかわし、スライディングでスタンガンシューズを叩き込む。


「ロボの数が多いにゃ。もう7体倒したにゃ」

「どうやら当たりかもね。この階層にロボットを集めてるのかも」

「にゅー、通路の奥に扉がありますにゅう」


開けてみれば、そこは巨大な空間だった。

一辺およそ80メートルほどの立方体。地面は鉄板で覆われており、右方には大型のシャッターゲート。天井からは吊り下げクレーンが垂れ下がり、奥の方には大型プレス機のような機械が見える。大きさは12トントラックを二つ重ねたほど。


「――あれだ」


間違いない、と直感で思う。商人から受け取った資料と同じ形状。

あれが万能工作機、分子レベルでの要求に答える成形機械であり、古めかしい言い方をすれば超高精度の3Dプリンターだ。やはりこの階層にあったか。

まだ生きている機械のはずだが、周辺に一切ものがないので奇妙な感覚がある。この工作機が一台で完全に完結していることもあるが、ロボットの働く工場に余分なものは生まれない、ということだろうか。


「運がいいにゃー、見張りがいないにゃー」

「よし爆破しよう。修理不可能なほど破壊して、帰りにこの階層も封鎖できれば造兵能力は失われる」


上手く行き過ぎている、と思うのは当然だろう。

しかし万能工作機は紛れもない本物だ。ともかくもこれを破壊することがすべてに優先する。


「爆薬を貼り付ければいいんですにゅう?」

「いや、成形機だけあって頑丈に作ってある。できれば蓋を開けて内部に仕掛けたいんだけど……」


僕は操作パネルらしき部分を探し、マニュアル操作ができないかと――。


「……? これ、起動してるぞ」


僅かだが駆動音が聞こえる。

この造兵廠と同じく、この万能工作機もまた一つの小宇宙だとされている。人としての人格を失っていた森の王、雨の王が活動するために、彼らの操る機械は全てがスタンドアローンだった。戦争が終わって40年あまり、基地は自衛モードに入っていて新たなドラゴンは生まれていないと言われていたが……。

ふいに操作パネルの液晶が全て真っ赤に染まり、低く鳴動するようなアラートが轟く。


「やばい! 何か出てくるぞ!!」

「うにゃ! 出てくる瞬間に蜂の巣にするにゃー!」


僕は12ゲージ相当の散弾銃を構え、成形部の蓋に照準を合わせる。この機械の内部は言わば多種多様な金属のプール。特殊な電界環境によって超臨界状態に置かれたその金属は互いに結合することもなく混ざり合い、ナノレーザーの命令により分子レベルで組み上がっていく。装甲板も、カメラアイも、電子部品をも配線単位で組み上げていく、そしてあろうことか原子価操作まで行い、要求する原子を自ら生み出すのだ。それがこの万能工作機だが――。


蓋が跳ね上がり、僕は何か飛び出す気配に引き金を引き。

だが、僕の放った26発の散弾はその影にまったく追いついていない。その影は成形機械から飛び出して空中で直角に曲がり、壁面の一部をがりがりと削ってさらに跳ねる。そして投げ出されるように地面に着地。


「こいつ――速いぞ!」


それは白い鼠。なぜかそんなものを幻視した。

大きさはポニーほどしかない。全身が脱皮したてのように白一色であり、まだバランスが取り切れていないのか、よろめいて見える。体からは潤滑油が垂れ流されており、黄色い飛沫が周囲に散る。


それが持つのは左右に広がる翼膜。そして長大な尾。それがしゅるりと伸びて己の体を取り囲んでいる。


尾は蛇腹状に連結されており、そいつが意識を覚醒させるうちに全体が蛇のように有機的に動く。


「――ドラゴン」


間違いない。この星で最初に見た悪意。長い尾と翼膜、砂色だった鱗状の甲殻が純白なのは生まれたてのためか。

サイズは体高1メートル。翼膜をいっぱいに広げて2.5メートルほどか。僕の見たどのドラゴンよりも小さい。

しかし、それは果たして未熟さや弱さを意味するだろうか。


そしてドラゴンは、僕たち三人を認識し。

瞬間、その像がぶれて見えた瞬間に腹部への衝撃。


「っ!?」


揺らめく視界で、僕は一瞬だけ、散弾銃を噛み砕くドラゴンを見た。


そしてその姿が、地下空間のあらゆる場所から消える。



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