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スイカの星の進化論  作者: MUMU
第三章 トムティルドラムと破壊の王
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第二十四話



戦場となる場所を選ばねばならなかった。

人口から考えて、それは必然的に工事村となる。


戦士たちの怪力はやぐらを作るのにも役立った。ロープの結索術など知るはずもない彼らだが、木材を凸凹に削って組み合わせ、スイカの蔦でぎしぎしと縛り上げていく。木の組み合った部分が巻き付いた蔓でボールのように膨れており、けして見た目の良いものではないが、猫たちが上に登って戦うには十分だろう。


弓はティルの工房で開発されていた。これまで猫人リカントたちの狩りにおいて、弓はかぎ針を引っ掛けたり、さまよう泉ワンダリングジェリーの毒針で作ったやじりを撃ち込むためのもので、それで胴をぶち抜いて一撃必殺、という代物ではない。

強力な弓が必要だった。スイカの木の芯材に加え、赤鋼牛カーゴブルから切り出した鉄板を重ねて張力を高め、弦は狼の腸とスイカの蔓を撚り合わせて強度を高める。張力としては25ポンドというところか。鋭利な鏃なら鹿の心臓に届くか、という程度だ。


「クロスボウというのは非常に難しいですにゃあ。足引き式の弓を試作してみたけど、何発か撃ったらあちこち割れてしまいましたにゃあ。加工の精度も素材も追いついてませんにゃー」


とはティルの言葉だ。武器の開発は素材の歴史とも言える。本来はじっくりと素材の開発から取り組むべきなのだが、今はそんな余裕もない。


ここで、猫たちの得手、不得手が分かってきた。


ドラムのようなずんぐりとした戦士は弓を苦手としていた。力が安定しないのか、狙いが大幅にブレるのだ。戦士型の中でも弓を得意とする猫は腕がやや長く、視力が優れており闇夜もよく見通す。一度狙いをつけると彫像のように微動だにせず、その射程距離は400メートルを越える。

このような猫は総じて身軽であり、複数の櫓を飛び回りながら空中で矢を放つ、そんなサーカスの曲芸のような技も身につけた。


すなわち戦士の中にもローマの重装歩兵のようなタイプと、かのシャーウッドの森の義賊のような弓手タイプがいるということか。

それ以外にも剣を得意とするタイプも少数ながらいた。だが猫たちの武器は総じて刃がなまくらであり、砂漠の獣を倒すには重戦士のハンマーが頼りだった。

猫同士の訓練の場なら剣士タイプも活躍するらしいが、狩りの役には立たないのでいつも重戦士の補佐を務めているらしい。


「つまり剣士タイプ、弓手タイプ、重戦士タイプに分かれるわけか……もう少し特徴が明確になれば、ふさわしい名を与えてあげたいところだけど」


小人マンチカンの時期は大まかに戦士タイプと知力タイプに分かれるだけだが、どうやら猫たちの進化は猫人リカントで終わりではなく、むしろそこからが本格的な分岐の始まりのような気がする。

となればティルのような知力タイプにも分岐が訪れるのだろうか? 確かによく観察していると、コジーの酒造りのように一つのことを追い求めるタイプや、ティルのように何にでも興味を持つタイプがいる。だがこの世界での知識の絶対量というものが少ないためか、なかなか変化は明確にはならない。





「ふにゅう? 伝令係ですかにゃ?」

「そうだ、君たち郵便屋の猫に戦場での伝令係を務めてほしい。指笛では細かな指示が出せないからね。いくつもの部隊を行き来して、司令部からの指示を伝えるんだ」


クーメルは僕の言葉の理解に時間がかかるのか、少し固まって。

やがて目をきらきらと輝かせ、びしりと腕を上げる。


「お任せ下さいにゅう! クーメルと郵便猫たちは見事に伝令を務めてみせますにゅう!」

「やってやるにゃー」

「走るなら任せるにゃー」


郵便係の猫たちは日に日にスピードを上げているように見えた。その腿はパンパンに膨れ上がり、足もやや長くなって他の猫より身長が高くなっている。正確な計測ではないが、彼らは20キロの距離を1時間20分で走る。クーメルに至っては1時間を切るのではないかと思われ、これは人間なら超一流アスリートに匹敵する数字だ。しかも砂地を、である。

クーメルは雌性体のため、そのしなやかな脚線美はまるでカモシカのようだった。


「君たちは長い距離を一定のスピードで走り続けられるけど、今度の戦いで必要なのは短距離のスピードだ。姿勢を低くして素早く走る練習をしてくれ。指示も正確に伝えられるように、君たち向けの小さなメモ帳を作っている。もうすぐ支給できるはずだ」

「おおお! 貴重な紙のメモ帳ですにゅう! きっと役立ててみせますにゅう!」

「やるにゃー」

「風になるにゃー」

「ごぼう抜きにするにゃ―」


「……誰を?」





「うにゃ、ダイス様、あの穴はどうするにゃー」


そう問いかけるのは穴掘りをしていた猫である。彼らのそばには巨大な石材が詰まれていた。鎧象アームファントから切り出した石材だが、量はビルをひとつ解体したほどもある。


「残念だが戦う準備をしなければいけない。その岩も投石機の弾丸として使う予定なんだが、それ全部はいらないな、破損しないように砂漠に置いておくか……」

「にゃー、残念だにゃー」

「おしろ作りたかったにゃー」

「模型作ったのににゃー」


そこで僕は少し驚く。無造作に積まれていた瓦礫の山、その一角にウェディングケーキのような物体がある。

それは石の破片で組み合わされた立体パズルのような城だった。必要に応じて細部を割っているが、ほぼ石材そのままを組み上げて三段の円柱が作られている。大きさは3メートルというところか。確かに城か、あるいはバベルの塔のような高層建築物に見える。


「すごいな、これは誰が?」

「にゃー、ガウディですにゃー。石を組み上げるのがうまいんですにゃー」

「みー。そ、そんなことないみー」


瓦礫の中に頭を突っ込み、大きなお尻を見せている猫がいた。


「あれがガウディ? そういえばそんな名前をつけた子もいたけど、建築が得意な子になるとは奇遇な……」

「あいつはシャイなんですにゃー」

「すぐ顔が赤くなるのにゃー」

「みんなで歌うときも一人だけ口パクですにゃー」

「みっ!? バレてたみー!」


その大きなお尻はもぞもぞと動いて、石材の隙間に潜り込んでしまった。

……ま、猫にも色々得意なことがあるってことか。


「ところでお城ってなんのこと?」

「んみー! お城を作るんですみー!」


後ろから声がしたので驚いて振り向く。

周辺には瓦礫が散らばっているが、ガウディらしき猫は見えない。猫は砂に潜れるけれど、まさか瓦礫の隙間を縫って移動しているのか。


「穴を掘ってると砂が崩れてきますみー! だからお城を作って穴を固めていくんですみー! 円形に岩を組むとどれだけ砂が押し寄せても大丈夫ですみー!!」

「うん……井戸の縦穴を岩で固めていく計画のことは知ってる。君たちはそれをお城と表現したんだね。でも、岩を組んだだけじゃ強度が心配だな。まだモルタルや土壁しかないから、そのうちコンクリートが作れるようになってから」

「大丈夫ですみー! 岩をきちんと組んでいけば、外がガタガタでも中に丸を作れるんですみー!!」


声はすれども姿は見えず、何やら力説したいことがあるようだが、姿を見せるのは恥ずかしいらしい。


「もう組み方も見えてますみー!! いつか作らせてほしいですみー!」

「……丸を作る、それはアーチ構造というやつだね、それを一人で見出したのか、大したもんだ」


アーチ構造は文明の指標の一つとも言える。かつて18世紀末ごろ。欧米人が他国を文明未開の地とみなして占領していた時、ある国において石橋が見事なアーチ構造を築いているのを見て、下手をすれば自分たちが未開な人間と思われはしないか、と緊張したと聞く。場所はよく知らないが、リューキューとかいう国を訪れたペリーという人物の話だったか。


「ガウディ、君のその力も戦いに役立つはずだ、力を貸してくれ」

「んみっ!? ぼ、僕ですみー?」

「そうだよ、さあ出てきて、握手しよう」

「は、はいですみー」


話すあいだも、ガウディの声は右へ左へと移動する。瓦礫が動くような音はほとんどない、どうやって移動してるのだろう?

やがて出てきたのはひときわ小柄で、子供のようなぼさぼさの髪の猫だった。雄性体のようだが体つきは細い。


僕は彼と握手し、爪を見せてもらう。


「ええと……レベル55はあるな。猫人リカントなんだね。それにしては小さいけど」

「ぼ、ぼくあまり身体が大きくなりませんみー。で、でも岩はちゃんと持てますから安心してほしいみー」


そうしてガウディは振り返って駆けていき、ひときわ大きな岩盤をえいと持ち上げる。


その勢いでバックドロップが炸裂し、背後にあった城の模型がコナゴナになって、猫たちが一斉にくしゃみ直前みたいな顔になった。



猫たちのまとめ


・トム ♂

戦士タイプ、現在行方不明、得意武器は剣。


・ティル ♀

知力タイプ、あらゆるものに興味を示す。


・ドラム ♂

戦士タイプ、身体がずんぐりしており力が強い、得意武器はハンマー。


・コジー ♀

知力タイプ、酒造りに執念を燃やす職人気質。


・クーメル ♀

戦士タイプ、脚力に優れ、伝令を専門とする。


・ガウディ ♂

知力タイプ、石組みに優れる。小柄だが戦士タイプ並の力も持つ。

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