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4話 侵入者


 煉が異世界に転生して、はや14年。

 こちらの世界では15で成人と認められるので、もうじき大人の年。

 そんな彼は、偶然なのか神の仕業なのか、新しい世界でもレンと命名された。

 親がどちらも最下級奴隷であり、必然的にレンは生まれた落ちた瞬間から奴隷としての運命さだめを背負う。


 最下級奴隷とは、売り物にならない低品質の奴隷の事であり、基本的な奉仕活動は労働。

 レンを飼っているテニジュート奴隷商会は大国の1つ、ザベルス皇国にある。

 ザベルス皇国では奴隷制度は認めていても、一定の権利を持たせた上での事だった。


 犯罪奴隷以外への強制、性的虐待、暴行などを禁止。

 購入される際にも本人がどこまでの権利を主人に譲渡するかの取り決めが行われ、当然こちらも強制的に承諾させる事は罰則の対象となる。

 その結果、奴隷たちは同じ牢屋に閉じ込められている仲間などと恋に落ちる者も多く、子を成す事も少なからずあった。

 特に最下級奴隷に顕著で、奴隷商人としても元手いらずで良い商品が転がり込んでくる可能性がある事から、禁止しない所か手厚く援助。

 そうして生まれた子供達は才能や容姿で階級分けされ、新たな商品となるのだ。


 レンもその内の1人。

 彼の場合は、生まれるべくして奴隷として生まれたとも言えるのだが……。

 そんなレンは、今日も今日とて悪態をついていた。


「ったく、奴隷として生まれたのは仕方ないけどよ。一体! いつになったら! その結果手に入れたであろう俺のチート能力は目覚めるんだよおおお!!」


 奴隷として生まれた子供達は、10歳になると適正試験を受けさせられる。

 魔力や身体能力、そのほか有益な才能がないかを調べる、かなりしっかりとした試験。

 レンもその試験を受けたが、結果は散々なものだった。

 本当にチート能力を授けてくれたのか、疑問に思うほどに。


「あんたはいつもそんなことをぼやいているね。一体チート能力ってのはなんだい?」


 毎夜の事ではあるのだが、見かねたパプリがそう尋ねてくれる。


「いつも言ってるだろ!英雄になれるくらい、すんげー力だよ!」


「なるほどねぇ……」


 パプリは毎日の様に、少し内容を変えてはレンに質問している。

 そうすると、レンが嬉々として語り始めるのが分かっているから。

 ささやかな恩返しでもあった。


「あんたのその力がもし目覚めたら、ぜひもう一度で良いから自由に外を歩きたいね」


「ったりめーだろ、すぐにこんなとこ飛び出してやるぜ」


「ああ、期待しているよ。未来の英雄さま?」


「バカにしてんだろ!!」


「ふふ、ごめんごめん。でも英雄になるなら、もう少し自分の身体も大事にしな。あんただけが……。レンだけが痛い目を見る必要はないんだ」


 急に真剣な眼差しになるパプリに、思わず面食らうレン。

 だがすぐに調子を取り戻すと、地べたに引かれた薄い布の上に仰向けに寝転がる。


「いつも言ってんだろ? 俺がこの中で一番身体が丈夫だ。それに姉ちゃんの回復魔法ヒーリングもあるからな。全然問題ないよ」


「……傷は癒せても、鞭で打たれているときの痛みを消せるわけじゃないんだよ……」


 悲痛な声でそう呟くパプリ、聞こえない振りをして目を瞑るレン。

 そんな微妙な雰囲気は、突如蹴破られた扉によって霧散した。


「お頭ー! こっちにも奴隷がいやしたぜ!!」


 いかにも下っ端風の男がそう叫ぶと、通路から軽鎧を身にまとった厳つい男が姿を現す。

 顔や鎧から覗く肌には無数の傷跡があり、左腕には一際大きな十字の傷。

 面構えからも、いくつもの修羅場を潜り抜けてきた猛者の気配が漂っていた。


「どれどれ……。ほぉ、まぁまぁいるな。女も多いし上々だ。お前ら、全員連れてけ!」


「「「「へい!!」」」」


 お頭と呼ばれた男の背後から、ゾロゾロと部下が入ってきて牢屋の鍵を開けていく。

 怯えて固まる奴隷たちの首輪に鎖を繋いでいき、無理やり立ち上がらせ連れ出そうとした時、大きな叫び声が響き渡った。


「おい、なんだお前はいきなり! 誰の許可を得てみんなに手出してんだ!」


 パプリの静止も聞かず、威勢よくそう咆える。

 侵入してきた者達は一瞬だけ呆気にとられるが、すぐに全員が大笑いした。


「お頭、あのガキはどうしやすか?ちょっと遊んでやっても?」


「ああいう世間知らずには、大人として少し世の中の厳しさってやつを教えてやらねぇとな。好きにしていいぞ」


「「「「いやっほーい!」」」」


 レンとパプリたちが入れられた牢屋の扉を開けると、レンを引っ張り出して地面に放り投げる男達。

 立ち上がろうとするレンを1人が蹴って邪魔すると、他の者もレンが起き上がれないように邪魔をし始め、ひたすら集団で蹴り続けた。

 最初はなんとか立ち上がろうと足掻いていたレンも、気付けば丸まって攻撃を防ぐ事しか出来なくなっている。

 そんな様子を見ていたパプリは、思わず飛び出しレンを庇う様に覆いかぶさった。


「もうやめろよ! レンが死んじゃうだろ!」


 女性に手を出すことは禁止されていたのか、ぴたりと蹴るのをやめる男達。

 お頭と呼ばれた男が間を割って現れると、パプリを見てニヤケ面を浮かべた。


「そいつを助けてやっても良い。ただし、お前次第だ。……わかるよな?」


 パプリの身体を上から下まで舐めるように視線を送り、下卑た笑みで首を傾げるお頭。

 言葉の意味を理解したパプリは、グッと唇を噛み締めた。

 こんな男に好きにされるなど、考えただけでも吐き気がする。

 でも……。下を見れば傷だらけのレンがいる。

 この子はいつも、自分を犠牲にして私達を守ってくれていた。

 今度は自分がこの子を守る番。

 そう思えば、どんな事をされても大丈夫だとパプリは思えた。


「……わかりました。ですから、この子を手当てさせてください」


「ほう? いいぞ、やってみせろ」


 レンに視線を向けると、優しい柔和な笑みを浮かべながら、優しく頭を撫でる。


「ごめんね、ありがとう。あたいは大丈夫だから、自分を責めるんじゃないよ。『治癒の光(ヒーリング)』」


 見る見る傷が癒えていくレンとパプリを交互に見ながら、お頭はより一層笑みを浮かべた。


「くくく、まさか回復魔法が使えるとはな! とんだ掘り出しモンだぜ。ここの奴隷商は何やってんだ? 見る目がねぇのか、特別扱いだったのか……。どっちにせよ好都合だな」


 パプリの腕を掴み引き上げると、自身に抱き寄せ満足感に浸るお頭。

 そのまま部屋を出ようと踵を返すが、背後でレンが立ち上がる。


「おい、待てよ。帰るんなら姉ちゃんは置いていけ」


「あぁ?!」


怒りの形相で振り返るお頭の眼前には、同じく怒りの形相を浮かべたレンがいた―――。




いつもお読み頂き、ありがとうございます!


やっぱり1話当たりの文字数が少ないと、色々勝手が違いますね。

勉強になっています。

さて、ねんどれですが明日も更新予定です。

6話以降の間隔はまだ未定ですが、出来るだけ小まめに更新していこうと思っています。


少しでも面白いと思って頂けたら、評価や感想、活動報告へのコメントなどお待ちしております!

また、神と獣と精霊と。という作品も同時連載しています。

良ければそちらもお願いします!

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