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3話 奴隷としての日課


「さーて、今日はど・の・子・に・しっよっおっかっなぁー♪」


 ウキウキ気分が周囲に伝わるほど、リズミカルなステップを踏みながら牢屋の前をグルグル回る男。

 その手にはムチが握られ、牢屋の中に捉えられている者達は戦々恐々としていた。

 そんな者達の怯えた様子を見ると、男は一際嬉しそうに笑みを零すのだ。


 自分は支配人で、彼らは奴隷。

 そしてここにいるやつらはその奴隷の中でも、売り物にすらならない連中。

 使えるとすれば労働力としてか、もしくは自分の愉悦を満たすための実験体サンドバッグ

 どちらにせよ、その程度の価値しかない道具。


 時折地面をムチで叩いては、怯えた奴隷達を嬉々として嘗め回す様に眺める。

 親が奴隷商人だった事もあり、生まれた時から支配者としての教育を受けて来た。

 ゆえにこの男、ピーマ・テニジュートに罪悪感なんてものは端から存在しなかった。


「ほれ、自ら志願するものはおらんか? そうすれば、他の者は傷つかずに済むぞ?」


 でっぷりと肥えた腹をさすりながら、醜悪な笑みを浮かべてそう問う。

 今この場だけの自己犠牲なら、すぐに志願する者もいたかもしれない。

 だがこのやりとりは、毎日続いていた。

 当然ながら、今日みんなを自分を盾に守ったところで、翌日同様の質問をされるのがオチなのだ。


「ふ~む? 誰もおらんのか? つまらんのう」


 ピーマは残念そうな顔をすると、わざとらしくがっくりと俯く。

 その実、俯いて周りから見えなくなった顔には満面の笑みを浮かべているのだが。

 表情を再び残念そうな顔に戻すと顔を上げ、仕方が無いと言わんばかりに大きくため息をつく。


「やれやれ、心が痛むが志願者がいないのではなぁ? どれ、ワシが……」


「ん~~~、良く寝たぁ」


 奴隷達が怯える中、呑気な声が牢屋中に響く。


「ん? みんな固まってどうしたんだ?」


 背筋を伸ばしながら辺りを見渡し、不思議そうにそう尋ねる少年。

 まだ寝たりないのか、あくびをする少年に向けて怒声が飛ぶ。


「き、きさまぁーーー!! ワシが来ているというのに、寝ていただと?! 何度教えたら分かるんだ、レン!! 貴様は奴隷で、ワシは支配人! つまり、貴様より偉いワシを出迎えるのは当然のことだ!」


「あー、来てたのかオッサン。だったらもっとマシな寝床と飯をくれよ。あと、新しい服がほしい」


「お、オッサン……?! 貴様と言うやつは、毎度毎度性懲りもなく! ワシはまだ25だ! オッサンではないと何度も言っているだろ!!!」


「鏡見てから言えよ」


 薄くなった頭と肥えた腹の間を何度か視線を行き来させながら、ケラケラと笑うレン。

 それに再び激昂し、地団駄を何度も踏むピーマ。

 そんな二人のやり取りを、怯えながら静観する奴隷たち。


「オッサンがいるってことは、いつものやつか。いいぜ、俺が志願するよ」


「フン、当たり前だ! 貴様のその生意気な態度、今日こそ後悔させてやるわ!!」


 ピーマはレンを牢屋から出すと、首輪に鎖を繋いで引っ張っていく。

 これからお仕置きと称した拷問が待ち構えているにも関わらず、レンは満足そうだった。


 それもそのはずで、レンのピーマを小ばかにした態度や昼寝なども全て、ピーマを怒らせるための演技。最も、その言葉は全て本音だったが。

 レンはいつもこうして、仲間達に危害が加えられない様に身を挺して守っていたのだ。


「おらっ! どうだっ! 痛いだろっ!」


 牢屋のある部屋を出てすぐにある隠し部屋内に移動したピーマは、持っていた鞭で何度も何度もレンの身体を打ちながら、なんとかレンから謝罪と後悔の言葉を引き出そうとしていた。


「ふんっ! なにもっ! いえんかっ!!」


 ピーマの鞭捌きは中々のもので、全て胸か腹部、太ももの辺りに命中させている。

 というのも、本来奴隷に対して仕置きを出来るのは罪を犯したときか、奴隷を買い取った主人のみ。

 奴隷商人であるピーマにその権利は無いのだ。

 だからこそ、パッと見では分からない洋服で隠れる部分のみを狙い、簡単には気付かれない様配慮していた。


 1時間ほどひたすら鞭で打ち続けたピーマは、肩で息をしながらレンを見やる。


「ふー、ふー。やはり何度やっても、人間を鞭で打つのはやめられんな。おっと、この程度でくたばっていないよな?」


 ぐったりした様子のレンの頬を軽く叩き、生きている事を確認したピーマはほっと胸を撫で下ろす。


「死なれては一大事だからな。今日はこのくらいにしといてやるか。これに懲りたら、二度とワシに逆らうんじゃないぞ? なんて、聞こえとらんか」


 高笑いをあげながら、部屋を後にするピーマ。

 その後ピーマの部下がレンを回収し、服を着せて牢屋に戻す。

 最初の頃は凄惨な状況に顔をしかめていた部下も、今ではすっかり慣れたもので、顔色1つ変える 事無く淡々と与えられた仕事を行う。

 彼らにとっては日課と言っていいほど、ありふれた光景と化していた。


「あぁ、レン! あんたって子はまた……!」


 血だらけの姿で戻ってきたレンに駆け寄る一人の女性。

 彼女はこの牢屋の中でみんなの母親的な存在、名をパプリ。


「ん……。姉ちゃんか……」


「待ってな、今治してやるからね。『治癒の光(ヒーリング)』」


「……ん、もう大丈夫。相変わらず姉ちゃんの魔法はすごいな。さんきゅ」


「いつもいつも、なんであんたは……」


 悲しそうな顔で涙を滲ませながら泣くまいと俯くパプリに、レンはかける言葉が見つからなかった―――。




早速評価を頂いてしまいました!

最初見たときは信じられず、二度見、三度見してしまいました・・・。

本当にありがとうございます!


さて、ねんどれ(この作品)ですが、ひとまず1話あたり2000文字前後で更新していこうかと思っています。

かみけせの更新を遅らせても意味がないので、合間合間に書け、かつある程度更新できるとなると最初はこれくらいかな・・・と。

あくまで目安なので、日によっては増えることもあるかもしれませんが、宜しくお願いします!

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