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35話 憎悪


 何も知らないくせに、他者の言葉を鵜呑みにして罵声を浴びせるやつらが憎い。

 自分の欲望のために他者を貶め、思い通りにならないからと平気で人を殺そうとしているやつらが憎い。

 それを見て歓声をあげているやつらが憎い。

 目に映る全てが憎いにくいニクイ…………。


 レンが憎悪に取り憑かれ、世界の全てに嫌気が差したとき。

 世界は停止し、気付けば一人ポツンと純白の世界に立っていた。辺り一面真っ白な、何も無い場所。

 しかしそれでも尚、レンの心は深くドス黒い憎悪に包まれていた。


 まるでその心が飛び出したかのように、白い地面に1つの黒い点が生まれ、やがてそれは徐々に大きくなるとせり上がり、人の形を成す。

 触れれば全てを飲み込みそうなほど黒いソレは、長い顎鬚をたくわえ背中は丸まり、まるで老人のような輪郭をしていた。何もかもが黒いため、表情はおろか顔の造詣すらわからないが。


 老人の形をした何かはゆっくりとレンの元へ近づくと、目の前でピタリと立ち止まる。


『やはりお主であってもこうなってしもうたか……。お主ならばもしやと……いや、これは儂らに課せられた宿命なのかもしれんのぅ。まぁ良いわい、お主とてこのまま黙って見ていることなぞ出来まい? 共に目の前のゴミを、世界を滅ぼそうぞ』


 そう語りかけると、溶けるようにレンの身体と一体化し同調する黒い何か。

 すると役目を終えたのか純白の世界は徐々に崩壊を始め、やがて崩れきると元いた世界へと戻る。


 静かだった世界が一転し、処刑人によって切り落とされた首がゴトリと床に転がると、その様子を見ていた民衆が一斉に歓声をあげた。

 ボスたちも一緒になって笑っていたが、先ほどまで地面に崩れ落ちていたレンが急に立ち上がった事でそちらに目をやると、部下に視線で合図し、こいつを大人しくさせておけと指示を出す。

 スキンヘッドの男はニヤニヤしながらレンの肩を掴むと、一発殴ろうと拳を振り上げた。


「誰が立ち上がって良いなんて言っ……ひぃっ」


 咄嗟に肩から手を離し、一歩二歩と後ずさるスキンヘッドの男。

 何をやっているんだこいつは? と呆れ顔を浮かべたこめかみに傷のある男は、やれやれと首を軽く振るとレンの胸ぐらを掴み自身の方へ向かせる。


「ったく、手間かけさせ……ひっ」


 こちらも同様に、突如として蛇に睨まれた蛙のように身を固まらせてしまった。

 違和感に気付いたボスがレンの元へと向かい、そしてレンの瞳を見た瞬間。自分が処刑台に固定され、今まさに首を落とされる瞬間だと錯覚するほど、色濃く自身の死を予感。

 それは部下たちも同様だったようで、ボスが崩れ落ちたのを皮切りに一様に声も出せずその場に尻餅をつく。


「な……なにが……」


 かろうじて声を発したボスをレンがジロリと睨み、ただ一言。


「耳障りだから喋るな」


 そう告げた途端、ボスと部下二人はガタガタと震えだした。

 レンが足で地面をトンと軽く一回叩くと、突如空間が裂け黒いローブ姿の骸骨が出現。骸骨が手をかざすと、袖口から黒い鎖が三人に向けてジャラジャラと音を立てながら伸びていき、首に巻きつく。

 そのまま三人を引きずりながら、骸骨は裂け目へと帰って行った。


 何事も無かったかのようにレンが人だかりとは反対へと歩き始めた頃。処刑台は先ほどとは違う意味で騒がしくなっていた。

 老年の男が罪人の首を晒すために持ち上げようと、転がった首に近づいたときに異変に気付いたからだ。


「ど、どうなっている?! こやつらはあの二人ではないぞ!!」


 そう声をあげ、慌てて処刑人たちが確認すると、そこにはなぜか()の首が二つ転がっていた。

 その動揺は民衆にも広がり、何が起きたのか解らない民はどうなっているんだと怒りを露に。

 老年の男は民に聞こえぬよう舌打ちすると、事実確認を速やかに行えと処刑人たちに命じ、民に向き直るとなんとか納得させるべく言い訳を始める。


 そんな中、レンは壁際でボーッと呆けて座っているフェルミとカティースの元へと近づき膝をつくと、空間の裂け目へと手を入れ大きな布を取り出し、ボロボロの衣服を隠すようソッと肩から身体全体を覆うように包んだ。

 

「少しだけ待っていてくれ。野暮用を済ませてくる」


 それだけ告げると立ち上がり、再び空間の裂け目へと手を入れると黒いローブと仮面を取り出す。

 ローブを羽織り、仮面をつけようとして止めたレンは、仮面を眺めた後手をかざし形を変える。ピエロのような道化を模した仮面から、顔面を覆い隠すためだけの無地に目元の部分だけ穴が開いた真っ白な仮面へと。仮面をつけた姿は、黒いローブも相まってまるで死神のよう。


 無言のまま空へ浮かび上がると、処刑台目掛けて飛んで行きゆっくりと降りていく。

 最初は突然の来訪者に怯えた民衆や老年の男だったが、処刑人と騎士が複数人がかりでレンを取り囲むと強気になったのか、やつらの仲間かと怒声を響かせ、老年の男もニヤリと笑う。


「飛んで火にいる夏の虫ってやつだな。()()()()に現れて、此度の奇怪な突如として罪人が逃亡した事実と無関係な訳があるまい? こやつを縛り上げて、絶対に何をしたのか吐かせるのだ!」


 そう騎士達に命令し、内心一安心した老年の男。

 公開処刑をするはずが、処刑の瞬間に罪人二名が突然消えたなど、誰が信じてくれようか。それがたとえ、民や騎士たちが同じ意見だったとしても、だ。皇帝の面子を潰した罪はそれほど重い。

 だが、こやつを犯人に、仮に違ったとしても犯人に仕立て上げさえすれば信憑性が増すし、極刑は免れるはず。そう思ったのだ。


 しかし、ここにいる全ての者が数の優位にかまけて忘れていた。

 来訪者がどこからどのように現れたのかという事を―――。

お久しぶりです。

リアルが忙しく、すっかり更新が空いてしまいました。

おそらくもう大丈夫……だと思うので、また少しずつ更新していきます。

宜しくお願いします。


そしてなんと!

リアルが慌しくなっている間に総合100ptを達成しました!!

小さな一歩かもしれませんが、初めての3桁に動揺が隠せません。

いつも本当にありがとうございます……!

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