33話 民の怒りの矛先
ボスが部屋から出て行って3時間ほど経っただろうか。
笑顔で戻ってくると、レンの身なりを少し整えるように指示を出し、手錠と目隠しをつけてではあるが、レンは久しぶりにこの部屋から外に連れ出された。
「オレ様はちゃんと約束を守る男だからよ」
そう言ってレンを馬車に乗せ、ガタガタと揺られること1時間と少し。停車すると目隠しを外して良いと言われ、降りるように言われた。
レンは外に出ると久しぶりの日光に眩しさを覚えながらも、眼前に飛び込んで来た光景は見慣れた皇都の街並み。自然と心は高揚し、期待に胸が膨らんだ。
本当に帰してくれるのかもしれない……! またみんなとの日々を過ごすことができるかもしれない!
そんな淡い幻想。だがすぐに、そうではないと気付かされる。
「お前に見せたいもんがあってな。帰すのはそれからだ」
とても嫌な雰囲気の笑顔だと感じたレンを気にする様子もなく、スタスタと街中を歩いていくボス。
レンの左右には部下の男がつき、逃げないよう目を光らせながらボスの後を追う。
あわよくばこの状況をおかしいと感じた住民が助けてくれないか、そんなことも考えたレン。
だがここでは奴隷制度が容認されていて、住民にも奴隷を利用したことがある人も多い。だからこそ、今のレンを見ても「奴隷なんだな」と、その程度の感情しか沸かない。
しばらく歩くとざわざわと辺りが騒がしくなり、やけに大きな人だかりが目に入る。
何かを取り囲むように集まった住民たちは、今か今かと嬉々に満ちた表情を浮かべていた。
「あんまり近づくとうるせぇからな、この辺で良いか。お前に見せたかったもんはアレだよ」
人だかりから少し後方に離れた場所に止まると、指をクイッと人だかりに向けて動かすボス。
「あれは……?」
「これから罪人の公開処刑が始まるんだよ。中々見れるもんじゃねぇから、見せてやろうと思ってな。優しいだろ?」
肩に手を置いてニコッと微笑むボスに、レンはなぜかとても嫌な感じを受けると共にどうしようもないほどの焦燥感に襲われる。なにか取り返しのつかないことが起こる、そんな嫌な予感。
チラリと処刑台を見れば、固定された二人の人間。顔には麻袋がかぶせられていて人相を見る事は出来ないが、体つきから女性であることは解る。
再びボスたちに視線を戻せば、これから起きることを考えての事なのか、ニヤニヤと笑みを浮かべながら楽しそうにしていた。
ただの嫌がらせであってくれ、そう強く願いながらジッとその時を待つレン。
そして処刑開始を告げる宣誓が、煌びやかなローブを纏った老年の男により行われた。
「皆のもの、大変長らくお待たせした。これより、罪人二名の処刑を執り行う!」
「「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」」
観衆が揃って声をあげて喜び、「早く殺せ!」とはやし立てる。
その声には怒気も少なからず含まれていることから、よほどの大罪人である事が伺えた。
「すでに知っている者も多いだろうが、改めてこやつらの仕出かした罪を読み上げる。皆のもの、心して聞くように!」
老年の男が羊皮紙を広げ読み始めると辺りがシンと静まり返り、こやつらは国庫から宝具を盗み出した盗賊だと語っている中、ボスはそれを無視してレンに声をかけ、裏事情を説明し始めた。
「あのオッサンはあぁ言っちゃいるが、実際はそんなんじゃねぇ。皇帝が欲したものを差し出せと言ったにもかかわらず、やつらはそれを拒んだ挙句に無理やり奪われぬようブツを隠しちまった……。躍起になった皇帝は部下に命じて身辺を徹底的に洗ったが、ついには見つからず。激昂した皇帝はなんとかやつらを消す理由を見つけ、同時に何か知ってるやつはさっさと教えないとお前も死ぬぞってアピールを兼ねることにしたってわけだ」
どうだ? 面白いだろ? とフッと鼻を鳴らして笑みを浮かべるボス。
「あぁ、ちなみに」
まだ何か続くのか? とレンがボスを見たとき。今まで見た中で一番嬉しそうに笑って言った。
「あいつらが消せるようになったのは、お前のお陰なんだぜ?」
ボスの言葉が良く理解できないレンは、必死に頭を巡らせるが答えは出ない。
そうこうしているうちに、老年の男の声が耳に入ってくる。
「この者達はそれだけに飽き足らず、かのモンスター襲撃事件に関与し街の民を危険に晒した挙句、賊を宮廷内に引き入れ皇帝陛下のお命を狙った大罪人。これが国家反逆者の顔である!!」
老年の男が民に向けて右手を大きく振りかざすと、後ろに控えていた処刑人たちがそれを合図に罪人二名にかぶせられた麻袋を外すと、民から驚きの声と共に落胆の声が広がった。
「あれ、フェルミ様とカティース様じゃ……」
「そんな、まさか騎士団のトップ二人が陛下のお命を狙うなんて……」
「私達を守ってくれるはずの騎士が、逆に命を脅かすなんて許せない!」
「そうだそうだ!」「絶対に許すな!」「一族郎党全てを根絶やせ!!」
民の声はすぐに怒りに包まれ、心無い言葉が二人を襲う。
予想もしていなかった事態にレンはただただ唖然し、放心状態となっていた―――。




