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2章 プロローグ


 暗くジメジメとした、洞穴の奥深く。

 台座のようなものが並ぶ祭壇の前に立つ、グレーのローブを羽織った人影。


「彼は自信満々でしたが、結果はどうなりますかねぇ」


 人影は1つしかなく、一見すると独り言にしか見えないその光景。

 しかし、まるでその声に呼応するかのように台座の上に突如として光の玉が出現し、ポウッと淡い青色に輝く。その青い玉が明滅すると、声が響いた。


『どうだろうなぁー、上手くいってもそれはそれでムカツクけどー』


「おや、貴女が反応するとは珍しい。どうです、経過は?」


『そろそろ寝てるのも飽きて来たからねー。気分転換みたいな? ボチボチって感じだけど、順調かな』


「それは良かった。では私は引き続き……おや?」


 人影が視線を移した先。

 青玉が浮かぶ台座とは別の台座から、光の玉が出現した。


『あれー? ずいぶんとお早いお帰りだったねー?』


『ええい、やかましい! クソ、あの忌々しい人間め!!』


 ()()に輝く玉は、何かを思い出しながらひどく激昂した様子で声を荒げる。

 

「その様子だと上手く行かなかったみたいですねぇ。仕込みは上々だったと思ったのですが」


『ふん、最低限の()()は構築できたわ』


「おや? それにしては不機嫌そうですね。運悪く()()とでも出合ってしまいましたか?」


『……』


『んー? まさかタダの人間にやられた……なんて面白いこと言わないよねー?』


 返事をしない紫の玉に、ローブ姿の人影は首を傾げた。

 しかしその中身は人の形をした半透明の何かで、輪郭はあるがぼやけており、その表情はうかがい知れない。

 人影は先ほどまでより僅かに声を低くしながら、疑問を呈す。


「身体を手にした貴方を相手に勝てる者など、そうはいないはずなんですが」


()()は……勇者ではない。だが出鱈目な強さなのは確かだ。ワシは勇者の卵か、それに近しい()()だと感じた。それと、主から聞いておらん宝具が存在したわ』


「ほう……? それはとても興味がありますねぇ」


『えー、あんたの勘違いとかじゃなくてー? 宝具とかそうそう増やされても困るんですけどー』


 一点して嬉々とした声音を放つ人影とは対照的に、青玉はとても不満そうだった。


『ワシの毒砲(ヴェノムシェル)を防ぐ防御力と、竜鱗ごと半身を吹き飛ばせる攻撃力を合わせ持ちながら、それがまだ途上の力だとしても……か?』


『ハァー?! そんな性質の悪いウソやめてよねー!!』


「1つお尋ねしたいのですが。その勇者の卵と思わしき人間が、その宝具を持っていたのですか? それとも、宝具使いと勇者の卵は別の人間ですか?」


『……別の人間だ』


「そうですか……。それは中々厄介な存在ですねぇ」


 紫色の玉の言葉で重苦しい雰囲気に包まれる中、ローブ姿の人影は音もなくスーっと際壇上に移動すると、まだ玉が出現していない台座のうちの1つをコンコンとノックした。


『……何用だ。余の眠りを妨げるなぞ、つまらん理由なら貴様とて殺すぞ』


「まぁそう怒らないでくださいよ。緊急事態なんですから」


『なに?』


 今度は赤色に輝く玉が出現し、寝起きのためか不機嫌そうな声と共に殺気を発していたが、人影の言葉に無言で状況を説明しろと圧力をかける。

 再度人影が紫玉の言葉を代弁し説明し終えると、大きく笑い声をあげた。


「今の内に消しておいた方が良い気もしますが、どうしましょうか?」


『ひとまず成り行きを見守っておけば良かろう。下手に刺激して感づかれても面倒な事この上ない』


『本当にそれで大丈夫なのかよー?!』


『人とは愚かな生き物よ。自身の欲を満たすためならば平然と他者を蹴落とし、嬲り、あざ笑う。それらはやがて善を悪へと塗りつぶし、心地良い怒りや悲しみを生むだろう。そうして出来る歪みは次第に大きくなり、自身すらも飲み込みながら成長していく。これほど見ていて愉快なものはない。余らが何もせずとも、勝手に滅びを選択する可能性すらある』


『あー、確かになー。自分達は最も賢い生き物だーとか言いながら、一番醜いの面白すぎるよねー』


『ワシもそれには同感だがな。だが、あの人間は間違いなくワシらの障害となり得るぞ?』


「どちらにせよ、今まで以上に()()()をしておく必要がありそうですねぇ」


 会話がひと段落したところで赤玉が『もう良いだろう』と消え、人影はこの場を去ろうと出口に向かって移動し始めた。青玉と紫玉も両者だけで会話をする気は無いらしく、改めて眠りにつくためにフッと掻き消える。

 それを見計らったかのように赤玉が再び出現すると、人影に声をかけた。


『フィミスト、白いのはどうなっている?』


 人影は移動をやめると、祭壇に向き直る。


「おや? 彼女なら滞りなく順調に育っていますよ。直に飲み込み、器として大成するでしょう」


『そうか……。ならば良い』


「そうですか? では、これで」


 再び出口へと移動を始めたフィミストと呼ばれた人影の背に、赤玉は戒めるように言葉を投げかけた。


『……先ほどはやつらの手前ああ言いはしたが。人間は自分達で生み出した闇の中から、光を生み出す勝手な生き物だ。そしてその輝きは非情に強く、厄介でしかない。その辺りは十分注意しろ。と余がわざわざ言わなくても、貴様なら十分に理解していることだったか』


「ええ、それはもう嫌と言うほど痛感させられていますからね。ですが、生まれた光が強ければ強いほど、それが砕け散ったときの反動が大きいのも事実。貴方方には期待していますよ」


 不敵にそう言い残すと、今度こそ人影は洞窟へと消えていった―――。

すっかり遅くなってしまいすみません!

2章始まります!!

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