30話 連行
モンスター襲撃事件から時は過ぎ、3日が経った昼下がり。
ようやく大まかな被害状況の確認やモンスター、人の死体の回収が済み、皇都の人々は落ち着きを取り戻しつつあった。
幸いな事に皇都への人的被害も物的被害も0。
しかし騎士や傭兵、志願兵から死者が出たことから、今日は皇国主催の追悼式典が南の平野にて行われていた。
「本日は良い天気に恵まれ、本当に良かった。ここで無念にも散っていった253名の誇り高き戦士たちが道に迷わぬよう、どうか神のお導きがあらん事を。今後はこのような悲劇が起きぬよう、我がザベルス皇国は全力を持って軍事強化に当たり、必ずやモンスターたちに遅れを取らぬことをここに誓う!」
「「「「「「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」」
ザベルス皇国皇帝、ラッセル・ヌイ・ザベルス4世の演説に、参列した皇都の民は大いに声をあげた。
その様子を内心で小ばかにしながら、悟られぬよう笑顔で手を振り応える。
実はここに参列しているものの多くは、今回の事件で亡くなった者の遺族達ではない。
そのほとんどがモンスターの素材を売買している者や、武具店の関係者がほとんど。
というのも、名前こそ追悼式典となっているが、その実態は皇帝に媚を売りたいものが接点を持てる可能性を求めてやってきている形だけの式典なのだ。
死者のほとんどは傭兵であり、その日その日に命をかける彼らにとって死とは常に隣り合わせ。その家族も覚悟を決めている。
それは当然ながら皇国側も把握しているが、皇国側からしても媚を売ってくる連中というのは相応の賄賂や貢物を献上してくれる美味しい存在であり、追悼という名目で開かれる式典ならば抗議の声も撥ね退けられる最高の場。
故に、こんなにつまらない場所などと思いつつ、わざわざ皇帝自身が参加しているのだ。
その後日が暮れるまで続いた式典は、予想していた以上の賄賂と共にもたらされた、思いがけない情報を得て終了した。
宮廷に戻るとすぐさま事実確認とより詳しい調査を急ぐよう部下に厳命した皇帝は、輝かしい未来を妄想すると大きな声で高笑いをあげる
皇帝から話を聞いた宰相も、口角を吊り上げ一緒に笑っていた―――。
◇
追悼式典から4日後。奴隷として夕方の仕事を終えたレンは牢屋に戻された。
いつもならフェルミが来ていてもおかしくないのだが、今日はその姿が見当たらない。
レンとしては、こいつは一体いつ騎士団の仕事をしてるんだ? と常々思っていたので、これが普通の光景だろう、そんな程度にしか思っていなかった。
あの一件の後、一度だけカティースがフェルミについて来たこともあり、団長様まで……と頭を抱えたピーマはレン達最下級奴隷の身だしなみだけでも少しは整えようと、水浴びの回数を増やし衣類も新調。
僅かにではあるが衛生環境が良くなったことに、レンは内心喜んでいた。
この状況が維持されるなら、みんなもいるしさほど劣悪な境遇でもないかな、なんて考えていた矢先。
能力の代価として差し出した運によるものなのか、はたまた自身の選択による因果なのか。
唐突にその日常は崩れ去る事になった。
レンが戻ってから10数分でパプリも仕事を終え戻り、他の者がまだ戻らないため珍しく牢屋には二人だけ。
ほとんどと言って良いほど無いその状況に、なぜか二人は緊張した面持ちでお互いにどこか挙動不審。
誰かがその光景を目にすれば、青春ですね。なんて言いたくなるほど、夕陽の淡いオレンジ色が照らす室内も相まって良い雰囲気。
「その……レン、今日で15歳になったんだね。おめでとう」
「あ、ああ……。ありがとう」
「あ、あのさっ……」
何かを伝えようと声を振り絞ったパプリ。
しかし、ギーと重苦しい音を立てて開いた扉、現れた騎士姿の見慣れない男といつにも増して汗をダラダラとかいたピーマ。
突然の来訪者により、一瞬で甘い雰囲気は霧散し、パプリの言葉も遮られてしまう。
「貴様が近衛騎士団団長、カティース・レイズリック及び三番隊隊長フェルミ・グローレスと懇意にしているという奴隷で間違いないな?」
開口一番、高圧的な態度でレンを見据えたままそう告げる男。
当の本人はそんな事を気にする様子もなく、かといって返事をする事もない。
レンの態度に苛立ちを覚えた男は大きく舌打ちをすると、ピーマをギロリと睨む。
「おい、あいつで間違いないな?」
「ひっ。そ、その通りです。あいつがフェルミ様が良く会いにいらっしゃる、レンという者です!」
騎士の眼光に怯えたピーマは、怯えながらまるで懇願するように質問に答える。
二人の様子を見て、レンはそれなりに偉いやつかその使いだと見当をつけた。その予想は見事に的中。
「皇帝陛下の命により、貴様を連行する。大人しく……ん? お前の顔どこかで……。女、名はなんと言う」
ふとレンの隣にいたパプリを見た男が何か気にかかる事でもあったのか、自身の記憶を探る仕草を見せてから、思い出せなかったのか直接本人に問う。
なぜかパプリではなく、ピーマが慌てた様子でそれに答えた。
「マロル様、その女はパプリという名のただの奴隷ですが、どうかされましたか?」
「パプリ……。知らぬ名だ、気のせいだろう。俺はこいつを連れて失礼するが、くれぐれもこの事は他言無用にな。さもなければわかっているな?」
再びピーマを一睨みすると、威圧を込めた声音でそう告げ、手錠をつけられたレンを連れて部屋を出て行くマロルと呼ばれた騎士。
突然のことに呆然としたまま、パプリは何事も無い事を祈り見送ることしか出来なかった。
部屋を出ると正面口ではなく、関係者用の裏口から奴隷商館を後にする。
既に日が落ちた暗い路地の中、すぐさま馬車に乗せられること30分ほど。
「止めろ」
御者に命令して馬車を止めると、レンを降ろしたマロルは首元に手刀を放つ。
反応できなかったレンは薄れゆく意識の中、嫌らしい笑みを浮かべるマロルの顔を見た。
「さようなら、ゴミくず」
かろうじて聞き取れたその言葉を最後に、レンの目の前は真っ暗になった―――。
これにて1章は終了です……!
この後エピローグを挟み、2章開始です。
エピローグは日曜日に投稿予定です。
宜しくお願いします!




