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2話 あっさり死んだその後


「ん……。ここはどこだ?なんで俺はこんなところに……」


 男は目が覚めると、辺りを見渡した。

 だだっ広く、色の無い部屋。

 置かれている物も、壁も、何もかもが真っ白。

 本来在るであろう影も存在せず、不思議な空間だった。


 一先ずその場に座り込み、胡坐をかきながら自分がどうしてここにいるのか思い出そうと必死に頭を回転させる。

 確か、女の子を助けようとして飛び出して、それから……。

 ん? もしかしてもしかすると、俺は死んだのか?

 つ、つまり俺の力は目覚めなかった訳か! ったく、一体どんな状況なら俺の隠された力は発現するんだか。


 そんな事を考えていると、不意に扉が開いた。


「お、目覚めたようだな。どうだ、頭は混乱してねぇか?」


 部屋に入ってきたのは、坊主頭の厳つい中年の男。

 サングラスをかけ、プロレスラーかと聞きたくなるほどに発達した筋肉も相まって、男にはどう見てもヤ○ザにしか思えなかった。


「あの、俺はこれからどこに売られるんですか……?」


 恐る恐る男がそう尋ねると、部屋中に響くほどの大声量で笑われた。


「おい、オレをヤ○ザかなんかと勘違いしてねぇか? これでもオレぁ神だぜ?」


「……は?」


 思いがけない発言に、思わず素っ頓狂な声を出してしまった事に気付き、慌てて口を手で塞ぐ男。

 そんな事を気にそぶりも見せない神は、状況を説明し始めた。


「オレはここで神をやってる、ゼデイドってモンだ。まずはお前に礼を言わなきゃならねぇな。雫を救ってくれてありがとよ」


「雫……?」


「お前が身を挺して守ってくれたろ?」


「あぁ、あの子か……。それで、俺は死んでここにいるってことか」


「まぁその通りだな。えっとなんて言ったか……。そうそう、宝條ほうじょう れん


「なんで俺の名前を……」


 訝しむ煉に、再び神は大きな声で笑った。


「おいおい、オレは神だって言ったろ? 下界に住むモンの情報なんか、生まれから好みまで、知りたいことなんざ全部調べられるに決まってんだろ」


「……まじかよ! モノホンの神様?! ってことはなに、やっぱ俺って選ばれた存在とかそんなオチなの?!」


「あー……。なんか期待してるところ悪いが、お前は至って普通の人間というか、お前らの世界に関してはオレたち神界はほとんど干渉していない。つまり、選ばれた存在なんて端からいないんだよ。あと一応、お前のために言っておくんだが……。当然ながら、隠された力とやらもないからな?」


「そ、そんな……」


 煉は膝から崩れ落ち、この世の終わりとでも言わんばかりに落ち込んだ。

 それはもう、傍から見れば思わず同情してしまいたくなるほどに暗い雰囲気を纏いながら。


「あー、まぁなんだ。お前には言葉だけでなく、何か形として礼をしたいと思っていたんだわ。そこで、どうだ? 憧れだった異世界転生、してみねぇか?」


「な?!」


 一瞬で起き上がり、目を輝かせて自身を見る煉に若干引く神ゼデイド。

 そんな事はお構いなしに、煉はまくしたてる。


「まじかよ! 俺が異世界転生! 夢じゃないんだよな?! いや、夢で終わらせねぇ!! 俺は異世界にいって、英雄になるんだ!!」


「喜んでるところ悪いんだが……」


 ゼデイドはバツが悪そうに、頬をかきながら煉を見た。


「異世界転生はさせてやれるが、生まれや能力なんかは完全にランダムだ。お前が望むように英雄になれる可能性も0じゃあないが、限りなく低いと言わざるを得ないぞ……?」


「んな……?! そんなばかな……!!! 異世界転生といえば、チート能力が定番だろ?!」


 再び愕然とする煉を励ますように、神は肩を叩いた。


「元気出せよ。良いじゃねぇか、夢だったんだろ? 異世界転生。お前が転生する世界には、魔法はもちろん色んなものがあるぜ? 記憶だけは残して転生させてやっから、新しい人生を桜花してみろよ」


「ダメだ! それじゃぁダメなんだ!! 異世界に行きたかったのは確かだけど、それはチート能力あってこそなんだよ! 弱いまんまじゃ、結局また失うだけじゃないか!!」


 煉の鬼気迫る様相に、神は思わず腕を組んで悩んだ。


 さて、どうしたもんかねぇ……。

 あんまり特別扱いするのも部下にどやされそうだし、かといって雫の恩人にここまで言われて無碍にすんのもなぁ……。


 ゼデイドはひとまず、本人に聞いてみる事にした。

 神である彼なら心を読むことも簡単なのだが、筋が通らないことが嫌いな神は無闇に力を行使しないのだ。


「なんでお前はそこまで強さに拘る? そんなに持て囃されたいのか?」


「別に持て囃されたい訳じゃない。もう目の前で誰かを失うのは……。大切な人がいなくなるのはいやなんだ!」


 そういえば情報に、両親が押し入った強盗に殺害されたとあったな……。

 確か隣に住む家と合同パーティの準備中に起こった事件だったはずだ。

 死者は4名。いずれも両親が必死の抵抗をして、家にいた子供達3人だけは守りぬいた。

 どっちの家の父親も警察官であり、体術などの心得もあったのに死んだ。

 なるほど、それで理不尽な力に打ち勝つための()()を求めている訳か。

 ったく、仕方ねぇな。


 内心で大きなため息をつきながら、ゼデイドも子を持つ身として他人事とは思えなかった。

 雫があそこで誘拐されていたら、自分は果たして今のままでいられただろうか。

 もしも自分が非力な人の身であったなら、圧倒的な力を求めただろう、と。


「お前の気持ちは良くわかった。今回だけは特例で、お前が望む様に英雄の素質を持たせて転生させてやっても良い」


「マジで?!」


「ああ。だが、本来であれば自然に任せるところを任意に選択しようというんだ。当然ながら制約がかかる」


「制約……?」


「例えば、魔法使いとしての才能が欲しいとしよう。その才能を授けるためには、剣士としての才能を捨ててもらうほか無い。つまり、代価の様なものだな」


 なるほど、と顎に手を置き悩む煉。

 しばらく考え込んだ彼は、さも当然の様に笑顔でとんでもない事を言い放った。


「全部ほしい! 魔法も剣も、どっちかじゃいやだ!」


「……はぁ?!」


 思いがけない煉の返事に、今度はゼデイドが素っ頓狂な声をあげた。


「魔法だけでも、剣だけでも守れないものがあるはずなんだ。だからどっちかじゃダメなんだよ!」


「はぁ、お前ってやつは一体どんな状況を想像してんだよ……」


「俺は目の前の大切なものを守りぬける、そんな英雄になりたい」


 真剣な顔つきでそう願う少年の眼は、とても強い光を帯びていた。

 そこまでの思いがあるなら、あえてギャンブルしてみるのも良いかもしれない。

 ゼデイドはそう思って、とある提案をする。


「わーったわーった。なら、これはどうだ? お前には力を行使するための誓約と、運を代価にしてもらう。その代わり、与える才能はお前の思いに応じて柔軟に対応できるようにする。どうだ?」


「それで、俺が守りたいと思ったものを守れるのか?」


「お前次第だな。全てはお前の心と、覚悟で決まる」


 煉は一度天を仰ぐと、ゼデイドと目を合わせ、拳を強く握り締めながら決意を口にした。


「……わかった。それで俺が、俺の周りの人が、大切な人が悲しまずに済むのなら。俺は全てを望む」


「くくっ、そうかい。ならオレは止めねぇよ。但し、十分に覚悟しろよ? お前が引き換えに差し出すもの、その重さを。並大抵じゃあ何もできずに終わるのがオチだぜ」


「それは承知の上さ。何もせずに力を得ようとしているんだ、無条件タダではもらえないよ」


「殊勝な心がけだな。ならばお前を異世界へと転生させよう。性別くらいなら選ばせてやるが、どうする?」


「男のままで。今の記憶があるのに、女になんてなれないだろ!」


「まぁ確かにそうか。それに女の身体を知らずにってのもアレだもんな?」


「な?! そ、そんなことねぇし?!」


 思わず顔を真っ赤にして照れる煉を、ケラケラとゼデイドが笑いながら頭を撫でた。


「生前、お前はまだ16だった。そして新しい世界では、0からのスタート。お前が生きてきた中で知ったであろう困難も苦痛も、絶望もそれ以上のものを味わう事になるだろう。だが、心を強く持て。そして今のままの、優しいお前でいろ」


「わかりました。わがままを聞いてもらって、ありがとうございました!」


「お、おお。なんだ突然……」


 煉が突然礼儀正しくお辞儀をしたことに面食らったゼデイド。

 自分が神だと名乗ったときですら、態度を変える事がなかったものだから、その驚きは余計に大きかった。


「もう会える事は無いと思うから、最後くらいきちんとお礼を伝えとこうと思って」


「かっ、くそ生意気なガキだぜ。なに、気にすんな。オレにはお前が思ってる以上に、恩がある。お前が雫を助けてくれなかったら、今頃オレは下界を滅ぼしてたかもしれねぇ。ある意味お前は、世界を救った英雄なんだぜ」


「俺が……。そっか、なんだか自信がついた」


 自分の掌を見つめ、嬉しそうにグッと握り締める煉。

 だが、ふと何かを思い出した様にゼデイドに尋ねた。


「そういえば、今日は何か大切な用事でもあったの?」


「ン? まぁあるにはあったが、なんでだ?」


「そこまで大切に思っている子なら、危険が迫らないようにしてるんだろうなと思ってさ。でも今日はそれがなかったみたいだから、それほど重要な何かがあったのかと思って」


「さすが異界に憧れるだけあって、その辺はお手のものか。お前の予想通り、普段は俺が周囲に危険や悪意を持つものが近づけば反応する結界のようなものを張っている。ただ、今日は異界の様子を見に行く事になっててな。さすがに別世界から力を使うと影響が大きすぎるから、代役を頼んでおいたんだが……。どうもかける結界を間違えてたようで、反応しなかったんだわ」


「へー……。その代役を頼んだ人には何か罰則とかるの?」


「いや、ねぇな。オレの都合で頼んだのに、ミスったからって罰を与えるわけにはいかねぇだろ?」


 ふーんと言いつつ、首を傾げる煉。

 そんな姿に疑問を頂いたゼデイドは、軽い気持ちで尋ねてみた。


「なんか気にかかることでもあんのか?」


「本当にその代役の人は、間違えたのかなと思ってさ」


「なに?! てめぇ、レゼアンの事をバカにしてんのか?!」


 煉の胸ぐらを掴んで激昂するゼデイド。

 その怒りだけで周囲には亀裂が走り、室内であるにも関わらず突風が吹き荒れる。

 普段なら怯えていたはずの煉は、強い眼差しでゼデイドを見つめていた。

 煉の真剣な眼差しに、自分がカッとなっている事に気付いたゼデイドはハッとして手を離した。


「す、すまねぇ。だが、レゼアンはお前が生まれるずっと前からオレの側近として仕え、オレを支え、励まし、応援し、時には叱咤してくれる。そんな頼れるヤツなんだよ」


「……そうなんですか。良く知りもせずにおかしなことを言ってすみませんでした」


深く頭を下げ、謝罪する煉。

だが、その表情は一切変わる事無く、言葉だけの謝罪である事が明白だった。


「知っている事を教えろ。話はそれからだ」


 ゼデイドはドカッと地面に座り込むと、サングラスを取り真面目な顔でそう次げる。

 煉も座り込むと、ゆっくりと話し始めた。


「雫を誘拐しようとしていた男が、俺に言ったんだ。今のタイミングだけが、雫を攫えるチャンスだったって。つまり、あの時に結界の効き目が無い事を事前に知らされていたって事だろ?」


「……そう考えるのが道理だろうな」


「と言う事は、内通者がいたってこと。そして代役になったレゼアンさんは、事情があったのかもしれないけれど、少なくとも協力したって事になる」


 俯き大きなため息を吐くと、ゼデイドは鋭い眼光で煉を睨みながら尋ねる。


「お前が言ったことに間違いも、嘘偽りもないな?」


「無い」


「……そうか。すまねぇな、オレは今お前に真偽の眼を使った。嘘偽りが無い事もわかった」


「……じゃぁ」


「ああ。どうやらオレも一度、真剣に調べなきゃならねぇようだ」


 ゼデイドは立ち上がると壁の方へ歩いていき、拳を振りかぶると大きく振りぬく。

 殴られた壁は塵となり消えた。


「……ふぅ。お前の新たな門出だっつーのに、わりぃな。他に何も無ければ、そろそろお前を転生させようと思うんだがどうだ?」


「もう何もないから大丈夫。なんだか厄介な事を持ち込んだみたいで、自分だけ異世界にいくのは気が引けるけど」


「何言ってやがる。もともとお前には無関係の事だったんだ、雫を助けてもらっただけで十分さ」


 ゼデイドが笑顔で拳を突き出すと、煉はキョトンとした。


「こーゆーときは、拳を合わせて送り出すんだよ。おら、手だせ」


 良くわからないまま煉が手を突き出すと、ゼデイドが自分の拳を打ちつける。

 先ほどの光景を見ていただけに、思わず自分の手を確認する煉。

 ゼデイドはそんな煉を見て笑いながら、背中をドンと叩く。


「力加減くらいできらぁ! 安心しろ、なんともねぇよ」


「よ、よかった……」


「さぁ、そろそろお別れの時間だ。一度は英雄になったんだ、簡単にくたばるんじゃねぇぞ?」


「もちろんさ!俺は絶対に大切な人達を守りぬく!」


 二人はもう一度拳をあわせると、ゼデイドが指を鳴らす。

 すると部屋の一角の空間が歪み、ゲートが出来上がる。


「そこを潜れば異世界だ。頑張れよ、煉」


「ああ! たまには俺の勇士を見てくれよな!」


 勢いよく駆け出し、ゲートに飛び込むと煉の視界は真っ暗になった。

 上も下も無い真っ暗闇を、しばらく漂う。

 不意に浮遊感が襲い、直後一筋の光が煉を照らした。

 その光に誘われる様に、煉の身体は光の中へと消えていった―――。




前置きが随分と長くなってしまいましたが、3話より本格的に異世界でのお話となります。

遅くとも明日の20時ごろまでには投稿します。

宜しくお願いします!

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