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25話 竜の置き土産



 ドラゴンがやってやったわ!と思ったのも束の間。

 視線を落とせば先ほどとなんら変わりない人間が視界に入り、自身の腕が()()に阻まれていることに気付く。

 

『これは……防護壁か? そんな馬鹿な……!』


 信じられない、信じたくないと何度も腕を振り球弾を放ち、尾でなぎ払い噛み付いてもビクともしない防護壁を前に、逆にドラゴンの牙や爪が耐えられずにひび割れる。


『なんだこれは……こんな事がありえるハズが……』


「満足したか?」


 いつの間にかすぐ近くに立っていた男がそう告げると、ドラゴンは心の底からこの人間にはどう足掻いても勝てないという、生まれて初めてと言っていいほどの敗北感を味わった。

 だが当然ながら、絶対的な強者として君臨すべき竜の一端であるという矜持プライドが、本能がそれを認めることを許さず、そんなことを僅かでも自身に思わせた元凶である男に対して、深い憎悪にかられ目を血走らせる。


『矮小な存在である人間如きがワシに……!! 死を持って償え、愚か者がァァア!!』


 激昂し我を忘れたドラゴンの攻撃は大振りで、受け止めるまでもないと判断した男は腕をサッと交わすと懐に潜り込み蹴り上げると、鱗が割れる音が響き大きな身体が宙に浮く。

 そこへ追い討ちをかけるように魔法を展開、火の矢がドラゴンへ向けて幾多も飛んでいき、その全てが鱗が剥がれてむき出しになった皮膚へと命中。

 苦しそうなうめき声をあげたドラゴンだったが、上空に突如出現した男に再び蹴り飛ばされ地面へと墜落させられた。


『ガァァアアアアア!! 今のは転移魔法か?! 魔術書スクロールはおろか詠唱すらしていなかったではないか!! なんなのだお前は!!!』


 地面から這いずり出ながら、理解できない事が多すぎるためか困惑と怒りをない交ぜにしながら叫ぶ。


「おー、やっぱタフだな。よくわからんが、別にこれくらい普通に出来るんじゃないのか?」


『転移魔法は中級魔法だ! 人間では下級魔法までしか詠唱破棄はできんはず! お前は本当に人間なのか?!』


「と言われてもなぁ……。至って普通の人間だよ」


『なんてふざけた存在なのだ……!!』


 会話をしている間に傷は癒えたものの、圧倒的な力の差と底の見えない男を前に動揺を禁じえないドラゴンは、頭では早く動けと命じるも身体は言う事を聞かず、相反する命令が下された身体は硬直。

 そこへ男はすかさず手をかざすと魔法で石の槍をいくつも生成し、楔のようにドラゴンを地面へと固定した。


「これで少しは楽できるな。狙いが()()()()()動くから面倒だったんだよな」


『な?! お、お前今なんと言った……?』


 先ほどまでの余裕が一瞬で消え、あからさまに動揺したその姿に男は疑念が確信に変わったのか、ゆっくりとドラゴンへ近づくと身体の一部を指差す。

 何かを辿るように指を動かし続けると、益々ドラゴンは驚いた様子を浮かべた。


「やっぱ()()か。妙な気配はするし、やけに中で動き回るから変だとは思ってたんだよ」


『ありえんだろう……?! 探そうとして見つかるものでもなく、ましてや外部から察知するなど不可能なハズだ!!』


「と言われてもなぁ、お前が特別わかりやすいんじゃね?」


『そんなことあるはずなかろう!! 忌々しい存在め、お前のことは決して忘れんぞ!!』


 憎悪に満ちた目で男を睨みつけ、復讐の炎をその瞳に宿すドラゴンへ一瞥すると、男は手刀を放つ。

 体内へ深々と突き刺さった腕は狙いを外さず見事命中し、腕が引き抜かれるとドラゴンは最後の力を振り絞って断末魔の叫びを上げた。


『クク……ク……。これでここへは、大量のモンスターが押し寄せる……。果たしてお前一人でまもりきれ…る……か………』


 呪詛を囁くように低い声音で弱々しくそう呟きながら、ドラゴンは絶命。

 それと同時に肉体はドロドロと溶け出し始め、骨の一片すら残す事無く跡形もなくなった。

 後には融解時に発生した瘴気と汚染された大地だけが残り、放っておけば生物は近寄れず草一本生えぬ不毛の地と化すだろう。


「やれやれ、とんだ置き土産を残していってくれたもんだな……。やっぱアレが邪竜ってやつなのか?」


 などとぼやきながら、男は荒地に手をつくと魔法を唱えて瘴気を取り払い、汚染された大地を元の状態よりもむしろ良くなったと言っていいほどの綺麗な土へと浄化。

 戦闘で出来たクレーターを修復し、草や花を魔法で生やすと草原は元の姿を取り戻した。

 作業が終わっても一向にやって来る気配の無いモンスターの群れに、男は先ほど倒してきたモンスター達を思い出す。


「ま、こんなもんか。あいつが言ってた群れってのは別働隊のことを言ってたっぽいな。そんでそろそろあの二人を起こして戻らないとまずい」


 焦った様子で転移すると、治癒魔法をかけてからそっと肩を揺らして二人を起こす。


「ん……。 はっ?! ドラゴンはどうなった?!」


「っ! 私としたことが! ドラゴンとはまだ……え?」


 慌てて飛び起きた二人だったが、徐々に頭が働いてきて冷静さを取り戻すと、目の前に広がる穏やかな光景に唖然。


「おはよ。ドラゴンならもう倒したよ。ていうか怒られるからさ、早く帰ろうぜ」


 黒いローブ姿をした男の気の抜けた発言に、フェルミは苦笑いを浮かべながらもどこか嬉しそうにし、カティースは理解が追いつかず目を丸くした―――。

いつもお読み頂きありがとうございます。


明記していませんでしたが、近々1章が終わる予定です。

その前に一度、1章のプロローグに当たる部分を追加できたらな、と思っています。

追加できた際には活動報告やTwitterなどで報告しますので、良ければ読んで頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします!

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