22話 解放<リベレイト>
『やれやれ、お主は阿呆なのか勇敢なのか良くわからんな……。そこを見てみるが良い』
弾かれた球体が当たった地点を促されて見てみれば、草や花はおろか土までも腐り、ボコッボコッと不気味な音を立てながら泡だっていた。
「これは……腐敗しているのか……?」
『その通りだ。あやつの放つブレスや球弾はおろか、爪や牙などの攻撃を食らっても腐る。それほどあやつの持つ毒は有害だという事だな。それを生身で受けようなどと……』
「うぐっ……」
『やれやれ、もう少し慎重に動いてほしいものだな。これでは我が精神的疲労で倒れてしまうかもしれん』
「き、気をつけます……」
『解れば良い。それより、あやつも今のでかなり本気になったようだぞ。この娘は我がなんとかしてやるから、お主はあやつに集中して倒せ』
「わかった! ふふ、なんだかレンが一緒に戦ってくれているような……そんな安心感を覚えるぞ」
切迫した緊張感から開放されたのか、フェルミはいつもの落ち着きを取り戻すと笑みを浮かべた。
龍騎盾はやれやれとため息をついてはいるが、それでもその言葉に満更でもなさそうな雰囲気をかもし出している。
そんな一人と盾を呆然と眺めていたカティースは、自身の中に少しだけ湧き上がった生への希望に驚き、少しではあるがいつもの余裕が戻ってくるのを感じていた。
「大した役には立てないでしょうけど、私も……援護しますわ。前はお願いします、フェルミ」
「ありがとうございます、団長。心強いです!」
お礼を言うのも、心強いのも自分のほうなのに……。
カティースはそう言い掛けてから、口を開くのをやめた。
これはここを無事に切り抜けられたら伝えよう、そう思ったから。
『来るぞ』
龍騎盾の合図と共にドラゴンが上空へ飛び上がり、先ほどよりも二回り…否、三回りは大きい球弾を放つ。
二人は防御できないと悟るや目配せで意思疎通、同時に背後に大きく飛びのき回避。
着地してすぐにカティースが魔法を同時展開し牽制と目くらましで時間を稼いだ隙に、フェルミが懐に飛び込み前足目掛けて剣を振るった。
しかしカキーンという金属同士がぶつかり合うような音が響き、僅かに傷がつく程度で切り落とすことは出来ない。
すぐに距離を取りカティースと合流すると、油断なく盾ごしにドラゴンを見据える。
『お前らのような虫けらがワシにたてつき、挙句傷をつけただと……?! 許さん! 絶対に許さんぞォォオオ!!』
激昂したドラゴンは、身体を震わせながら空へと大きな咆哮を上げた。
それだけで大気がビリビリと振動し、力の弱いものならこれだけで気を失いそうなほどの威圧が二人を襲う。
それでも二人の瞳から戦う意思の灯火は消えることはなく、その事実がさらにドラゴンを苛立たせる。
『お前らは簡単には死なせん! 足の先から徐々に腐敗させ、激痛を味あわせながら時間をたっぷりかけて苦悶の中で殺してやるわ!!』
怒りの形相で向かってくるドラゴンを前に、落ち着いた声音で龍騎盾はフェルミに声をかけた。
『ふむ、火力が足りんか。そろそろ頃合だし丁度良いな。契約者よ、次にあやつの攻撃を我で受けたら隙を見て肉薄し、『解放』と唱えろ』
「……? わかった!」
球弾などの遠距離攻撃は宙に浮いている盾が自動でガードしてくれるので、フェルミは近接攻撃に備えて剣を仕舞い、両手で盾を持つと些細な動きも見逃すまいと意識を研ぎ澄ませる。
心に余裕の生まれた現在のフェルミの集中力は並外れたものがあり、それは一種の領域に至っていた。
自信の知覚できる範囲内ならば、たとえ視認できない場所の事柄すら把握できるほどに。
いかにドラゴンと言えどこの領域を突破するのは容易ではなく、振りかざした爪も牙も尾も、その全てをことごとく防がれると怒りからどんどんと攻撃が大振りになり、その隙を見逃さなかったカティースの魔法により足元の地面を崩され僅かにではあるが身体がよろけた。
そこへすかさずフェルミが近寄り、『解放』と唱えるや否や、手に持つ盾が白く輝くと同時に光の閃光がドラゴンを穿つ。
「なななな、なんだこれはぁぁあああ?!?!?!」
盾の所有者であるはずの本人が一番驚き、思わず盾を手放しそうになったのをなんとか耐える。
「聞いてないぞこれ?! ていうかいつまで続くんだ?!」
止まることを知らない閃光は20秒ほど光を放ち続け、ようやく止まる頃にはドラゴンの半身は消え去り、上空へと突き抜けたせいか雲も吹き飛んだ。
『む? 思ったよりも溜まっていたようだな。これなら調節しても良かったか……』
「どどどどどど、どういうことだ?!」
うろたえるフェルミ、理解が追いつかずに立ち尽くすカティース。
そんな二人にやれやれと大きく息を吐き出す龍騎盾。
『なに、これは……ほう?』
言葉を止める龍騎盾をいぶかしみ、フェルミが周囲を見るとすぐに異変に気付いた。
半身が吹き飛んだはずのドラゴンの身体がビクビクと震え、断面からボコボコと肉が盛り上がり形を成していく。
瞬く間に元の姿を取り戻すとその目に光が点り、直後大きく距離を取った。
その動きに衰えは見られず、見事に完全復活を果たしたという事実を二人は嫌でも理解させられる事となる―――。




