21話 下級
「貴女、どうしてここに……。それに、今の攻撃を防げたの……?!」
「なんとか、と言う所ですけどね。それよりも、まずはここをどう切り抜けるか考えましょう!」
フェルミは盾を構えたままそう提案したが、当のカティースはフェルミ程度の実力じゃいてもいなくても結果は変わらない、自分達はここで殺されるのだと完全に諦めきっていた。
俯くばかりで返事すらしない事を不思議に思いながらも、あの団長がそんな考えに至っているなどとは夢にも思わないフェルミは、ダメージのせいだと判断。
眼前に佇むドラゴンは先ほどの複合型などとは比較にならないほどの強敵なのだと再認識し、盾を持つ手によりグッと力を込めた。
『ククク……クァーハッハッハ!! 面白いな人間! その盾はなんだ?! 宝具の類か?!』
大きく声をあげて笑うと、フェルミの持つ盾を一睨みしたドラゴンが興味深そうに問う。
その眼からは好奇心だけでなく、わずかに敵対心も垣間見える事から、ドラゴンにとってもこの盾の存在感は見過ごせないほどの力を秘めているのだとフェルミは理解した。
「お守り、と言う物だ! 恐らく宝具ではないが、それに匹敵するかもしれないぞ?」
『お守り……? 聞かぬ名の道具だな。だがその波動……間違いなく下級の道具ではあるまいて!』
『フン、力を解放していない我を一目見ただけでそこまで見抜くとは、腐ってもドラゴンと言う所か』
盾が話す、その事実を受け入れられないカティースは声の主を探すべく辺りをキョロキョロと見回し、ドラゴンはその眼をより一層ギラつかせ、即座に臨戦態勢に入る。
先ほどまでの余裕は消え去り、強烈な敵意をフェルミとその盾に向けて発しながら。
『お前達は今の内に、確実に消しておいたほうが良さそうだ……。近い未来、必ずワシの妨げとなると本能が告げておる』
『貴様のような下級竜に負けるハズがなかろう? 相手との実力差も理解できないとは、少々買いかぶりすぎたようだな』
「「アレで下級……!?」」
フェルミとカティースは、声を揃えて盾が発した事実に驚く。
というのも、二人はすでにドラゴンが発する威圧による極度の緊張感により急速に精神をすり減らしており、合流したばかりのフェルミとて戦いが長引けば集中力を保っていられないほどに疲弊するのは容易に想像がついた。
ましてや臨戦態勢に入ったドラゴンのソレはより一層鋭さを増し、距離を取って対峙しているだけにも関わらず肌を突き刺すような殺意に、本能が最大限の警鐘を鳴らしているのだ。
そんな国が滅びることすら想像できてしまう程の相手が、よもや下級だなどと信じられるはずもなく、むしろ信じたくない事実でもあった。
『……お前はなんだ? なぜそれほどまでの能力を有しながら、そんなちんけな人間なぞに使われている? ソイツではお前を扱いきれまい』
『貴様が勝手に判断するな。我は創造主より、この者を任せられた。故に我は此処に在る。それだけの事よ』
『お前ほどの能力を有した宝具を創れる者がいる……だと?! そんな馬鹿な!!』
『無駄話はもう良い。こやつは仲間を救いたいと願っているのだ。貴様なんぞに無駄に使ってやる時間は無いのだ、さっさと逃げるなり向かってくるなりしたらどうだ?』
『……』
龍騎盾の言葉に苛立ったのか、怒りの形相でフェルミを見据えるドラゴンは、ググッと身体を低く沈ませるや否や猛スピードで地を駆け始め、目にも留まらぬ速度で動きながら先ほど同様に紫色の球体を四方から連発。
なんとか初撃は防げたものの、背後のカティースをかばいながら全ての攻撃を防ぎ切るのは至難の業だった。
5発目、6発目と防ぐうちに徐々に動きは後手に回り始め、7発目を防ぐ頃には完全に体勢が崩される事に。
8発目には当然追いつけず、無理やり腕を伸ばして防ぎはしたものの盾はフェルミの手から離れてしまう。
「くそっ! 団長、避けてくださいっ!!」
背後に迫る9発目、来ることが分かっていながらも死への恐怖で足が動かないカティースはその場から動けない。
盾が吹き飛んだのは向かってくる球体とは反対方向であり、取って戻る時間は無く、かといって人一人抱えて避けられる速度でも無い。
そう即座に判断したフェルミは、あろう事か自身の身体を盾にしようと間に飛び込んだ。
驚きを通り越して呆れたカティースは、普段の彼女なら言わないであろう言葉が口から出た。
「ダメよ、貴女だけでも逃げなさい! 私は見ての通り、お荷物なのですから!」
「何を言っているんです、団長。私はそれが嫌だから、こうして戦場に立っているんです」
すぐ眼前に迫った球体を前に、フェルミは腕を交差させて腰を落とすと全身に力を込め、衝撃に備えた。
『それは勇気ではなく無謀と言うものだぞ、契約者よ』
吹き飛ばされていた龍騎盾は鼻で笑いながらそう呟くと、ピタリと空中で静止。
ボソボソと何かを呟くと、フェルミの前に一回り小さな盾が出現。
2つ、3つと周囲に同じサイズの盾が次々に出現し、合計で10の美しい盾が揃う。
その様子を見たドラゴンは足を止めると、初めてその顔に焦りの色を浮かべた―――。




