20話 プライドの瓦解
爽やかな風が吹く広大な草原。
その一角に生えていた草や花が、突如として萎れ、そして枯れて腐る。
徐々に周囲へと広がるその光景は、半径10mほどの円を描くように拡大するとその場を荒地へと変えた。
円の中心部から紫色の煙が吹き上がり、地面がドロドロと溶け始めるとこの光景を引き起こした元凶が地の底から姿を現す。
異変に気付き立ち止まったカティースは、振り返ると信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開き、肩をワナワナと震わせながらなんとか気丈にキッと元凶を睨みつけ言葉を発する。
「どうして生きているの?! アレを食らって死なない生物なんて存在するハズが……!!」
かすり傷1つ負った様子の無いドラゴンを前に、初めて焦りの様相を隠せないまでにうろたえるカティースとは対照的に、ドラゴンは落ち着いた様子で口を開く。
『人間にしては中々の力を持っているようだな? まぁあの程度じゃワシの身体に傷1つ付けられんのが悲しいところだが』
「な……?!」
複合型の時点ですでに言葉を発していた事もあり、言葉を理解する事にこそ驚きはしなかったものの、比較にならないほど流暢な言葉使いには驚きを隠す余裕も無い。
伝承でもドラゴンは高い知性を有するという記録もあったが、何分ここ数十年以上ドラゴンの存在など確認されていなかったのだ。
その力の一端を垣間見せられ、挙句人となんら変わらない言葉と知性を有する異形を前に、カティースは生まれて初めて人間一人の無力さを痛感させられる事になった。
井の中の蛙、そんな言葉がしっくりと来る状況に呆然と立ち尽くすカティースを他所に、ドラゴンはやや期待を込めた声で問いかける。
『ほれ、次はもうないのか? まだ目覚めたばかりでな、身体慣らしのためにもうしばらくは殺さずに遊んでやるぞ?』
先ほどまで自分が行っていたことを意趣返しされた形になったばかりか、この後自分がどうなるかも容易に想像がついてしまう結果に顔を青ざめさせた。
彼女は強者と戦いたいという欲望こそあるものの、それは自分が死なない範囲で、という自分勝手な条件ありきの欲望。
フェルミほど崇高な騎士精神も持ち合わせていないので、戦いの中で散ることが誉れという考えも当然ながら無い。
『んん? もしやもう何も無いのか? ならばお前に用はないのだが』
「ひっ!」
自身も同じことを考え実行しようとしていただけに、死をハッキリと予感できたのか必死に無詠唱で魔法を連発。
火や氷、石といった様々な属性の矢や球体がドラゴン目掛けて降り注ぎ、地面が抉れ砂埃が舞って視界が悪くなっても尚攻撃の手を緩めることは無く、無我夢中で対象を屠るためだけに全力を注ぐ。
1分ほど魔法を発動し続け、大きく息を乱しながらも手応えを感じたカティースは期待と不安の目で煙が晴れるのを待った。
「軍隊が壊滅するほどの攻撃よ、いくらなんでも耐えられる訳がないわ……」
心配が的中していないと言い聞かせるように言葉を零し、じっと一点だけを見つけること数十秒。
そこにドラゴンの姿は無く、跡形も無く吹き飛んだのだと思ったカティースは、大きく尻餅をついてその場に座り込んだ。
「やった……! やったわ! 私はあのドラゴンですら倒せるだけの力を……?!」
喜んだのも束の間、ドラゴンがいた場所の地面から紫色の煙が噴出した。
この光景には見覚えがある、そう直感したカティースは考えるよりも前に、全速力でその場を後にすべく走り出す。
背後を振り返ることもせず、一心不乱に飛ぶように駆け抜ける彼女の速度は人間離れした速さ。
しかしそれでも、人間でないドラゴンにとっては軽々と追いつける速度だったのだろう。
『おい、なぜ逃げ出す? まだ遊びは終わりだなんて言ってないんだが?』
あっさりと追いつき、さらには追い抜いて行く手を阻んだドラゴンが告げた一言。
それはカティースにとって、自身が生き残る確立が0であることを理解させるのに十分な一言だった。
あまりの恐怖に後ずさり、石につまづいても受身すら取れずにお尻から崩れ落ちるカティースに、ドラゴンは意気揚々と言葉を続ける。
『先ほどのは人間にしては中々の威力だったぞ。だが所詮は下級魔法、あの程度じゃ傷1つ付けることはできん。退屈していたらいつの間にか地面に埋まっていて、つい昼寝をしてしまったわ』
声にならない悲鳴を上げながら、ドラゴンに背を向けて地を這いずる人間を見て、これ以上はないと判断したのだろうドラゴンが、前足を横薙ぎにしカティースを吹っ飛ばす。
地面を勢いよく転がり泥まみれになりながらも尚、この場から逃げようとする人間に、ドラゴンは心底呆れたようにため息をつく。
『もういい、お前には飽きた。別のおもちゃを探すとしよう』
ドラゴンが口を大きく開くと、小さな紫色の球体が生成。
見る見る大きくなるソレは、すぐに人の頭ほどのサイズになった。
『死ね!』
轟音と共に発射された球体は、怯えきって顔を青ざめさせたカティース目掛けて飛んでいく。
「ひっ……。 イヤ! イヤよ! まだ私は死ぬわけにはいかないのよ!!」
涙を流しながら必死に魔法を発動して相殺を試みるもまったく意味は無く、衰えた様子もない球体が当たる直前に目を瞑り神に奇跡を祈る。
それから数秒、一向に当たらないことを不思議に思ったカティースは恐る恐る目を開く。
するとそこには間に割って入り、攻撃を防いでくれた者がいた。
「団長、大丈夫ですか?!」
「フェルミ……?」
3番隊隊長、フェルミ・グローレスである―――。
3日連続更新……!
まるで連載当初のような更新頻度に、正直驚いています……。
しばらく更新できていなかったので、当然といえば当然なのですが!
明日も順調に執筆が進めば更新できると思いますので、宜しくお願いします。




