19話 崩壊の序章2 後編
「おぞましい光景ね、本当に嫌になるわ……」
カティースを前にした残りの二匹のうち、一匹が決死の攻撃と回避で時間を稼ぎ始め、その間にもう一匹が死んだ複合型達を食らい始めたのが数分前。
見たくも無い光景に顔を顰めながら、さっさと終わらせようと動き出したまでは良かった。
ただ、食らってる複合型を始末しようと思えばもう一匹がそれを許さず、先に邪魔者を片付けようとすれば必死の抵抗で中々上手く行かない。
最初にまとめて片付けた時は、数が増えたことで慢心もあったのだろう、気の緩んだ一瞬を付くことで容易に事が進んだが、目の前の一匹はそのせいでさらに集中力を研ぎ澄ませているのだから性質が悪い。
カティースは内心で、追い込んで奥の手を引き出そうとせずにさっさと片付けていればよかったと少しだけ考えていた。
「反射神経と移動速度だけなら賞賛に値するものがあったのね。本当に何から何まで歪で嫌になるわ」
それでも彼女にとって恐れる相手ではなく、ただ少しだけ時間がかかるから面倒、その程度の印象。
奥の手を使うべきかしら……? でもこの程度のやつらに勿体無いと思っちゃうのも事実なのよね。
そんな事を内心で考えながら、作業のように手傷を負わせては回復されてを繰り返しをしていると、退屈な時間は突然終わりを迎える事になる。
「あら……? なんだか姿が変わってるけど、突然変異でも起こすのかしら?」
カティースの言葉通り、共食いを終えた複合型の身体は一回り、二回りとどんどん巨大化していき、顔もワニのソレから見る見る間に形を変えていく。
同時に腕や足はおろか、尾や背中の棘に至る全てが作り変わっていき、その姿はまるで小型のドラゴンを彷彿とさせる別物へと変貌を遂げる。
そして最後の仕上げと言わんばかりに、足止めをしていた最後の一匹が自らその口の中へと飛び込み捕食されると、その眼が開きギラリとカティースを見据えて大きな咆哮をあげた。
「ギャォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
大気すら振動させるほどの衝撃に思わず一歩後ずさったカティースは、自身が初めて敵を前に一歩とは言え退かされた事実に気付き、怒りで身体を震わせる。
「たかだか獣如きが、私を怯えさせた……? そんな事あるはずないわ! あって良いはずがない!!」
事実を否定するように叫ぶと地面が抉れるほどの力を込めた一歩を踏み出し、自身の出せる最高速度でドラゴンの側面に回り込み、文字通り全力で胸部目掛けてレイピアを突きだす。
私の全力に反応すら出来ないなんて、所詮見てくれだけのハリボテね。
あざ笑うように内心で吐き捨てるカティースだったが、結果は彼女が想像していた通りではなかった。
ドラゴンは反応出来なかったわけではなく、しなかっただけだったのだ。
理由は至って単純で、カティースの一撃では自身が傷つかないことを理解していたから。
「なっ……?!」
眼前で表皮に阻まれ砕けたレイピアを目にし、現実をすぐに受け入れられなかったカティースの身体は硬直し、次の瞬間には地面を転がっていった。
それほどの隙を見逃すはずもなく、立場が逆転したと言わんばかりにドラゴンが力を抜いた体当たりを食らわせたために。
「っ! ……獣如きが手を抜いた攻撃を食らわせるだなんて、本当にどこまでもバカにしてくれるじゃない!!」
衝撃こそ大きかったものの、ダメージはほとんどなかったカティースはすぐさま立ち上がり怒りの形相でドラゴンを睨みつけると、左手に付けていた指輪を右手に付け替えた。
すると彼女が放っていた荒々しい殺気は消え去り、代わりに重々しい雰囲気が辺りを包む。
「獣如きにこの力を使うことになるなんてね……。光栄に思いながら死になさい?」
ニコリと微笑むと膝をついて屈み、左手を地面にそっと置いた。
「大地の精霊よ、我が呼び声に応え森羅万象の理を歪め、その力を此処に顕現せよ。『地裂葬送』」
詠唱を終えると大きな魔法陣が地面に展開、ゴゴゴゴと地鳴りが響き渡るや否や、まるで引き裂かれたかのように地面の一部、ドラゴンの足元だけに亀裂が入り、体長3mはあろうかという巨体をいとも簡単に地の底へと飲み込んだ。
ほどなくして再び地鳴りが響き渡ると地面の亀裂が閉じ、最初からそこに何も存在していなかったかのような、そんな不気味な静けさが辺りを包むと、風に乗って遠く離れた戦闘音が聞こえる。
「久しぶりに使ったは良いのだけれど、やっぱり魔法は私には合わないわね……。宝の持ち腐れなんて良く言われますけど、自分でもその通りだと思ってしまいますわ」
ドラゴンが沈んだ場所に一瞥し、鼻をフンと鳴らすと踵を返して別の戦場へと向かい始めるカティース。
背後の地面が微妙に変化し始めていることには気付いていなかった―――。
珍しく二日連続投稿です!
今日は久しぶりに一日オフで、執筆に集中できたので……!!




