18話 お守り
「フェルミ、これやるよ」
そう言われて手渡されたのは、綺麗なシルバーのネックレス。
チェーンの途中からは小さな盾が連なる様に並び、中央には一際大きな盾が輝いていた。
「これは?」
「んー、お守りみたいなもんかな? なんとなく思いつきで作ってみたんだが、我ながら中々良く出来たと思っている!」
「お守りというのはなんだ?」
「あー、なんて言えばいいんだろうか……。 渡した相手が無事でありますようにって願いを込めたもの?」
「祈祷を形にしたようなものか? レンは変わったものを知っているんだな」
「まぁな」
少し気恥ずかしそうに頬をかきながら微笑む彼が、背景が、徐々にかすれて薄くなっていく―――。
攻撃を受けてから数瞬ほど意識が飛んでいたフェルミは、ゆっくりと瞼を開けた。
「っ……。 夢、か……。 死んだと思ったのだが、コレのお陰かもな……」
弱々しく手を動かし首元で今も尚存在感を放つお守りを優しく撫でると、力の入らない足腰に無理やり力を込め、気力だけでその場に立ち上がる。
「はぁ……はぁ……。 我ながらひどい傷だな……」
チラリと下を見やり、自分でも生きていることが奇跡だとさえ思うほどの傷を目の当たりにして、改めて心の中で密かにレンへ感謝の言葉を紡ぐ。
右の肩口から斜めに切り裂かれた傷口はとても深く、致命傷であることは明白。
血がドクドクと感覚の無くなった右腕をつたい、地面を濃い赤で染めていく。
すでにフェルミの視界は失血によりぼやけ始めていて、命の灯火が消えるのも時間の問題だった。
その事実は、本人が一番良く自覚している。
「それでも……私は最後まで……!!」
落ちた剣の元へゆっくりとした足取りで歩いて行く姿を、興味の失せた目で眺めていた複合型モンスターは、遠くに感じる粋の良さそうな獲物の気配にすでに心奪われていた。
だからこそ、目の前でいつまでも動き続けるフェルミはもはや障害物ですらなく、ただただ目の前を飛び回る鬱陶しい小バエの様な存在。
心底うんざりした表情で一瞥すると無造作に背後に近づき腕を振るうが、剣しか見えていないフェルミは近づかれたことにすら気付かずに棒立ち。
しかし腕が当たる瞬間、突如間に何かが割り込み攻撃を防いだ。
『間一髪、と言う所か。危うく我が創造主に顔向け出来なくなるところだったわ』
空中に漂う黒い盾は、何事もなかったかのように微動だにせず、そう言葉を発した。
その声に反応したフェルミは、ようやく背後に迫ってきていたモンスター、そして盾の存在に気付く。
「なっ……?! この盾はなんだ、魔法か……?!」
『我は魔法などではない。龍騎盾と創造主より名づけられし力の結晶なり』
うまく頭も回らないところに、喋る盾という訳のわからない存在、さらに訳のわからない説明。
理解が追いつかずに張り詰めていた意識が途切れかけるが、かろうじて踏みとどまることに成功。
「味方、なのか……?」
『お主は創造主より、我を授けられた資格者であろう? 何を驚いている?』
「授けられた? まさか……?!」
何かに気付いたように首元へ手を伸ばすと、先ほどまで身に着けていたはずのネックレスが無くなっていることに気付き、それを見ていた盾は高らかに笑い声をあげた。
『我は創造主より、お主を守るよう力を込め創られた存在だが、まだ目覚めたばかりで全てを把握しきれておらん。ゆえにお主に直接問おう。お主は我が創造主であるレン様の臣下として共に戦い、死すべきその時まで共にあると誓えるか?』
「……無論。レンは私の大切な友人であり、恩人だ。そして彼は、必ず大きなことを成し遂げる器を持っていると信じている」
『ふむ……。まぁ良い、今はそれで合格としておこう。我に触れろ』
フェルミは言われた通り龍騎盾に左手を伸ばし触れると、手の甲に黒い龍の模様が浮かび上がり、熱を持つ。
『一時的にではあるが、お主を我の所有者とした。さっさと目の前の敵を蹴散らすが良い』
「と言われてもな……」
肩で息をしながら、自身の身体に目を落とすフェルミ。
この盾のお陰で数分……長ければ十数分は時間を稼げる可能性が生まれたが、倒すに至るほどの動きは到底不可能という冷静な判断が出来ていた。
だがそんな判断を、龍騎盾は鼻で笑い飛ばす。
『我をそこいらの盾と一緒にしてくれるな。何、我を構えたまま攻撃を受けてみればわかる』
不適にそう告げる盾を信じ、痺れを切らして襲い来るモンスターの攻撃をかろうじて防いだ時、異変は起きた。
フェルミの身体が淡い緑色の光に包まれ、傷が少しではあるが癒えたのだ。
「なるほど……! これならば!」
そこからは数十回に渡り、ひたすら攻撃を盾で受け続ける事に集中。
数分もしないうちに傷という傷はほとんど塞がり、血の気が引いていた顔色も回復。
「さぁ……反撃開始といくか!」
『我を持って尚遅れを取った暁には……お主を見捨てて創造主の元へ帰るからな』
僅かに動揺の色を見せるモンスターを前に、二回戦のゴングが鳴り響く―――。
サクサク進めていく予定だったのに、なんだか長くなりそうな予感……。
わかりやすく簡潔に纏めるのは難しいですね!
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