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16話 鉄より硬い鱗


「ぜぇ……。ぜぇ……。やはり私の手には負えないか……」


 身に着けていた鎧は大きく破損し、所々で露出した肌は血で赤く染められて。

 椀や足、腹部には切り傷がいくつもあり、場所によっては大きく抉れているような場所すらある。

 誰が見ても満身創痍である事は明らかでありながら、それでも尚瞳に強い光を宿し、一分一秒でも長く時間を稼ごうと剣を構える騎士、フェルミ・グローレス。

 

 そんな彼女を特に警戒するでもなく、活きの良い獲物としか認識していない複合型(キメラタイプ)モンスター。

 虎の記憶がそうさせるのか、それだけの力を得ている故なのか。

 どちらかはわからないが、このモンスターにとってフェルミは自身の命を脅かす心配のない弱者であり、自身に捕食されるだけの餌でしかなかった。

 当然フェルミだけでなく、辺りにいる全ての人間も同じ存在として認識しているのだが。


「フン……。貴様にとっては取るに足りぬ小物だろうが、弱者には弱者としての生き様がある! 後で後悔するなよッ!!」


 自分よりも強いと最初から分かりきっていたからこそ、敵が自身を侮り油断するこの一瞬を待ち続けていたフェルミは、隠していたスピードをここぞとばかりに発揮。

 剣を握る手により一層の力を入れ、大きく地面を蹴りつけると素早く背後に回りこみ、腕を大きく振るう。

 並みの者ならばこの一振りで、気付く間も無く首が身体から離れて血しぶきを上げるほどの速さと威力。

 しかしフェルミの剣は、首の付け根に生え揃う強固な鱗によってあっさりと阻まれた。

 そこへ蠍の尾が襲い掛かり、なんとか致命傷は避けたものの左腕から赤い血が滴り落ちる。


「くそ……。鋼鉄で作られた剣で傷一つ付かない鱗なんて聞いたことがないッ!!」


 思わずそう叫んでしまうほどに、彼女にとって今までの常識を覆されるほど大きな衝撃だった。

 というのも、この世界において鋼鉄製の武器とは一般に流通する金属製武器の中で最も硬度が高く、岩すらも簡単に切り刻む事が出来る。

 さらに使用者であるフェルミも一流と呼べるほどの腕前を持ち、今まで一度たりとてモンスターを斬れない事等無かったのだ。


「鋼鉄よりも硬い上に、勘違いでなければ鱗の面積が広がっていってる……?」


 フェルミの狙いでは、鱗のすぐ上を振り抜ける予定だったのに、阻まれた理由がようやく理解できた。

 モンスターの鱗とは総じて一定以上の強度があるので、わざと狙いから外したのに、相対した当初は拳1つ分ほどしか無かったはずの鱗は、今や人の頭ほどある。

 信じられないことだが、この短時間で急激に鱗が生えてきているということ。

 それはつまり、そのままこのモンスターの再生能力にも直結していると言えた。


「やれやれ、最悪の展開だな……。この人智を超えた怪物を相手に、果たしてレンですら敵うかどうか……」


 無意識に弱音を吐いている事に気付き、思わず唇を噛み締めた。

 私は隊長であり、部下を1人でも多く守る責任があるんだ。

 刺し違えてでもこいつに一撃を与える事が私に残された最後の任務であり、命の灯火が燃え尽きるその時まで、諦めるなどあってはならない。

 フェルミは強く自分に発破をかけると、死の恐怖で震えた足に拳を思い切り叩きつける。

 残された手段といえば、真正面から敵の猛攻をかいくぐり急所へ一撃を叩き込むこと。


「腕が落ちようが、足がなくなろうが……。貴様の命に僅かでも届く一撃を、次の者が少しでも有利に戦える一撃を与えてやる!!」


 生き延びることを諦め、急所のみに守りを集中して一歩を駆け出したとき、ふと走馬灯のように今までの思い出が頭を過ぎった。

 初めて剣を握って、思い切り振るった時の高揚感。

 剣の扱い方を教わりながら、日が暮れるまで汗を流した日々。

 騎士団に入団して初めてモンスターと対峙し、かろうじてもぎ取った勝利。

 団長に無謀にも挑み、完膚なきまでに叩きのめされた悔しい気持ち。

 騎士としての実力が認められて、三番隊の隊長に任命された時の嬉しさ。

 レンたちに初めて出会い、パプリという初めての同性の友達が出来た感動。


 様々な記憶が思い起こされ、目じりから零れた涙が背後へと流れていく。

 本当は生きて帰りたかった。

 またレンやパプリと笑いながら語り合い、ヘムゼも交えて食事もしてみたかった。

 だがそれでも私は……!!


「改めて名乗ろう! 私は三番隊隊長、フェルミ・グローレスだ! 貴様のような強いものと最後に戦えたこと、嬉しく思う!」


 騎士として敵に背を向ける事無く、戦場で散れる事は誉れな事。

 同じく騎士であった父が幼い頃から教えてくれた言葉を胸に抱きながら、迫り来る拳をかわし、尾を剣で弾き、避けきれない攻撃は急所を外してその身で受け止める。

 飛び散る鮮血に目もくれず、ただただ敵の急所を攻撃できる範囲までたどり着くことだけを考え、あともう一歩、たった一歩で剣が届く。

 そう思った時。

 弾いた尾が背後からフェルミの右肩を貫き、その手から剣が零れ落ちた。


「くそ……。あと僅かだったのに……」


 眼前にはすでに鋭い爪が迫ってきているが、今のフェルミに避ける余力はあるはずもなく、鎧ごと肉を引き裂かれながら宙を舞った―――。



すっかり更新が空いてしまいました……。

色々と悩んだり、忙しかったりで執筆のモチベーションが著しく低下してしまっているのが現状です。

少しずつ小説の勉強をしながらマイペースに書き進めておりますので、しばらく更新頻度が低めですがお願いします。

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