15話 モンスターを操る者
「とりあえず3体は多いし、試しがてら2体は倒しちまうか……」
そんなことを思いながら前方に手をかざすと、突如モンスターたちのやや後方に魔法陣が出現。
レンの黒いコートとは対照的に真っ白なローブを羽織った男が現れ、指をパチンと鳴らすとモンスターたちが男の後ろへと移動。
魔法を発動しようとしていたレンは肩透かしを食らい、ジト目で男を見つめた。
「そいつらを操ってるやつ……ってことでいいのか?」
「ははは、そう睨まないでくれ。まだこの段階でこいつらを失う訳にはいかなくてね。申し訳ないが、今は退かせてもらうよ」
「そいつらが勝つかもしれないだろ?」
「私の目はそこまで節穴じゃないよ。こいつらじゃまだ君に勝てない事はは重々承知しているさ」
「買いかぶりすぎだろ」
「君は謙遜しすぎだと思うけどね。色々と尋ねたいこともあるんだけど、そう時間も取らせてくれないだろう?」
眼鏡をクイッと上げながら、自嘲気味に苦笑いを浮かべながら尋ねる男。
白いローブから覗く鮮やかな緑色の髪は、まるでエメラルドを彷彿とさせる綺麗な色。
眼鏡の奥にある瞳はとても柔和な印象を与え、とてもモンスターの大群を操り人を襲うような人間には見えない。
そう感じたレンは、臨戦態勢を解いて話を少しだけ聞いてみる事にした。
「あまり長くじゃないなら、別にいいよ。俺もあんたのことが気になるし」
「おや、本当かい? それは思わぬ誤算だ。んー……そうだね、ひとまず一番の疑問を解消させてもらおうかな。君は騎士団の……いや、皇国に忠誠を誓う人間かい?」
「いや、どちらでもない。ただ、あそこには俺の友達が、仲間が、大切な人達がいる。だから侵略を許すわけにはいかない」
顎に手を置き少し考え込む仕草を見せると、ニコリと頬を歪めて男は笑う。
「なるほど、ね。ならば尚更君とは争いたくない所だ。私の目的がザベルスな以上、それは難しいのかもしれないけど……ね」
少し残念そうに顔を曇らせると、寂しそうな瞳をレンに向けた。
その眼にはどこか申し訳なさの様なものと共に、それでも自分は止まれないという覚悟が見て取れた。
「理由……は教えてくれるのか?」
「ふふ、君は優しいね。でも、子供には関係のない話さ。こいつらは歯向かうものと騎士団の連中、国の上層部以外は襲わないよう命令してある。だから素直に避難してくれれば、住む所は失えど命まで奪われることは無い……。どうだい? 素直にみんなと逃げてくれないか?」
真面目な顔でそう告げ、じっとレンの返答を待つ。
レンとしても目の前の男の願いを無下に扱いたくは無かったが、自身は奴隷でありその命運はピーマが握っていると言っても過言ではない。
今は一時的にフェルミのお陰で自由に行動できているが、本来は不可能なのだ。
ゆえに、わかったと言える状況に置かれていないことがとても歯がゆかった。
「……悪いな、それは俺の一存では決められない。他の方法は無いのか?」
「そう……ですか。いえ、無理を言ってすみませんでした。自分の居場所を捨てろと言われて、はいそうですかとは言えないですよね。他に思いつく方法は、すでにもう出来うる限り試したのですよ」
「……」
「ふふ、ではまたお会いしましょう。その時まで、無茶はせずに子供らしく暮らすのですよ」
男は再び魔法陣を展開すると、モンスターたちを連れて笑顔で消え去る。
残されたレンは大きくため息をつくと、辺りを見渡した。
「なんか面倒な事になりそうだなー。いやだなー。はぁあ……」
うな垂れながらもう一度大きく息を吐くと、『魔法収納箱』の魔法を唱え、人一人が丸まれば入れそうなサイズの箱を召喚。
蓋を開けると、周囲にあったモンスターの死骸が吸い込まれ、綺麗に収納された。
「おぉ、いけるもんだな。やっぱ異世界といえばコレだよな」
無事に素材を確保出来たことに満足し、レンも魔法陣を展開。
西のモンスターの元へと移動し、こちらも『流星矢』で片付けると同様に収納。
すでに先ほどの男が回収を終えたのか、複合型の姿は無かった。
「うし、姉ちゃんのとこに帰るかな。怒ってなければいいんだケド……」
怒鳴られる自分の姿を想像してしまい、プツプツと鳥肌が立つのを感じながら帰還すると、そこには目尻に薄っすらと涙を浮かべたパプリの姿が。
「た、ただいま?」
「……あとでお説教だからね、レン」
「ひっ」
キッと鋭い目つきでガンを飛ばされたことに怯えながら、無言でコクコクと頷くレン。
パプリは少し溜飲が下がったのかふーと息を吐き出すと、おそらくそうだろうと目星をつけていた事を尋ねた。
「モンスターの群れの様子を見に行ってきたんだね?」
「は、はい。その通りです」
「まったく、一人で無茶して……。何かあったらどうするんだい。さぁ、その様子を早くフェルミに伝えて避難を進めてもらわないと」
「あー、それならひとまず片付いたよ」
「……はああああああ?!」
ポカーンと大きな口を開けたまま、間抜けな顔を元に戻せないパプリはしらばく固まっていた―――。