第1話
目覚めると見知らぬ部屋であった。
いつから自分がこの部屋のベッドで寝ていたのか思い出せない。
それどころか、それ以前の事が思い出せない。
「ク、クロト?」
そうだ、俺の名前はクロトだ。
名前だけは思い出せたが、その他の自分に関する事が思い出せない。
とりあえず部屋を見渡してみる。
今まで俺が寝ていたベッドにデスク。
窓が1つ。ガラスがスモーク仕様のため外が見えない。
窓の向かい側の壁にドアがある。
それだけであった。
とにかく、この部屋から出るためドアノブを握った。
開かない⁉
まるで、このドアが壁に彫刻されたオブジェなのではないかと思わせる程、うんともすんとも言わない。
「いったい、ここは何なんだ?」
まさか、俺は死んだりしてないだろうな⁉
実はここは死後の世界のため記憶が消され、この後に天国か地獄かの行き先が決まるとか〜って。
バンッ!!
「おわっ⁉」
突然ドアが開き始めた。
向こう側から誰かが入ってくる。
逃げたくても、逃げる場所などない。
固唾を飲んでドアを見てると、スカートタイプのスーツを着た女性が入ってきた。
なんと言うか、キャリアウーマンっていう表現が合いそうな眼鏡を掛けた女性だ。
ただ、普通の女性と違う特徴がある。
天使を思わせる翼が生えているのだ。
「よしよし、ちゃんと起動してるみたいね。でも、なんでベッドに座ってるのかしら?」
なんかブツブツ呟いているが、それよりこいつなら俺のことや、この場所について知ってるかもしれない!
「おい、あんた。ここはどこなんだ?」
「わひょっ!ビックリした!あなた意思を持ってるの?」
何のこといってるんだ?意味わからん。
「いや、質問してるのは俺だ。気付いたらここにいて、全く記憶もないし、ハッキリ言って混乱してるんだ!」
「あら〜。これはレアなケースね。こういうパターンって行く先々でかなり活躍してくれるのよね〜。ただ、難関な事態が待ち受けてる場合もあるみたいだけど」
「ちょっと、質問の答えになってないぞ。もしかして、ここに連れてきたのはお前か? 何にも思い出せない。俺がクロトという名前以外は・・・」
「まあ!あなた名前まであるのね!これは初めてのパターンね」
「? さっきから会話が噛み合わないんだけど・・・」
「とりあえず、あなた・・・クロト君ね。これからクロト君には異世界に行ってもらって、ある人物を助けてもらいます。」
「へ? 異世界? 人助け?」
「そうよ〜。異世界よ〜。まるでラノベみたいでしょ!」
「ラノベって?」
「ああ、そういう知識はないのね。まあ、良いわ。では、あなたを、これから異世界に飛ばします。誰を助けるかは、行けば自ずとわかります。」
「えっ⁉ ちょっ、待って? 何が何だかマジでわか・・らな」
目の前が白く染まっていく。
あの翼の生えた眼鏡のお姉さんが手をフリフリしているようだが、徐々に白に浸食されていく。
目が覚めたら、違う部屋にいた。
しかし、見覚えがあるぞ。
そうだ、ここは俺が借りてるアパートだ。
俺が通う学校は実家から遠いという理由で1人暮らしをしてるんだ!
学校。ガッコウ。がっこう?
あれ? え〜と。 そうだ、俺は高校生だ。
名前は・・・入江黒斗。
いりえ くろと
そうか、クロトではなく黒斗だ。
おや? なんでさっきから名前を気にしてるんだ?
まあ良い。
さっきの、変な部屋や記憶をなくした自分や、天使みたいなネーチャンも全部夢だったんだ。
だって、今はちゃんと記憶あるし。
ふと、時計を見る。朝の8時だ。
「ヤバイ! 遅刻する! 8時半のホームルームに間に合わねえ!」
都合良く制服のままで寝ていたらしい。
朝飯なんか食べるヒマはない。
カバンを持って、扉を開ける・・・
「なん・・だ、これは」
見慣れたはずの市街地であるはずが、まるで爆撃にでもあったかのように顕著な建物は崩れており、民家のほとんどは焼け崩れている。
振り返り自分の住むアパートは・・・
「ウソ・・・だろ」
他の民家の様に崩れ落ちていた。
では、俺はどこから出てきたんだ?
(クロト君には異世界に行ってもらって、ある人物を助けてもらいます)
あの天使の言葉が脳裏に浮かぶ。
ここは異世界なのか?
では、俺のこの記憶は何なんだ?
この国は日本であって、今は西暦2038年、俺の通う学校は私立月詠学園、そしてこの世界の状況は・・・
思い出した・・・
渡部真那は、異能力者である。
ある日突然目覚めた。
しかし、これを誰にも知られてはならない。
もちろん親にもだ。
何故、この様な異能に目覚めたのかは、すぐに理解できた。
アンダーグラウンダー。
地底から這い出てきたから、単純にこう名付けられた忌々しい怪物達。
地球にこの様な怪物がいたなんて驚きた。
形状は様々だが、とにかく大きい。
人型、4足獣型、鳥型、魚型・・・とにかく陸海空どこにでも現れる。
そして、破壊しまくる。
世界中で目撃されており、どの国の軍も自国に現れたアンダーグラウンダーを相手にするので精一杯だ。
日本にアンダーグラウンダーが現れた時、国防軍はすぐに動いた。
そして期待されていた在日アメリカ軍であるが、自国のアンダーグラウンダー討伐のため直ぐに日本から撤退した。
まさかの事態に国防軍もアンダーグラウンダーの制圧力を押さえるの必死であったが、徐々に制圧されていくのは目に見えていた。
真那が異能に目覚めたのはアンダーグラウンダー出現の少し前であった。
異能に目覚めた時は悩んだ。何故私がこんな能力を。
しかし、アンダーグラウンダーが出現した時に、奴らに向かって能力を開放した。
真那の能力は破壊。
この能力はアンダーグラウンダーに有効だった。
国防軍のミサイル攻撃にも耐える巨体が真那の能力で砂の様に崩れさったのだ。
真那はこの能力が神様から与えられた人を助けるための力だと信じた。
しかし、この能力を知られるわけにはいかない。
直感だ。
能力を公にして、アンダーグラウンダーを倒す。
もしアンダーグラウンダーを滅亡できたとしよう。
人類の敵が消えたら次は人類同士が睨み合う。
その時、真那の異能がどれ程の驚異になるか。
世界中が真那を欲しがる。
真那は自分自身を助けるため人類に対し異能を使うだろう。
そんなのは嫌だ。
だから、誰にも知られずアンダーグラウンダー討伐を行っているのだ。