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「なつき」






私が一番最初に会ったのが、「夏樹」。

はるさんが彼を夏って呼ぶので、私も真似して夏さんって呼んでます。

夏さんは男性で、年齢が33歳。

バリバリの関西弁をしゃべる、何かと面倒見の良いオジサマ。

皆のお兄ちゃんであり、お母さん的な存在の人です。

歌が壊滅的に下手くそなので、よくそれでネタにされてたりします。






「あー…はじめまして、夏樹です。君は、はるの彼女やんな?」






はるさんと付き合って半年超えたある日。

はるさんと大ゲンカしたときに、入れ替わりで夏さんが出てきた。

このとき夏さんとは初対面。

私、大パニック。






「うええええはるさああああん!はるさんどこおおおおかえってきてえええ「しーーーーっ!!」






ギャン泣きする私を、なんとか落ち着かせようと必死に宥めすかす夏さん。

見た目も、声も、話し方もはるさんなのに、なんだか雰囲気や、表情や、声のトーンが、違う気がして。

自然と部屋の隅っこに移動する私。

この時点では夏さんに怯えまくってた。






「今から簡単に説明したいんやけど、……て、そんなゴリラかなんかを見る目で見たらあかんよ?とって食ったりとかしやんし」






紙と鉛筆を持って戻って来た夏さんは、私の顔を見て苦笑した。

そのときは、何でゴリラ?て思ったけど、その疑問が解決されるのはもう少し後。






「え、違います!そんな風に思ってないです!」

「そんな必死に否定しやんでも笑 …で、君に質問なんやけど、この中の名前に見覚えあるやつは?」






夏さんは紙に、「光里」「竜太郎」「夏樹」「光平」「あき」五人の名前を書いて見せた。

この時点で見覚えがあるのは、光里だけ。

光る、に、里、で、みさと。

はるさんの、女の子の時の名前。

後、少しだけ話しを聞いたことがあるのが、「なつ」と、「こう」。






「…みさとは、はるさんの女の子の時の名前ですよね。あとはあまりよくわかりませんが、はるさんが「なつ」と「こう」て言う人の話しをしていたのは聞いたことあります」

「そか。なら、単刀直入に言うわ。今、はるの中には五人の別人格がおんねん」

「…え、それって、どういう、」

「多重人格って、聞いたことはある?」

「…ありますけど…つまり、はるさんが?」






おずおずと尋ねると、夏さんは小さく頷いた。

それから、また鉛筆を持つと今度は関係図のようなものをその下に書き足していく。






「今からめっちゃややこしいこと言うで。「光里」が、元々の主人格やねん。で、「竜太郎」と、「はる」は、ほぼ同じ時期に生まれて、俺と、「光平」と、それから「あき」が、この三人のあとに生まれてきたんよ」

「え、じゃあ、はるさんの体の持ち主は、本当ははるさんじゃなくて、みさと、さん?」

「まあ、そんな感じやな」






「光里」、「竜太郎」、「はる」の三人を三角になるよう線で繋ぎ、その下に矢印で「夏樹」、「光平」、「あき」と、残りの三人の名前を書いていく。






多重人格のことは、ネットやテレビで見て知っていたし、こんな言い方したら誤解されるかもだけど、興味があった。

はるさんと付き合い始めたときに、ふんわりとそういう話しもされていたし、何となく、「そうなんだろうな」って、わかっていた。

だからかわからないけど、私が夏さんの話しを理解するのに、そう時間はかからなかった。






「他の皆はどういう人たちなんですか?」






彼の人柄のおかげか、それとも、話し方や雰囲気がはるさんと似ていたからか。

いつの間にか夏さんとも普通に話せるようになっていた私は、まだ知らない人たちのことについて聞いてみる。






「光里とこうは、化粧とかヘアメイクとか、美容関係のことが好きやし、竜太郎はいっつも本読んでるなあ。ホラー映画もよう観てるわ。あきは光里がおったら満足やから、あんま出てこやん」






タバコの煙をふうーっと吐き出しながら、皆の話しをしてくれる夏さん。

タバコの吸い方がはるさんにそっくりすぎてビビる。






「夏さんは何が好きなの?」

「俺か?俺は外にいることが好きやな。やし、よう釣りとか行くで。綺麗な海とか行くと素潜りしたりもすんねん」

「すご!私泳げんからなあー。でも息継ぎはできないけど、バタ足で25メートル泳いだことはあります!」

「息継ぎなしで25メートルて、そっちのがすごいわ笑」






ふっ、と笑う表情に、内心複雑な気分。

夏さんははるさんに似てる。

雰囲気とか、話し方とか。

だけど、はるさんとは違う点がちらちらと見えるたびに、この人は本当にはるさんじゃないんだなって思い知らされているような気がした。






「…あー、わかったわかった!ちょい待て!」






説明が大体終わり、私が夏さんと砕けた口調で話せるようになった頃、夏さんがいきなり誰かに返事をし、面倒くさそうに舌打ちをした。

その光景ももう慣れたけど、「中」にいてる人と会話をしている姿は、そのときの私にはすごい衝撃的だったのを今でも覚えてる。






夏さんは、びっくりして固まる私の方に向き直り、






「こうが代われって煩いから、代わるわ」


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