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第七話 霊峰クァール戦

2015/4/20 修正

「ミズキさん右から風系統魔術、来ます!」

「はい!」


 積雪に埋まる足を慎重に運びながら、番傘を剣携えるように腰へ置く。

 光が一筋、一瞬見えた所で鞘から引き抜く様な動作を行う。それと同時にバチンッと何かが弾ける音と共に出現した雷撃が打ち消される。

 アリスから伝授してもらった、同属性による魔法を武器となる番傘へ付与させ対象魔術を断ち切るという、魔術師殺しの技術。

 勿論魔力量が上回っておりかつ、剣術をある程度収めなければ不可能な芸当らしいのだが、番傘に付与されているアリスの魔力と私の血流に存在する魔力はそれは可能にしてしまう。


 しかし雷撃だけでは終わらず、続けざまに氷の弾丸が数十私の体めがけて、寸分の違いもなく撃ちだされる。


「ぐっ……」

「動きを止めないでください!死にますよ!?」


 素早くサイドステップで回避を行うが数発避けきれず、腕や頬に弾丸を掠めて一瞬だが立ち止まってしまう。


 アリスは私が相手にしているクァール(氷の雌豹)と呼ばれる、魔物のボスを相手に戦闘している。

 本来ならこちらを気にしている余裕など無いはずなのだが、何度も私の気づいていないような影からの攻撃魔術や、私の甘い動きに注意を促してくれる。

 更にはクァールのボスは知恵が回るようで、アリスではなく隙を見ては私に対して攻撃を狙うのだが、その全てをアリスが受け流しながら、何度か私の相手にする数匹のクァールに牽制をしている。

 ここまで来ると流石としか言い様がない。


「ミズキさん!場所を南へとそのまま移動してください!!そろそろここも崩れ始めます!」


 応答しながら素早く弱り始めていた一体へ斬り込み、トドメを刺す。クァールの死体を力の限り蹴り上げ、仲間の一体へと飛ばしてから、一気にここから駆け離れる。

 血の匂いに敏感なクァールは一瞬であったが死体に反応し、思考を止めて目で追う。それが命取りとなり、地響きと共に積雪は崩れクァールは雪崩に巻き込まれ、悲鳴をあげながら落ちていく。


 一瞬でも遅れれば私も巻き込まれる事実にヒヤリとするが、すぐさま周囲を確認し、気配を殺して飛びかかってきていたクァールの攻撃をいなす。

 番傘は普通ならば折れてしまうだろうが、アリスからは極淵の魔物でない限りは傷一つつけることが出来ないと言われており、安心して振るうことができる。


「傘を振り回すなんて小学生思い出すけど……なっ」


 剣ではないのに番傘の突きは突剣のように鋭く、振るう一太刀は刀のように鋭い。

 何度かまともに攻撃を受け流す事が出来ず、番傘から鉄と鉄を打ち合わせるような音が響いたりしたが、腕に反動のようなものはないため未だに腕に疲労もなく、振るい続けることができる。


「グルァァァァァァッ!!」

「っ……!?ミズキさん避けて!」


 やはり普段よりも私という不確定要素が混じっているためか、アリスの動きは鈍い気がした。ボスクァールが魔術を使った遠距離攻撃ではなく、アリスには目を留めず私だけを目指し飛びかかる。何度もその邪魔をするためにボスクァールへアリスは魔術を放つが、下手に威力の高すぎるものを放てば地形が崩れて何が起こるかわからないため、力を抑えた物しか出せずに動きを止める材料にすることが出来ない。

 ボスクァールと共に残り2匹のクァールが同調するように跳びかかり、後ろへ飛び退こうとするがそこは崖になっており、踏みとどまってしまう。

 多少の危険は覚悟し、右側のクァールへ力の限り体当りするように飛びかかるが、肩を噛み付かれる。

 肉の裂ける音が聞こえて顔をしかめるが、番傘で体半分へ切り裂き、ボタリと音を立てクァールは崩れ落ちる。

 ボスと一匹が再度私への攻撃を再開しようとするが、距離を離す様に跳んだ後その勢いのまま、ゴロゴロと体を転がしていたため大分間がある。


「我が敵となる者を焼き尽くせ……フレイムランサー!」


 それを狙ってアリスさんはここに生息するクァールにとって弱点の火炎系上級魔術を放つ。


「グギャオォォォォォォォ……」

 それにより吹き飛ばされたボスクァールは苦痛な叫び声をあげながら、崖から落下していった。残っていたクァールは放たれた魔術により焼き死んだようだ。

 周囲を警戒しつつも立ち上がると、すぐにアリスさんが傍までやってきて、抱き抱えられる。


「ちょ、アリスさん何を」

「すぐにここを離れます。微かですが地鳴りの音が聞こえるのでここも危険でしょうし、それにミズキさんの手当もしないといけませんので」

「う……わかりました」


 情けないと思いつつも、アリスさんは跳躍し一気に離れていく。

 少しだけ浮遊感に怖くなりつつも、先程いた場所を見れば、雪崩によって死体のクァール達は見えなくなっていた。


 ***


 霊峰メルエラ山脈。過酷な環境と半ば霊域化した雪山で、弱小な魔物は生きるのも叶わず。故に極淵に次ぐ強さを持つ魔物や、山頂にいると言われる龍の配下の神獣が蔓延る、人々に恐れ崇められる雪山だ。

 その山頂間近といったところで、アリスによって張られた障壁により雪崩など自然の脅威、魔物など特定のモノを寄せ付けない空間にテントを張り、その中でアリスに先ほどの傷を癒やされていた。


 何やら私の体が魔術を受け付け辛くなっているそうで、回復魔術が全然効果を見出だせない。

 治癒魔術、回復魔術により簡単に癒やすことの出来るこの世界では薬のような物が存在しない。

 そのため今の私の体は非情に厄介な事この上なかった。

 

 背中側から聞こえる彼女の声は、魔術を行使する際疲弊する精神、加えて通常ならば簡単に治せる傷も直せず、血も止まらずにいるという現状に戸惑い、焦り……。

 あまりに悲痛な声で、思わずもうやめてくれと言いたくなってしまう。


「お願い……治れ……治れ……エクスヒール!」

「アリスさん、その、あまり無理はせずに……」

「治れ……治って……キュアオール……!」

「アリスさん」

「何で、何で。血が止まらないの。何で……!?」

「アリス!!」


 このままでは――

 そう思い声を張り上げアリスの顔へ視線を移せば顔は青ざめ、息は途切れ途切れで、今にも倒れてしまいそうな状態であった。


「すみません、怒鳴ってしまって。私は大丈夫ですから、少し落ち着いてください。このままではアリスさんが逆に倒れてしまいます」

「でも、でも……」


 アリスは涙を今にも流してしまいそうで、今からしてもらうことに罪悪感を感じる。


「止血方法はなにも回復魔術だけではありません。応急処置なようなやり方ですが焼灼止血法と言って、出血面を焼くことで熱凝固作用を起こして止血することもできますよ。それにそんな深い傷ではないでしょうし、安心してください」


 言うが易し、背中にいきなり刺すような痛みが走り、顔をしかめる。アリスさんが私の言ったことを実践しているのだろうが、いきなりは止めて欲しい。


「クァールは噛み付いた相手の神経を麻痺させる毒を持っています。馬鹿な事を仰らないでください」

 加減をつけて炎の魔術を使うために、直接傷に手を当てたのか、血のベットリとついた手を私に見せながら言うアリスの声は、震えておりやはり落ち込んでいるような雰囲気だった。

 

 既に辺りは夜中になっており、朝になるまではここで過ごすことになる。

 ジクジクと痛む肩を気にやりながらも、アリスが次元収納BOXから取り出したサンドイッチに舌鼓を打つ。次元収納BOX内は時間が止まるため、生物でも簡単に持ち運べるのが非情に便利だが、材料となる物は中々に特殊でだとか何とか。

 こんな雑談をしていてもテントの中の雰囲気は重く、居心地の悪さを感じる。


 アリスは私を傷一つなく今回の依頼を達成する気でいたのだろうか……。

 ふとそんな考えが思い浮かぶ。アリスへ視線を送り、目が合うとすぐ申し訳なさそうにしながら俯いてしまう。ううむ。


「あの、アリスさん一つ聞いてもいいですか」

「ぁ……はい、なんでしょうか?」

「このまま頂上を目指して進んでも大丈夫なんですか?今回の依頼はオークの発生調査なのに、龍に会いに行くというのがいまいち分からなくて」

「そう、ですね。まずこの世界の龍種について話しておきましょうか。

 ミズキさんが考えている龍というのは、恐らく知性のない下等竜種。十傑が出動してまで討伐するのはこの大型ですね。

 ですが今から私達が会いに行くのは龍種といっても神に近い神龍と呼ばれるものになります。言葉を使いこちらと意思を疎通も可能です。それに基本神龍達は何もせず、領域(テリトリー)から出てくることもありません。

 何もしなければ無害な存在なのですよ」

「つまりオークの出自を龍に聞きに行くのが目的ですか」

「はい。各地にいる龍は、自分の地方だけならば全てを把握していますから」


 まるで実際に会ったことのあるような言い方に、アリスさんならあり得るのかと納得した。

 そろそろ休む事になり寝袋をアリスさんから取り出して貰うと、1つしか無い事実に事に苦笑してしまう。

「一緒に寝ましょうか」

 そう言うアリスさんに、わざとじゃないことを少しだけ祈りたかった。


 ***


「狭く、ないですか?」

 言った所で後悔する。ただでさえくっついてるというのに、更にアリスさんからもぞもぞと寄られ、戸惑ってしまう。

 心を落ち着けるときの癖で胸元に手を当てようとするが、アリスの髪があり、気付かずに触れてしまう。言い訳をするようにそのまま暫く頭を撫で続け、無心でいる。

 暫くすると、アリスから静かな声で呼ばれる。


「どうしました?」


 しかし迷っているのか、返事は来ない。思わず苦笑しそうになりながらも、そのまま撫で続けながら子守唄を歌う。


 どれだけ強くとも、どれだけ頑張ろうとも、自分だけが強くては結局誰も守れない。いや、少し語弊があるかもしれない。力があれば守れる事は確かだ。でも守られる人が弱ければ弱いほどハンデを背負う事になる。別に弱いのは責める事ではないだろう。でも守りたい、そう願う者は常に考えなければいけない。自分の強さを、守るものの弱さを見極められなければ結局、自分が破滅するのだ。

 私はそれを味わったことがあるし、気付いてもどうすればいいのか分からなくて、少し時期が早まっただけ、いずれそうなったであろう守るべき人との破滅を味わうこととなる。


 私は強くならなければいけない。それもアリス以上に……


 このままアリスへ依存すればどれだけ楽な道だろう。だがそれではいけないのだ。それはいつか破綻する日常だと理解してるから。


 密かな決意を胸に、アリスの寝息を確認して瑞樹は就寝した。


 そして、瑞樹は自分の弱さに絶望し、この非日常から更に突き放される時が迫っていることを、知ることはなかった。

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