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妹=芸農プロ所属。そして王族  作者: 朔野佐久
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1~本編プロローグ

 暦の上では5月、菜種梅雨という言葉があるが、その日はまったくの晴天で、日の出前の朝焼けに雲がするりと伸びているだけの穏やかな朝だった。

 どこまでも続きそうな平地に所々、森が島のように浮かんでいるその地域には、幾筋かの丘陵が走っている。さらによく見れば、ほとんどの丘陵が灌木で自然に覆われている中で一筋異質なものを見つける事ができるだろう。果てが霞んでみえないほどに長くあるにもかかわらず、規則正しく両脇をポプラの林に固められた一筋の丘である。丘の頂上にはレイルがしかれており、明らかに人が利用している。途中にある一角はまるで古墳時代の方墳がのようであり、対角線上にレイルを受け入れている様はさながらそろばんの珠のようでもあった。

 そのなだらかな方墳を外側から眺める。頂上は糸杉と思われる常緑樹の林に鐘楼のようなものが見える。四辺は石垣で覆われ、中腹は広い台地になっており、特徴的なグラスハウスが建てられている。グラスハウスを広い牧草が取り囲み、その下、平地から一段高い面には水が張られ空の雲をきれいに映し出していた。


 突如グラスハウスの一角から金切り声が聞こえる。その声の近くには二人の人影があった。

「――あーこいつかー。警報が収まったから放置してたけど、脱出できなかったんだな」

 ため息まじりに檻の中を見つめるのは20才ほどの青年。日に焼け、若干上背があるが、まだ筋骨が定まるには時がありそうな印象を受ける。ゆったりとした浅葱色の上衣にニッカボッカ、というよりも伊賀袴といった風のズボンにブーツを履いている。

「イノシシさんしきりに文句をいってますねー」

 グラスハウスの一角の、広さ一畳ほどの置き罠の中でせわしなく歩き回っている。それを見ながら、10代とおぼしきツナギを着て角のあるニット帽を被った少女が感想を述べる。

「可哀相に、お前もココの野菜があまりに良いにおいだったからたまらず迷い込んだんだねー」

 慈悲深げな瞳で相手を見つめると、それまでのいらだったような仕草を止めて少女と見つめ合う。

「よし、じゃあ静かになったから行くか」

 青年はそういうと置き罠をいとも簡単に移動させていった。しかしなんということはない。ただその檻には車がついており、その下にはグラスハウスと直角に線路が敷かれていただけである。しばらく青年はイヌをを散歩させる程度の足取りで牧草の中程まで来ると、そこに檻を放置して少女が待つグラスハウスの側に戻った。

「はい、光右衛門さまー」

 そういって少女が青年にリモコンを渡す。

「もう捕まる事はするなよー」

「ですね~」

 青年はリモコン操作で罠の鍵を解除してやる。しばらく逡巡した後一目散に九時の方角へ疾走した。

 ――チャ、ドカン――

「あ、はずしました~」

 ――ス、パァン――

 少女の散弾が猪の尻をかすめただけなのに対して、青年のライフル弾は身体の中心を貫いていた。

「20メートルの距離で散弾外しちゃだめだな」

「う~すいません~」

 そう言うと二人は流れるように銃を肩に戻した

「まぁ前みたいに焦って撃って、罠に血しぶきかけるよりは進歩したか。洗うの面倒だからな」

 青年はかがんで罠トロッコから伸びているロープをたぐりよせていく。

「毎回思うんですけど、イノシシさんのお肉をさらしておくのはどうなんでしょ~」

 まだ動いている身体を眺める少女に対し、青年は諭すように答える。

「さらしものにしておけばしばらく同類はよってこないからな。どうせ奴らが持って行くけど。もったいない気持ちはあっても今の時代、何を食っているか判らないキメラを食うなんて、寄生虫を躍り食いするようなもんだからあきらめろ。ちゃんと全頭遺伝子検査された子達を食べて自分の遺伝子を健全に保ち、安全な野菜を王族に提供するのが俺達の使命なんだから」

 罠を元の場所――ハウスの入り口に再び設置してから二人は去って行った。


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