帝国と歴史
翌朝、帝国へ向かうためには昼くらいまでかかるから、途中途中弱いモンスターを見つけて戦いを教わることにした。
多少着くのが遅くなるということだったがこのままだと弱いまま旅に出なければならない、そうなれば近いうちに死んでしまってもおかしくない、という理由で余っていたいらない剣を譲り受けた。
歩いていくと、周りには鹿、馬、狐、みたいなモンスターがたくさんいる、なぜ動物と言わないのかを聞いたら、魔法を使ってくるから、と即答で返答した。そうなると、魔法を使わない動物は動物というのか?
答えは否。
魔法を使えない動物は、すでに進化してモンスターと言ってもいいほどの強さを持つという。
さらに歩いて行く地平線に豆粒位だが城壁が見える、目的地はあそこみたいだ、それにしても初心者の俺に手ごろな相手っているのか?
するとフェルローグが突然俺の名を呼んで言った。
「あの牛なんてどうだ?」
と、牛?と首をかしげながら向いた先には、普通の牛……
魔法を使うということなのか?
「あの牛は魔法の使うのか、それとも進化したものなのか?」
と疑問をぶつけると、進化したものだ、と返答が来た。
姿形は今まで散々見てきた牛と全くいっしょ、しかし、進化した牛ということは魔法を数発受けても死なないくらいの強さってことになるんだけど、これが手ごろな相手なのか?
「とりあえず教えておくか、魔法を使う相手でも使わない相手でも常に最初は観察だ、どの様な攻撃をしてくるのかわからない相手にむやみに突っ込むのは危険だからな。今回は時間がないから教えてやる。この牛は肉体強化型のモンスターだ。剣では致命傷を与えられる箇所が少ない。そこで狙うのは、目か足だ、一番簡単なのは目だな。目に剣を突き刺し上に切り上げる。脳も一緒に切る事が出来るから一撃で倒せるはずだ。目を狙うのが難しいと思った時は、足を狙え、ひざから下を切れ。少なくとも二本。肉体強化型のモンスターの弱点は重量にあるからな、重くなった体を支えるのに四本すべての足が必要だからな。まあ、長くなったがとにかくやってみろ」
そう言われ剣を鞘から抜いて構える。
こちらを向いていない牛は気づいていないはず、わざわざ前に出て目を狙う必要は無い!!
そして、牛が目の前に迫ったとき剣を横に一閃した、手ごたえあり!!
しかし、それは勘違いだったようで、斬れてはいなかったが、ただ剣が折れていた。
こうなったら、素手で戦うしかない、足を斬ればいいのであれば、骨を折ってもいいはずだ、そう確信して、牛の頭突きや蹴りを躱して一本の足に集中して蹴りをお見舞いする、しかし、牛は俺の蹴りが当たる前に素早く足を上げて俺の足を踏みつぶそうとしてきた。
何キロあるか知らないけど、これが当たったら、足がちぎれるだろうと覚悟を決めた。
…………しかし牛の足は落ちてこない、あれ?
と思って目を開けると、牛は体中から血を流して倒れていた、フェルローグが助けてくれてのか……
そうほっとしているとフェルローグが歩いてきて、俺の顔面に蹴りを入れた。
「な、なにするんだよ」
と叫び、フェルローグの顔を見上げると、すごく怒りに満ちた表情になっていた。
それを見て、口ごもった。
そして、フェルローグが口を開く。
「戦士たる者、死ぬまで相手から目を離すな、戦うと決めたなら死ぬ覚悟がなくてどうする!」
と、この世界では常識という感じなのであろう、でも、そんなこと知ったことではない、この世界に来てからそんなに経ってない、それに言語は理解できるとしても何と書いてあるかも分からないのに、この世界の常識なんて知ったもんじゃない。
けれど、この世界に来てしまったからには、従うほかはないのであろう。
それにしても死ぬ覚悟か、一度死ぬ覚悟をしたあの時とは状況が違う、ましてや死の恐怖というものを知っている、簡単にできることではない。
「何を考えている?死ぬ覚悟が出来ないのなら死なないように強くなれ、単純で分かりやすいだろう?」
そうだ、そうだな、何も考えるほどのことじゃない、強くなればいいんだ。
「そろそろ昼だ、この牛を持って帝国に行くぞ」
「もしかして、俺が持つのか?」
「他に誰がいる?」
くそ、これを持つのか、まず持ち上がるかな…………
「というか、どうやって持てばいいんだ?」
「そうだな、前足を持って背に担ぐ」
…………おんぶというやつか?
と、とりあえずやってみるか。
「よいしょ、ん?軽いな?」
そう思っていると先に歩いていた二人が振り向いた。
「「…………」」
じーっとみてくる、何かおかしかったのかな?
「あんた、化け物なの?」
突然発せられた言葉はフェルローグのものだった。
「えっ?」
何がどういうことか分からずどういう意味か説明を求めた。
「それ、500くらいの重さあるんだけど…………」
ふむ、500ね…………500!?
500キロということか、だとしたらこれは怪力?
とりあえず、気にしない気にしない…………
こうして、三人で無事(?)帝国にたどり着いた。
帝国でも買取所があった。
文字が読めないからすべて任せきり、値段は食材損傷なし、新鮮、のため倍+α。
9450モーノ、これだけで数日暮らせるという、ただ、このお金現金だとかなり重い。
そのため普通はギルドカードにチャージするのだという。
持ってないから仕方ないということで前回の分はアイヴィスのカバンの中に入ってる。
危ないから使い切れと言われて、高そうな店を探している現状、文字読めないからどこが何だか……
それにしてもさっきの牛高かったな、魔法使ってこないから弱いんじゃないの?
「おっ、ここがいいんじゃないか?バッファロスの肉屋だ」
肉か、肉なら何でもいい。
アイヴィスも特に嫌ではないらしいので入ることにした。
店に入って見たものは……さっきの牛?
「フェルローグさん、これは?」
と、どういうことなのか聞いてみたら、意外な返事が返ってきた。
「この牛は堅いから普通の料理人では切る事もできない、そのため高級食材となってるんだ、ついでに言うと、こいつは危険度6のモンスター、並大抵な冒険者ではかすり傷すら負わせられないモンスターだ」
まて、俺はまんまとだまされたのか。
残金が5120モーノか、二人分だと、1500グルの肉が二枚か。
とぶつぶつ言っている。
「グルって何だ?」
謎の言葉につい突っ込んでしまった。
「ん?重さの単位だぞ?」
重さの単位か、グルということは?
どれに当てはまるんだ?
「あー、1キグル一つと、1キ500グル二つお願い」
という注文の内容を聞いて、グルはグラムでキグルがキログラムということが分かった。
にしてもアイヴィスが1500も食べれるのか?
まあ残ったら、フェルローグにでも食わせればいいだろう。
数分待っていると肉のいい匂いがしてきた。
そろそろかなと思っていると、一人のウェイトレスが、大きいさらに、に…く…?
おいおい、ブロックかよ?
目の前に置かれたさらには大きい四角い肉が一個。
調味料は別皿で運ばれてきた。
フェルローグは量が量だから先に食べていいといってるので遠慮なくナイフで切って食べる。
すぐフェルローグの肉も来て三人が食べることに没頭する。
それから数時間後。
「おい……なんでこんなもん食わせたんだよ……」
「そ…そうですわ、あんなのひどいですわ」
と二人でフェルローグを責めている。
反省することはもちろんなく、逆に。
「レオはとにかく、アイヴィスが食べきるとは思ってなかったけどね」
と高らかに笑いながら言っている。
「というか、今どこに向かってるの?」
「どこって、冒険者登録に行くんだけど?」
そっか、ご飯食べたら冒険者ギルド行く予定だった。
ここのことを知らない僕らはフェルローグに帝国の歴史を聞きながらギリシャのような街並みを歩いて行く、まあ、ギリシャなんて言っても二人にはわからないだろうけどね。
帝国の歴史
200年前の火山大国キーナの軍と解放奴隷率いるイルランデ軍の戦。
まずは、イルランデの幼少期から
キーナはあちこちの村、町を襲い女子供を捕えて奴隷としていた。
子供は軍に入れられ、女は子を産む道具として……
イルランデは子供の時捕えられた奴隷兵士、子供のころの記憶はあるがあいまい、そのおかげとも言えるが、訓練に一番熱心に取り組んだ。
ところが奴隷兵士の住む場所は正規軍の住む兵舎とは全く違っていた。
さらに、たびたび送られてくる子供のこと。
幼かった彼は何も知ることなく正規軍に入ることを夢見て育った。
それから20年後たくましい立派な男になった、しかしまだ奴隷兵士とは知らなかった。
そして彼に正規軍に入るチャンスが訪れた、それは、帝国との戦。
キーナの王は『良い結果を出したものは正規軍へ昇格させてやろう』と言ったらしい。
彼はその言葉を聞いて、ますます気合を入れて訓練し、戦争の日を迎えた。
ちなみに戦争の理由は、キーナが繰り返す略奪などに怒りを覚えた帝国が宣戦布告をしたのである。
しかしそんなことを奴隷兵士に伝える奴は居なかった。
戦の陣形は先陣奴隷軍、中陣正規軍、後陣主力軍、その後ろに英雄軍と王。
どの国もこの陣形だが、奴隷軍がいるのはキーナだけ。
いざ戦が始まると、イルランデは周りの人を置いて疾走していく。
彼の武器は分からない、その理由として武器の耐久率、彼の力量に武器がついていけず壊れてしまうから、倒した敵から奪って戦っていたのだ。
ある程度敵軍の陣地に踏み込んだ彼はその場で留まって敵と戦った。
いつしか彼を中心にした猪山が築かれ、兵は恐怖かどうかは分からないが近寄ってこなくなった、そこに一人の男が現れた。
軽装な男だ、よほど腕に自信があるのか。
そう思っていた彼に話しかけた男は、帝国12剣士の一人ヴァキュラというらしい。
その男は自分の剣を一本俺の方に投げた。
何が目的だこいつ、と彼は警戒心を強くし、睨んでいると、使え、そして俺と一騎打ちをしようではないか。
12剣士だか何だか知らんが、調子に乗りやがって……
そう思いつつ、ヴァキュラに持っていたボロ剣を投げつけすぐ渡された剣を拾い特攻をかける。
繰り出す技は、切り上げ最初にボロ剣を投げた理由は少しでも隙を作るため、その目的は達成されたようでボロ剣を弾いた恰好のままの時に切り上げが出来た。
けれどさすがは12剣士、後ろに下がって避ける。
それでも無傷ではなく、頬に一筋の傷。
切り上げをした後も止まることなくヴァキュラに接近、次は右から薙ぐ、これは弾かれる前提の攻撃、相手に反撃をさせる暇を与えず、左からも薙ぎ弾かれた瞬間手を返し切り上げ。
守備が間に合わず服を裂き、浅い傷を負わせた。
しかし怯まずヴァキュラは突きの連打。
一発目は顔を狙ったものだったから避けて、そのあとは直感に任せて剣で弾く。
さすがにこのままではまずいと思い、一歩後ろに下がり、相手の剣めがけて薙ぐ。
これで弾く事が出来れば、好機!!
ギィンという音、見事に弾いた、ここで決める!!
前進しヴァキュラの懐に潜り込む。
胴を斬っただけだと危険だから、確実に仕留めなければならない。
そう決めそのまま体当たりをして、バランスを崩しているところに頭上から剣を振り下ろす。
しかしこれは、ヴァキュラが空中で身を翻し一撃で仕留められなかった、けれど片腕を叩き切った今、確実に勝敗が見えてきた。
イルランデが有利になった今ヴァキュラは相打ちする覚悟を決め、雄たけびを上げながら剣を上段に構え突っ込む。
しかし彼は突っ込んでくるヴァキュラを躱し、背中を斬りつけた。
胴を薙ぎ切断、そしてヴァキュラの持っていた剣を奪い、二本の剣でこの戦争を戦い抜いたという。
元々王は奴隷軍から正規軍に昇格させようとは思っていなかった、しかし、帝国12剣士のうち1番4番6番11番の四人を撃破したイルランデを昇格させないとなれば奴隷軍の反乱が起きることは予想できた。
ちなみにイルランデ以外に12剣士を倒した戦士は三人。
いずれも相打ちとなった、と伝えられている。
つまり、イルランデに勝てる戦士はこの国には居ない。
ましてや、帝国も5人の剣士が残っている。
再戦時に反旗を翻された場合、この国は……
キーナの王は夜な夜な考えた挙句、イルランデの昇格を認めた。
しかし、後に気づくだろう、正規軍に昇格させたことを。
次話に続く………