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第10話 『大団円』と書いて『錯覚』と読みます。

1.


 大会も無事済んで、そのまま雪崩れこんだここは国道沿いにある食べ放題の店。俺たちは祝勝会を開いていた。

 眼の前の網で、肉の焼ける匂いと煙がえらいことになっている。誰も野菜とかコーンを焼いてないからなおさら。俺もだけど。

 うちのドラゴンたちはご満悦の様子。

「♪おにく、おにく、お~に~く~♪」とスミが歌えば、

「♪ウシ、ブタ、ニワトリ ドンとこい~♪」とリオが調子を合わせながらがっついている。

 その横でうつむいて、ひたすら網と咢との間で箸を往復させているアマネ。

「どうしたのアマネ? おいしくないの?」とリオが声をかけて、

「……恥ずかしいから歌うな!」とアマネに怒鳴られた。

 土曜夜のお店は意外なほど混んでいて、確かにあちこちのテーブルからくすくす忍び笑いが聞こえる。

「だいたい、貴様らはたるんでる!」おい、アマネ?

「歌なんか歌っとるヒマがあったら、肉を詰め込め! 肉を! あとそれから」まだ何かあるのか?

「何かしゃべる時は前と後ろに"肉"と付けろ!」

「肉! わかりました! 肉!」

 テンションを高めすぎてキャラ崩壊していることはわかったので、落ち着かせるためにアマネの頭をはたいておいた。そこは"頭からお冷やザバー"だろって? ドラゴンにそんなことしたら、性暴行罪で逮捕されちゃうんだよお察しください。

「……まったく、下品だな。これだから学生にドラゴンを飼わせるのは反対だったんだ」

 なんて言いながらビールのジョッキをあおっているのは魅琴父。横に座った魅琴母はお上品に笑ってる。……この人たち、なんでここにいるの?

「祝勝会の場所が被っちゃうなんてね。賑やかだしいいじゃん別に」

 と猿渡さんが言いながら摘み上げた肉を石松が横取り。ものの3秒でにらみ合いが始まった。

 俺たちが店に入って10分後、『ザ・ブリーダーズ』の選手たちとブリーダーもやってきて、ヒト11名ドラゴン13体の大所帯で肉を焼いている。ちなみに飲み物代は別で、ドラゴンはヒトの2倍の料金でございます。

 小さな悲鳴が上がったほうに目をやると、お肉のおかわりを取りに行こうと席を立ったスミだった。傷められた足に響いたらしい。

「スミちゃん、俺が取りに行くってば! 座ってて座ってて!」

 タケヒロが慌てて立ち上がり、スミを支える。そのまま腕を貸してゆっくりとスミを座らせてくれた。

 向こうに陣取ったブリーダーのオッサン連中から野次が飛ぶ。

「ま、ある意味今日のMVPだよな、タケヒロって」

「で、賞品はスミのお世話係ってか」

 いっそのことお持ち帰りして自宅で世話したらどうだ? なんて戯言をきっかけに、ブリーダーのオッサンたちは大爆笑。スミは真っ赤になって縮こまり、タケヒロは皿を抱えて逃げていってしまった。

「……まったく、下品だな。これだからブリーダーのイメージが好転しないんですよね、理事さん?」

 俺の返しにぐぬぬとなり、さらにビールを流し込むお父さん。その横からお母さんが俺に話しかけてきた。

「ところで高城さん、今回の賞金抜きの金策、目途は立ちましたか?」

 なんでこんな時にそんな、と母をにらむ魅琴ちゃんには申し訳ないが、まったく立っていない状況に頭を掻いて正直に話す俺。

「そう、よかった」とどこかで聞いたようなセリフの後、お母さんは切り出した。

「じゃあ、うちに住めばいいじゃない」

 喧騒が、ぴたりと止んだ。

「だって、食費を減らすのは大変でしょ? あのアパートの家賃を無しにすれば、かなり浮くわよ? 魅琴と一緒に住むっていうのもかなうわ」

 お父さんは大慌て。どうやら事前に聞いてなかったらしい。すごい形相で妻をにらむが、お母さんは平気の平左。えーと、ここは一言言っておかなきゃ。

「あのですね、お母さん」

「まあ、うれしいわ! お義母さんって呼んでくれるのね!」

「なんで"義"が付いてる前提なんですか?! ていうかポイントはそこじゃなくてですね」

 俺は説明する。親父の病状次第では、大学を辞めて実家に帰らなきゃならないことを。

 みんなのテーブルで肉の焼ける音がやけに耳に付く。隣に座った魅琴ちゃんが膝の上でぎゅっと両手を握り締める音まで聞こえたかのような静寂。

 それを破ったのは、お母さんだった。

「問題ないわ。もうご実家のお母様にはご挨拶したから」

 ご実家の/お母様には/ご挨拶/したから。……ええええええ?!

 なんで実家の電話番号を知っているのかと聞くと、すまし顔のお母さんからご回答。

「高城さんからいただいたお土産の包みに書いてあったわよ? 電話番号」

「あ、あの……淳平君のお母さんは、なんて言ってたの?」

 これも聞いてなかったらしい魅琴ちゃんがおずおずと尋ねる。母は満面の笑みで娘に答えた。

「号泣してたわ」

「おいママ」

 さすがにパパも止めに入った。顔色を赤くしたり青くしたりと忙しく変化させながら、妻を諭しにかかる。でも、通じないんだな、これが。

「パパ、うちにとって大事なことなんです」

 そして俺に向き直ると、

「私はね、お母様にこう言ったのよ。『お宅の息子さんが、うちの娘と一緒に暮らしたいっておっしゃってるんです。でも、うちにとっても大事なブリーダーの跡取り娘なんで困ってます。このうえは息子さんにうちを継いでもらいます。あしからずご了承ください』って」

「……3、2、1。はい、進路確定じゃの」

「ま、しょーがないんじゃない。あたしらも淳平に帰られたら困るし」

「……お兄ちゃんのバカ」

 以上、うちの3体の声をお届けしました。

 その後、折を見て店の外で実家に電話して、お袋に泣かれた。俺はただごめんとしかいえなくて、後日ちゃんと説明するからと電話を切ったのは10分後。店内に戻ると、アマネとスミがなにやら揉めている。スミが大事に焼いていた肉をアマネが食っちまったって……キミたちどうしてこんなに肉があるのに喧嘩になるんだい?

「魅琴さん、この白い塊は何ですか?」

「ほたての貝柱って書いてあったけど。でも多分、タイラギだと思う」

 食べるかと勧められたリオが、ふるふると首を振って言った。

「すみません、うちらまた明日から海産物生活なんで」

 そうそう、明日からさば味噌煮三昧だぜ。

「ほんとに肉食べさせてないんですね」

 とゲンゾウが自分も肉をパクつきながら言う。さっき食材の補給に行ったら、店長と思しきおじいさんが涙目で補充していたらしい。

 リオが肉を網に隙間なく並べながら言った。

「そういえば、引越しはいつにしようね? やっぱりもうちょっと暖かくなってから? それとも、もう辛抱たまらないって感じ?」

 俺は苦笑い。

「そんなにさっさと出られないよ」

 退去の1ヶ月前までに大家さんに言わないといけないから、今からだと3月末かな。

 そんなこんなを話しながら、ブリーダーのオッサンや石松たちに冷やかされつつ、打ち上げははねた。会計をしようとレジに向かったら、すっと前に割り込むお父さん。大人気ないおっさんだな。先が思いやられる。

「あそこの7テーブル、全部でいくらですか?」

 お父さんの口調は意外と丁寧なものだった。付いてきた石松ともども、自分たちの分は払うからと言ったらじろりとにらまれて一言。

「学生が遠慮するな」

 はい。

 俺と石松は素直に頭を下げた。


2.


「ふう、食べた食べた」「お腹パンパン」「うう、締めのアイスが入らなかった」

 本当に腹を膨らまして、うちの3体が苦しげに、でも満足そうにうめいている。良かった良かった。

「ほんと、ありがとな。お前らが勝ってくれたおかげで、なんとかなりそうだよ」

 俺の感謝に、アマネたちはくすぐったそう。

「う、まあ、日頃いろいろっちゅうか養育してもろぉてるから」

「そうそう、お互い様よ」

「できればあのお部屋で一緒に暮らしたかったけど……」

 スミの言葉に少しだけ胸が痛む。

「そんなお別れみたいなこと言うなよ。これからも一緒だから」

 俺はそう言いながらスミの背中を撫でてやる。

 ブリーダーズの一団はここでお開きだそうで、改めてお父さんにお礼を言って別れた。うちの監督はアキラに付いて行くらしい。

 タケヒロだけスミの世話係拝命で居残り。俺たちは近くのカラオケでも行こうかと歩き始めると、携帯が鳴った。記者さんからだ。

『ああ、高城君。お楽しみのところごめんね。どーしても今日中にアマネさんとリオさんのコメントと写真撮って、原稿上げろってデスクがうるさくてさ。頼むよ。10分だけ』

 そう言われてはむげに断れず、記者さんに指定されたのはお店から歩いて5分ほどの緑地公園。その中央広場でインタビューと写真を撮りたいという。

 緑地公園は夜の8時とて、人っ子一人いない静寂と暗闇の空間だった。住宅街からは離れているせいか散歩者すらおらず、あるいは散歩やウォーキングの需要がないから常夜灯も少ないのか。

 入り口の案内図で位置を確認すると、俺たちは中央広場を目指した。自分たちが遊歩道を歩く音だけが耳に響く。

「なんか、メグ的には嫌な感じ」

 どうせこのあと一緒に二次会行くんだからとみんな付いてきた。そのメグの言葉に猿渡さんも同調する。心なしか震えてるような。

「なんでこんな所で取材なんだろ。お店まで来ればいいのに」

 石松はどうしても猿渡さんに突っかかりたいようで、

「お前ってほんとめんどくさがりだよな。この間だって洗剤が切れたからっ――」

「危ない!!」

 突然リオが叫ぶと、俺たちの斜め後ろに向かって突進した。数瞬後、ガシッという肉と肉がぶつかり合う音が聞こえ、リオが弾き飛ばされる。

 リオを弾き飛ばしたもの。それは、雑木林の闇から姿を現した。奇形かと思うほどに長く太い爪とそれをぶん回すための筋骨たくましい腕から方のライン。

 リーパー。近接戦闘において、打撃と組打ちに特化したのがグラップラーなら、切断と刺突に特化した特定種。

「じ、淳平君! あっちからも……!」

 と魅琴ちゃんの悲鳴交じりの声に振り向くと、そちらからもリーパーが現れた。石松が叫ぶ。

「な、なんでリーパーが襲ってくるんだよ!!」

 そう、グラップラーと違ってリーパーはひたすら対象を切り裂き、突き刺すことに特化して分派した特定種。ゆえに軍事用オンリーで民間には登録できないはずなのだ。

「淳平たちは逃げて! スミも!」

 リオの指示をきっかけに、アマネ、メグ、ジョータロー、ゲンゾウがリーパー2体とにらみあいを始める。こちらは5体。歩くのにやや不自由なスミを支えるタケヒロも最悪投入して、なんとか抑え込んでいるうちに安全な場所に逃げて通報を、と考えていたのに。

「おっと、逃がしませんよ」

 俺たちのすぐ近く、木陰から現れた男が猿渡さんの腕を後ろ手に捩じり上げたではないか。

「記者さん?! なんで?!」

 記者は驚く俺たちに向かって含み笑いをすると言った。

「くくく、冥途の土産にと言いたいところだが、死亡フラグを立てる気はないんでね。おとなしく全員肉塊になってもらうよ」

 猿渡さんの首元にぴたりとナイフらしき光物が当てられている。俺たちはなすすべもなく、記者の指示でリーパーと対峙するドラゴンたちの元へ押し戻された。

 血の気の失せた魅琴ちゃんが俺の腕にすがりついてくる。反対の腕には同じくへたり込んで震えるスミ。何か方法は、せめて魅琴ちゃんだけでも……

 やっぱりと言うべきか頭の回らないまま、記者が息を吸い込む音が俺たちの殺戮を告げるかに思えたのだが、

「後ろだ!」

 記者の叫びは俺たちの理解を超え、その次の展開はさらに想像を超えた。

 メグに向かって爪を振り下ろそうとしていたリーパーが、振り向きざまに吹き飛んだのだ。別のリーパーも、こちらはガードに失敗したのか頭を殴打されて後退し、その場に片膝を突いた。現れたドラゴンの1体は、先日のユー・ピーと思しき黒い奴。

「くそっ! 嗅ぎつけてきやがった!」

 記者の動揺した声が、すぐに汚い悲鳴へと変わる。振り向くと、猿渡さんが記者の光物を持つ手に噛みついていた。すぐに振りほどかれるも、その時発せられた猿渡さんの短い悲鳴に石松が我に返った。

「うらぁぁぁぁ!」

 石松が吠えながら記者にタックルをかまして吹き飛ばした。よし、あとはあの光物を押さえれば。助かった――

 聞き慣れた声の聞き慣れない悲鳴が、緑地公園に響いた。メグが新手のドラゴン、灰色のユー・ピーに突きを入れられたのだ。とっさに避けようとしたものの果たせず、左肩を突かれたメグは傷口から血をまき散らしながらくるりと半回転して倒れ伏す。

「メグぅぅ!!」

 逆手に取られていた腕を握り締めたまま猿渡さんが絶叫する。その声に応える者あり。

「うるさい女だ。ウノ、ドゥエ、トレ、騒がれる前にさっさと全員始末しろ」

 もう1体いた。俺たちの背後、赤いユー・ピーとともに現れたのは、先日見たあのフードの人物。声からすると男か。フードの男の指令により3体が動き出す。

 動揺から立ち直ったアマネたちがユー・ピーに立ち向かい、その間に魅琴ちゃんが110番通報するべく携帯を操作した。なんとか警察が到着するまで持ってほしいが、こちらのドラゴンは傷を負わせられるばかり。特にタケヒロは赤い奴に完全に力負けしている。

 と、その時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。いくらなんでも早すぎる気がしないでもないが、それはまさに天の助けだった。だが、それもタケヒロが仰向けに倒れた音にかき消された。スミは腰が抜けたらしくどさりと座り込んでしまう。

「ちっ、思ったより早いな。トレ、あの三毛を殺して撤収だ」

 フードの男がゆらりと指さすのはスミ。赤いユー・ピーが迫るが、スミは腰が抜けたまま這いずってしか逃げられない。

「そんなこと……させねぇ!」

 俺は魅琴ちゃんを振り払うと、赤いユー・ピー目がけて突っ込んだ。体当たりで少しでも時間を稼ぐために。でも、あと30センチくらいまで近づいた俺の眼の前で赤い腕が振られ、そして。

 バシッ

 その音を、俺は他人事のように聞いた。なぜって、その音は魅琴ちゃんのところまで吹き飛ばされた俺が、赤いユー・ピーのところに激痛の代わりに置いてきた音だから。

 見上げる夜空ものぞき込む魅琴ちゃんの泣き顔もスミの絶叫も、全てが歪んでぐわんぐわんしてる。遅れて視界に飛び込んできたこの黒いのと赤いのはなんだ? ああ、アマネとリオか――

「トレ、その男も殺せ。やはり目障りだ」

 まだ耳鳴りの残る俺の耳に飛び込んできたのはフードの男の氷のように冷たい指示。どうなったのかわからないが倒れていた赤いのがパッと起き上がる。

「貴様……!」

 と歯ぎしりをさせながらアマネが、魅琴ちゃんに支えられながら起き上がった俺の前に立ちふさがる。

「よくも……!」とリオが震えはじめた。

「お兄ちゃんを、お兄ちゃんを……っ!」立ち上がったスミまで震えはじめた。

「よくもやったなぁっ!!」

 絶叫と同時に、光が3体の全身からほとばしり始めた。光はすぐに強まり、公園の闇をあまねく払うまでに強くなる。

「成体化が……今頃……!」

 猿渡さんを抱きすくめる石松の声が震えている。いや、これは、何かが違う。3つの光り輝く体の境界線というか輪郭が、だんだんぼやけてきてる。なんだこれ? どうなってるんだ?

「潰せ! 成体にさせるな!」

 フードの男の声も気のせいか震えている。その指示に応えて動こうとした赤いユー・ピーの動きが止まった。奴の右足に、タケヒロがしがみついたのだ。

 タケヒロを引き剥がすのに赤いのが手間取り、灰色がゲンゾウを、黒がジョータローを蹴散らして駆け付けたのも遅く、光は治まり、そこには1体のドラゴン成体が残っていた。巨躯の背に3対の翼を持つ、それが。

「トライロード……!」

 魅琴ちゃんが俺の腕をぎゅっとつかんでつぶやく。わけがわからない。どうしてこんなことに……そしてそれは目の前の成体も同様のようだった。

「え? え? なんであたし、逆さなの? あれ、身体動かない、なんで?」

「あれ? どうなってるの? わたし、なんでアマネちゃんたちとくっついちゃってるの?」

「な、なんでリオやスミの声が頭の中で……」

 混乱しているのを見てチャンスと思ったのか、赤いユー・ピーがトライロードにその手刀を突き立てようと走り寄る。

「わ! 危ない!」

 スミの声に続いてトライロードが左腕を振るった。無造作にすら見えるその一振りは、もう少しのところでトライロードの身体に爪の先が届くところだった赤に命中! 赤は吹き飛んで立ち木に激突し、沈黙した。

 その時、大勢の声と走り寄る足音が近づいてきた。さっき聞こえたサイレンからすると、警察だろうか。フードの男を見ると、彼は逃げるそぶりすらせず、残る手下のドラゴンに向かって低い声で言った。

「ウノ、ドゥエ。焼却せよ」

 黙ってうなずく黒と灰色。トライロードがそちらを振り向くより早く、ユー・ピーたちは飛び上がった。

「2体逃げたぞ!」

「うわ、なんだあのドラゴン?!」

「お巡りさん、あのフードの男が犯人です! それからそこのメガネのおっさんも!」

 警察官の怒鳴り声と石松の指示が交錯する中、俺はずきずき痛む頭を抱えた。魅琴ちゃんの悲鳴に近い労りの言葉に微笑もうとするが、脂汗が止まらない。痛い。

 だから猿渡さんの金切声は正直嬉しくなかった。凶兆を告げていたから。

「見て! あれ、フレアーを……!」

 無理やり頭を動かすと、上昇し続ける2体の口元に発光が認められた。結界を展開している。……そうか、フードの男は、

「……自分ごと、全てを焼却させて……」

 ウノとドゥエが上空で反転し、俺たちのほうをまっすぐ向いた。奴らの顔の前、開かれた咢の前にはすでにかなりの大きさのフレアーが溜まってきている。やばい。

「魅琴ちゃん逃げて……」

「いや!!」

 彼女は俺に抱きつき、でも目を閉じずに俺の顔をのぞきこんでくる。

「いや。淳平君と一緒に――」

「そんなこと、させない!!」

 トライロードの3つの咢が吠えた。空中のドラゴンたちに向かって顔を上げると、その顔の前、3つの咢が形作る三角形の中心上に光の輪が幾重にも重なって形成され始める。

 上空の2体からのフレアー発射に何秒か遅れて、トライロードの顔前から、フレアーとは比較にならない大きさの光塊が、細密積層結界により生成された"スーパーノヴァ"が放たれた!

 フレア2つと真正面からぶつかってそれをあっけなく飲み込んだスーパーノヴァは、勢いを削がれることもなくさらにさらに翔け昇った。離脱しようとした2体のユー・ピーだったが光の外に逃れることは適わず、スーパーノヴァは2体のドラゴンを跡形もなく消し去った。

 眼が慣れて元の漆黒に戻った夜空から地上に目を戻すと、トライロードが俺を見ていた。その3対の眼は悲しげで、話しかけるため立ち上がろうとしたところで頭に激痛が走り、俺の意識は途切れた。

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