騙欺と卒爾
更新遅れた〜(´Д` )
夜月先生の後を追って歩いていると先生が不意に振り返った。
「なぁ、龍胆……」
「な、何ですか?」
じーっと俺の事を凝視してくる。な、なんだ? 寝癖でもついているのか?
「さっきから気になっていたんだがーーー」
「は、はい」
「ーーーその頭の猫はどうしたんだ?」
「えっ、頭? 頭に猫ってどういうーーーって! シャル! なんでお前頭に乗ってるんだよ!」
「にゃあ〜」
頭に手をやってみると定位置と成りつつある頭にシャルがペタッと乗っていた。
ぜ、全然気がつかなかった………。いつの間に乗ったんだ? というか!
「シャル! ちゃんと家で待ってろと言ったのになんで着いて来ちゃったんだよ」
「にゃあ〜…」
「え? 家で1人じゃ寂しいって? いや、だからって学校まで着いてきちゃダメだろ……」
「いや、私には猫と会話が成り立っているお前にビックリだ」
夜月先生が何か言っているがシャルとの会話で聞いていなかった。呆れているように見えるがなぜだろうか。
「ーーーで、龍胆。その猫は頭から退かせないのか? 強面のお前とのツーショットは中々にシュールだぞ」
「えっと、やってみます。っと! っく! 痛っ! 痛てててて!!」
「にーー!!」
頭から剥がそうしてもシャルが爪を立てて全力で抵抗してくるから食い込んで痛い。
何がシャルをここまで駆り立てるのかはわからないが退きたくないという意思は頭の痛みから十分伝わってきた。
「先生。無理です。シャルを剥がすと俺の髪の毛までもがオマケで付いてきそうです」
「……そうか。まぁお前が禿げようが構いはしないんだがな」
なんて酷い事を言うんだ。……なんだがこの先生の素が見えてきた。
「しかし剥がせないとなるとな………まぁ授業の妨げにならなければ大丈夫か」
えっ、いいのかよ。駄目とか言われると思っていたのに予想外だ。
な、なんだ? また先生が俺の事をじーっと見てきている。あ、なんだが悪い笑みを浮かべている。嫌な予感しかしない。
「ーーーなぁ龍胆。これから教室に着いたら自己紹介をしてもらうんだが………」
「え、えぇ。そりゃそうでしょうね」
「その時、ガッとクラスメイトの心をーーーー掴みたいとは思わないか?」
「え? それはどういうーーー」
「だから、自己紹介で良い印象を持たれたくはないか、と聞いているんだ」
「そ、そりゃ良い印象を持たれたいですよ……」
先生はニヤッと笑みを浮かべて、
「だろう? あのな、私に良い考えがあるんだがーーーー」
◇◇◇◇◇◇
先生の提案を聞いてから現在は2年1組の教室前。
「よし、龍胆。私の言った通りにやるんだぞ?」
「わかりましたけど………本当にこれで大丈夫なんですか?」
「あったりまえだ。ーーー先生を信じろ」
最初に先生の提案を聞いた時には絶対バカにしてるだろ、と思っていたがそれが覆される程に先生の今の表情は真剣だ。
その表情で見つめてくる先生を見るとどれだけ真剣に俺の事を考えてくれているかが窺える。
……そうだよな。先生は俺の事を真剣に考えてこの提案をしてくれたんだ。俺が信じなくてどうするだ。
「ーーーーわかりました。先生を信じてやってきます」
「あぁ、行ってこい!」
先生の言葉を背に受け、ガラッと教室のドアを堂々と開け放つ。
少し騒ついていた教室が静かになり、全ての視線が俺に向けられる。
教壇に上がり、教室全体に目を向ける。皆興味心身といった様子だ。
さて、ここからだ。ここで失敗は許されない。絶対に成功させる!
チョークを片手に持ち、黒板に『龍胆 美桜』と書く。
チョークを置き、前に向き直る。深く深呼吸をして心を落ち着かせる。
ーーーさぁ、やろうか!
バンッと教卓に音を立てて両の手を置く。クラスメイトは音に少しビックリした感じだがそれを無視。大きく息を吸い込みーーー先生に言われた通りの事を実行に移す。
「ーー今日からこのクラスに復帰した龍胆 美桜だ」
ここで教室のドアの少し空いた隙間からシャルが教室内に入ってくる。
シャルはトテトテと走り、教卓にジャンプをして乗り定位置となっている俺の頭に飛び乗る。
シャルが作戦通りに乗ったのを確認したら真剣な表情をして教室を見渡す。
クラスメイト達は一連の出来事に処理が追いついていなく、ポカンとしていたが俺の真剣な表情を見てゴクリと唾を飲み込む。
一呼吸置いて、俺は口を開き今日一番と言われるぐらいに凛とした声で言い放った。
「ーーー俺の事は是非『美桜ちゃん』と呼んでくれ!!」
その瞬間、空気が凍った。
……………ヤバイなんだこの空気。
クラスメイトはみんな再びポカンてしちゃってるよ…………。なんだよ、これやったら皆の心を鷲掴みに出来るんじゃないのかよ!
犯人を探して教室のドアに目を向けると腹を抱えて笑いながら犯人は教室に入ってきた。
「アハハハハハッ!! 龍胆……まさか本当にやるとは……クッ! 思わなかったぞ……!!!」
「アンタ確信犯だな! 絶対こうなるって分かってて俺に提案してきたな!」
「ハッ、当たり前だろ。あんなので心を鷲掴みに出来る訳ないじゃないか」
こ、こいつ、鼻で笑いやがった……!!
「はい、じゃあもう自己紹介はやったみたいだからお前は空いている席につけ」
「くッ! お、覚えておけよ!」
「ハイハイ、5秒程度なら覚えておいてやるよ」
しっしっと手で払われて渋々と空いている席に座ろうとしたら空いている席が無い事に気づいた。
……………………。
「……先生。空いている席がありません」
「ん? あぁ、机なら多目的室にあるから取ってこい」
「えっ?」
「いやだから、多目的室に余ってる机があるから取ってこいって言ったんだ」
………普通あるよね? なんで無いんだよ………。まさか、俺がイレギュラーに入ってきたからか? いや、多分そうだろう。
はぁ、ならしょうがないか。
俺は教室を出て、先生に教えて貰った多目的室の場所に足を運んだ。
◇◇◇◇◇◇
時が経ち、現在は昼休みである。ちなみに座席はというと腹いせとして窓際最後尾を取らせて貰った。当然だ。
ーーだが、俺は重要な事に気がついた。
「昼飯が無い………」
そう昼飯を忘れていた。学食に行くにも金が無い状況では役に立たない。……どうするか。モンモンと悩んでいると1人の女子生徒が近寄ってきた。
「ねぇねぇ、アンタが雅の言っていた美桜って言う人だよね?」
「え、あ、あぁ。そうだけど………」
「あ、ゴメン。私は秋月美緒。よろしくね」
秋月というのか。髪をポニーテールに纏めて少し活発そうな印象だ。背はそこまで高くない。
「そ、そうか。こちらこそよろしくな」
「んで、こっちが本命よ」
秋月は一緒に持ってきていた鞄の中から小包のような物を取り出して俺の机の上に置いた。
「えっと、これは?」
「ん? あぁ、これ? これは龍胆がお弁当を持ってきていないだろうって雅が思ったみたいで朝作ってきたみたいよ」
「え、本当に?! た、助かったー。昼飯が無くて困ってたんだよ」
まさか、雅が作ってきてくれていたなんて驚きだ。でも、本当に助かった。これで昼飯抜きを免れた。
それにしても秋月は雅とどんな関係なのだろうか。少なくとも友人ではあることは間違いない。
「でも、どうして秋月が?」
「あぁ、それはね私が雅とルームメイトだからよ」
「ルームメイト?」
「そ、管理課の寮のね」
「ッ!?」
か、管理課?! ということは秋月は管理課に所属してるって事か……。という事はバディもいるってことか。
「龍胆の思っている通り、アタシにもバディがいるわよ。ーーコイツがね」
「おわっ! ……美緒ちゃんなんか用ですかい?」
秋月がそういって近くにいた金髪ピアスの男の襟を引っ張り俺の前に持ってきた。
「いやね、龍胆にアタシのバディを教えておこうかと思ってね」
「あぁ、そう言うことですかい。んじゃ、自己紹介といきますか」
金髪ピアスは秋月から手を離して貰い、俺の前の席の机にドカッと座りニヤリと笑う。
「オレの名前は安曇道船。管理課所属の秋月美緒のバディだ。以後よろしくな」
「あ、あぁ……..。よろしく……」
サッと差しでしてきた手を握り、握手をすると安曇は満足そうに頷く。
「そう怖がらなくていいぜ。オレの事は道船って呼んでくれや」
「そ、そうか。わかったよ道船」
道船は再び満足そうに笑うと机から降り、前の椅子を俺の机にくっつけてきた。
「昼飯は1人なんだろ? 一緒に食おうぜ」
「ん、いいぜ」
「あらら、私はお邪魔みたいだから戻るわね。また放課後ね」
秋月はそういって女子のグループの中に戻っていった。
「おっと、邪魔者は居なくなった事だし男だけのボーイズトークと洒落込むとしますか」
「やめとこうぜ、飯が不味くなる」
「そこまで言うか……」
ガックリとうな垂れた道船を無視して雅特製の弁当箱を開ける。
「おぉ…美味しそうだ」
「お! 本当だな。俺も雅ちゃんの料理は見た事ないからビックリだぜ」
「そうなのか?」
「あぁ、そうだぜい。いつも寮では美緒ちゃんが料理担当らしいからな〜」
初耳だ。ならこれは雅が初めて? 作ってくれた料理なのか。
「じゃあ、この玉子焼きから頂きますか」
「オレっちにも少し分けてくれよ〜」
「お前は購買のパンで我慢しとけ」
懇願してくるヤツを無視し、綺麗に彩られた弁当の中から玉子焼きを摘み、口に運ぶ。
…………………………。
「ど、どうしたよ? 口に運んでから微塵も動いてないが………感動で気絶でもしたか?」
「ど、道船………。こ、これ………」
「だからどうしたよ? そんなに美味かったのか?」
「い、いいから………食ってみろ……」
「お、いいのか? なら遠慮無く〜」
道船が弁当からエビフライを手で掴み口に運ぶが口に入れて数秒で咀嚼が止まる。
「…………おい美桜ちゃん」
「美桜ちゃんいうな………何が言いたいか……分かったか?」
「あ、あぁ。こ、これーーー味が無い!?」
道船が明らかに動揺している。それもそうだ。味が無いんだから。
これは本当に味が無い。口に何か入っているのはわかるが味が無いから何を食べているのか分からない。もうこれは不味い云々の話では済まされないレベルだ。
「ど、どうするだこれ? 残したらきっと雅ちゃんは悲しむぜい…」
「わ、分かってる。分かってるんだが……」
これならまだ物凄く不味かったほうが良かった。味があるから我慢すれば食える。
だが、味が無いとこうもいかない。空気が形を持って食べれるようになったみたいだ。
弁当箱を目の前にウンウンと唸っていると道船がカッと眼を見開いた。何か良いアイディアでも浮かんだのか?
「そ、そうだぜい! 食堂で調味料を貰えばいいだ!」
「!? その手があったか! 道船、食堂まで案内してくれ!!」
「おうよ!」
その後、弁当箱を片手に食堂に駆け込み調理しているおばちゃんに調味料を掛けて貰い無事完食する事ができた。
俺と道船はその日、初めて会ったのにも関わらず固い友情で結ばれた。
次回はもうちょっと早い更新を目指します
(`_´)ゞ