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夢C


夢C


 『私』は海の中にいた。。

 『私』の意識は徐々に海の底へと沈んでいき巨大な神殿へと辿り着いた。

 底知れぬ混沌を内包した、巨大且つ異様な、穴蔵とも渓谷ともつかない巨大な石の塊。

 自然物では決してありえない、形を整えられた独立石。

 奇怪な文字を用いて記された碑文と、様々な水棲生物を象った彫刻。

 苔に覆われ、僅かに緑の光彩を放つこれらの物体は、人工的に加工されたものであった。

 この禍々しくも荘厳且つ不可思議なこの神殿から『私』は、強烈な懐かしさを感じた。

 そのどれもが尋常ならざる巨大さであり、物理と遠近の法則がことごとく狂っている。

 すべてのものの相対的な位置関係が幻影さながらに変化しており、凸面が凹面に、鈍角は鋭角に、狂ったようにあやふやになっていた。

 『私』はこの場所の名前を知っている。

 此処は『ルルイエ』。

 大いなる神『クトゥルフ』が悠久の夢を見る墓所であり、歴史の表層から抹消された忘却の神殿。

 そして、『私』が最もよく知る場所だ。

 『私』の意識は、神殿の最深部へと向かっていた。

 そこのあったものは巨大な壁だった。

 巨大且つ非自然的な石の壁には、数多の水棲生物のシンボルたちが描かれている。

 『私』は不意に背後の方へと意識を向けた。そこから奇妙な気配を感じたのだ。『私』はそこに何かが存在するとはっきりと知覚した。

 光すらも届かないはずの深海の闇。その先に在ったものは眼だった。

 無数の血のように赤い瞳が、光を放ち闇の奥深くに蠢いていた。

 老木の幹のように太い無数の触手。

 鮫の様に鋭い牙。

 鱗にまみれた巨大な腕。

 肥大化した頭部から髪の毛のように生えたいくつもの細長い緑色の触手。

 蝙蝠に似た巨大な翼。

 顔に並ぶ無数の赤く輝く瞳。

 間違いない。

 『私』はこの『存在』を知っている。

 『私』はこの『存在』の名前を知っている。

 『私』はこの『存在』が誰であるかを知っている。

 認めたくはなかった。

 知らなければよかった。

 無知であり続けることが出来たならば、どれほど幸福だっただろうか。

 最初の日。

 あの時点で、真実は『私』の目の前にあった。

 あの部屋にあるものはガラス窓などでは無く、一枚の鏡なのだ。

 それこそが真実。

 それこそが『私』の欠片。

 『私』は『私』が誰であるかを理解した。

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