4 寄贈の申込
春本隆は著名な推理小説作家。江戸時代の作家から名前を考えたと言う代表作の名探偵・北南矢鶴が活躍するシリーズは50作を超え、テレビの推理2時間ドラマによく使われている。他に時代物には女岡引・弁天の日吉が活躍するシリーズ、女子大生探偵・美友満シリーズなどがある。
その春本本人から鳩目図書館に「自分が集めた本の一部だが、図書館に寄贈したいので、一度きて欲しい」との電話が有った。
春本は有名作家であり、また古書・珍本・貴重本・初版本などの著名な収集家であり、「春本コレクション」と呼ばれている蔵書がある。
発行部数が少ない珍しい本や初版本、原作者の直筆サイン入りなど希稿本が溢れているとか。
その中から、今回は珍しい図鑑類や絵本などの専門書約100冊と児童向けのものが約100冊、今では手に入りにくい資料的価値の高い推理小説黎明期の本約100冊。古書収集家にとって垂涎の本も数多く寄贈するなかにあるという。
春本が取材旅行の折りに購入したエッセイや小説などの文庫本300冊余りに、春本の著作物約50冊の合計約650冊を寄付したいとのこと。
次回の寄贈分には、希稿本、初版本だが箱無し帯無し著者のサイン入りを含む約500冊とのこと。
乙佐香市の場合、本の寄贈はカウンターに持参したものだけを受け付けることになっている。
図書館から受け取りに行くことは無い。
寄贈の場合は、寄贈された本は基本的に寄贈を受けたところの図書館に必要なもの、合致するものをまず選別する。
高度な専門書などは中央図書館などに、それ以外のものは、他の図書館にも回されるシステムになっている。
その選別等は寄贈を受けたところ、つまりこの場合は鳩目図書館の判断に任されている。
本来、寄贈本は受け取りに行かないのだが、友美は噂に聞く春本コレクションを一目見たいと思い、一度訪ねてみたいと上司の鳩目図書館の責任者・流賀内に相談した。
流賀内も噂の春本コレクションが見られるならと同行することになり、休館日の月曜日か、比較的来館者の少ない水曜日に訪問することにしたいと連絡し、春本の秘書の小嶋との打ち合わせで、3月下旬に訪問することになった。
その時に、邸内を案内して貰ったが、以外にシンプルな造りだった。
三階建ての新館と春本本人が住んでいた母屋があり、大体の間取りは頭に入った。
今まで母屋にあった書斎を、新館三階に作った書斎に移転し、母屋を建て直す計画らしい。
新館は、一階にダイニングや事務室があり、二階は廊下を挟んでゲストルームとして左右に三部屋づつ、計六部屋がある。地震・防火・防音対策を兼ねてかなり頑丈に作られている。
春本は、新館が完成してから、新しい書斎で執筆と整理をしながら寝起きしている。
蔵書は全て母屋にあり、寄贈分と新しい書斎に残しておくものとに分けられている途中であった。
春本側が整理するのと、鳩目図書館が受け入れる準備に各々2週間程かかるので、余裕をみて4月下旬に春本側が図書館に持って来る事で話が纏まり、その日はそのまま引き揚げた。