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三吉友美の事件簿 Fの悲劇  作者: 大瓦 啓介
11/12

10 犯人は・・・

「爺さんたち、あの本を使って、どうして連絡していたのだろうか」


「本に書き込みか、あるページの文字にしるしがしてあって、それをつなげると文章になるのかも知れませんけど、もっとストレートに書き込みされていたのではないでしょうか」


「今どき、そんなアナログ的な方法を採るかぁ?考えられないが!携帯やメール、或いはHPに分からないように暗号で載せてリンクで飛ばすとか、パスワードにしておけば、不特定多数の目に触れることは無い。」


「メールやSNS、ツイッターを使いこなせる人ばかりとは限りません。携帯やメール、ネットは辿っていけば、接続記録が残っている…警察権力を持ってすれば、簡単に証拠になります。直ぐにわかる証拠を残すとは思えません」


「本だと指紋がつく」


「無ければ、おかしいでしょう、借りたのだから。レーダーに映らない最高のステルス機は、何だと思います?」


「なんだよいきなり。ステルス機? んーとX-3か?」


「最高のステルス機は、木製のグライダー。木と布の複葉機もそうでしょう。」


「末端の売人等は携帯やメールを使っているが、大元は意外とアナログだということか…。」


「Aグループの一人とBグループの一人が、図書館で貸出カードをつくる。最初に1回だけカード番号とパスワードとパラメーター表を受け取っておけば、三年に一度カードを更新すれば、半永久的に使えます」


「ん?…どういうことだ?」


「例えば乙佐香の市立図書館全館に一冊しかない本を借りてくる。別のカード番号で、その本の他の予約がないことを確認して予約をいれる。本の1ページに鉛筆で情報を書き込み、図書館に返却する」


「・・・」


「図書館でも一応のチェックはします。栞とか何か挟まっていれば、取り除きます。勿論書き込みがあれば消すなりの処理をしますが、パラパラと見るだけです」


「見つけられないってこと?」


「本当は見つけなければいけないのでしょうが、公共の本に落書や切取りなどしないだろうという前提ですから…現実問題として薄く鉛筆で書かれていれば、まず見つからないと思います」


「・・・」


「図書館は、次の予約者、つまり別のカード番号で予約した人宛に準備が出来たメールを送ります。メール登録してないと、準備ができたかどうかは、窓口で確認することになります。本を受け取り、情報を読み取って丁寧に書き込みを消す…」


「言い換えれば、別の人間が予約して爺さんが取りにくる役目か…。図書館側で丁寧に見れば、書き込みを発見できるのでは?」


「言い訳になりますが、鳩目図書館は、返却の方だけで少ない日で500人、多い時は1000人近く、平均で700人の方が来られます」


「700人か・・・」


「全てではないにしても、殆どの方がまた借りて帰られます。つまり人数的には倍の方々が窓口に来られるわけです。平均一人3冊としても、貸出・返却共で6冊、掛ける700人で、4200冊、多い時は一万冊近くを処理するときもあります。」


友美は、横目で啓介を見ながら

「更に、誰かさんのようにあーだこーだ、こういうものが載っている本はないか?とかの相談に手がとられます。また、取寄せや予約して欲しいとか予約本の受け取り、その他にも新規カードの作成の方や、期限満了による書換の方もいらっしゃいます」


「…ん…?」

啓介には、なんか引っ掛かる言い方であったが、敢えて聞き流した。


「開架式だから、返却された本は本棚に戻さなければなりません」

一般的に図書館は返却手続きをした本は、元の場所か返却棚に返すところが多いが、鳩目図書館は返却した本は、昨年頃から本棚整理を兼ねて図書館員が棚に戻すシステムになっている。


「これらは表の部分で、裏に回れば他館からの返却本、他館への返却本の整理・分類。予約本が準備出来たらそれぞれにメールや電話でお知らせしなければなりません。また、延滞している方に返却を促すメール・電話もします。それから…」


「分かった分かった」忙しい図書館司書の一端を改めて認識した。

これなら、目立たない書き込みなら、発見されて消される心配は無さそうだ。


「全く会わずに証拠も残らないという訳か…」

密輸・密売グループはこれらの盲点を利用して安全に連絡をとっていたのだろう。


「誰かがそのからくりを発見し、本を奪ったのだろうと思います」


「予約した本はどこの図書館でも受け取れるのか?」


「予約本の受け取りは、基本的に図書館カードを作成した図書館となります。他の方法も無いわけではありませんが、手間と何人もの人間が関わりますから、手間隙かけて証拠を残すような方法は取らないと思います。」


「返却はどこでもいいよね。誰が借りていたかは判らないのか?」


「貸出記録は返却時に消去されます。でも次の人の予約があれば返却時にわかりますから、そのまま手続きに入ります。ここで返却されたか他館からの返送されたものかぐらいはわかります。今回の場合は、返却ポストでもなく、ここで返却されたものです」


「つまり、犯人は鳩目図書館に返却に来ているわけだ」


「稲尾さんが登録しているから犯人が鳩目で登録しているかどうかは分かりません。しかし、あの本は当館所有の本で、他館からの予約によって送ったという記録はありません。そしてここで返却されています。だから、犯人は鳩目で登録していると考えた方が整合性があります」


「登録してネットで予約できる人物ということになるが、何人ぐらい登録しているの?」


「おおよそ27000人が登録しています。児童を控除しても約20000人。その内昨年度利用者は12000人です」


「・・・多いな…」


「犯人に当てはまる条件を考えてみればどうですか?」


「①東南アジアからの密輸に何らかの関係する人物との接触が出来る、あってもおかしくないのは、輸入会社OLの前田と、出稼ぎにきている人を交代で常時雇っている錦戸、同じく出稼ぎ人の多いキャバクラの黒服の丸山。他の2人もないとは言い切れない」


「②密輸グループ側の一員であり、売人グループとの連絡係である。即ち、鳩目図書館にネットで予約出来るのは、小嶋と錦戸と丸山の三人」


「③横山が春本に会いに来たことがあることを知っていた人物…は春本に取次いだ秘書の小嶋と、たまたま春本邸にきていた丸山」


「横山は、当然春本にアポを取ったと思います。小嶋が対応したと思います。小嶋が犯人なら春本に会わせないよう何らかの動きがあったはずです」


「④そして面談のメモを春本が破棄したことを知らなかった人物は、村上と錦戸と前田」


「⑤5人の中でダイイングメッセージのFがしめす人物。Fとは鉛筆の記号のFではないでしょうか。いつも使っている鉛筆はFです。何故なら、鉛筆を使用するのにH系=HBやH、2Hは使わないし、書き方鉛筆=Bや2Bは濃過ぎて使わないならば…製図・図面等によく使われる「F」しかありません」


「鉛筆のFか・・・昔使ってたことあったなぁ」


「全てに当てはまる人物は、唯一錦戸しかいません。錦戸にすれば、製図も原稿も使い慣れた鉛筆を使っていたのでしょう」


「そうか…錦戸か…有難う」


「それで、どうするおつもりですか?」

「犯人を捕まえるのは警察の仕事。我々は警察じゃない。証拠があるわけではないし、犯人がと言うか、真実が判っただけでいい。」


啓介は心の中で、友美美神と話が出来ただけでも良かったとつぶやいていた。


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