透明な箱
ずっと背中にあった箱を
自分の手のひらに置かれて
「これがキミだよ」
と突然言われた。
そんなような感じがする。
空っぽの箱の周りには
知っている名前がたくさん書かれているけれど
その名前達は箱の中には現れない
僕はちょうど箱の真ん中にいる
ひとり座っている
透明な箱の中からはたくさんの名前が見えるけど
どの名前も光はしなくて
それは頭の中でただの壁画のような認識でしかなかった
「誰かと一緒にいたい」
そう思っていないといえばうそになるけど
そう思っていない時の自分もいる
受け入れてもらえない悲しさと
当たり障りのない会話の安心感
そんなはざまで揺れているから
時々見えてしまう背中の箱
普段は見えないところにある
この透明な箱は
ふとした瞬間に自分の前に現れては存在は主張してくる
そのたびにあたしは箱の中の名前を探す
そして
その箱の中にはいつもきまって名前がない
一人が寂しいと思った時は特にない
だけどこの箱が現れるたび
思い知らされることがあるとすれば
その箱の中の自分の前には机があって
その机にはいくつものコップに常に紅茶が入っているということ
「孤独」
そんな言葉なんて無縁なものだと思っていた
そんな言葉なんていらないものだと思っていた
毎日を当たり障りなく接することに
なんの意味があるのだと思えてくる
それと反対に
自分のすべてをさらけ出して話せる人なんて
この世に存在しないということを思い知らされる
はあ、もうなんなんだと
寝そべって見上げる天井に
箱の中を覗く人影もない
箱の周りの名前達は
水玉模様になっていくけど
自分だけはこのままかわらず箱の中
いつもは背中に追いやっているから
見えないようにしているから
こうして目の前に出されたとき
どうしても動揺してしまうんだ
「誰かそばにいてほしい」
そしてなぜだか
いつの間にか箱の中の水位が高くなる
溢れ出すことのない
湧水のように淡々と
読んでくださりありがとうございました。
孤独というのは誰しもがもっている感情だと思うのですが、
それを乗り越えていくことの難しさと
それを漏らさない心の強さの必要性を感じ、この作品を書きました。