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魔剣カタナとそのセカイ  作者: 石座木
第三章 私が私として
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三章第十六話 謎が明かされる(前編)

 騎士団本部を脱走したカタナは、騎竜であるクーガーにまたがり共和国の首都レーデン上空にいた。

 早朝の街並みを一望し、道行く人に目を走らせる。だがすぐに、それでは広い首都の中から探し人を見つけるのは不可能だと実感する。

「……悪いなクーガー、少し騒がしくするぞ」

「ピー?」

 首を傾げたクーガーの両耳をカタナは手で塞ぐ。

「すうーーー…………」

 そして大きく息を吸い込み、腹に力を込めた。

 地上からカタナを見上げる視線の中には、巡回していた協会騎士団の者も含まれている。今はまだ脱走した事が知れ渡っていないからか、騎士達は不思議そうにしているだけだが、いつそれが知れてしまうのかは解らない。

 だから幾ばくか自由に動ける今の内に無茶をしておこうと、腹に溜めた力を解放し、カタナは地上に向かって叫び声を上げた。

「サイノメエエエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 雷のように轟くカタナの声は、まるで首都全域に響き渡るようであった。

 上空を飛ぶクーガーに目を奪われていた者も、何も気付いていなかった者も、寝ていた者も、屋内に居た者も、一様に驚き何事かと空を仰ぎ見る程に。

 カタナは地上から向けられる視線を気にせずに、何度も何度もサイノメの名を叫ぶ。

 腹筋が張り裂け、喉を嗄らしそうにしながら精一杯の力で呼び続けた。


「サイノメーーー!! クソチビーー!!」

「――やめろや!!」

 公害としか言いようがないそのカタナの奇行を止めさせたのは、後頭部に叩き込まれたサイノメの拳である。

「よう」

「よう……じゃないよ! 何やってんだよ! 迷子の子供じゃあるまいし、公衆の面前で人の名前を連呼するな!! シャチョーには羞恥心ってもんはないの!? なんでそんな非常識な事を平気で出来ちゃうの!? そして、クソチビって誰の事だゴラアアアア!!」

 いつの間にかカタナの背後……空を飛んでいるクーガーの背に現れたサイノメは、顔を真っ赤にしながら捲し立てた。

「お前を探す方法が、これしか思いつかなかったからな」

「これしか思いつかないというその発想がもう恐ろしいわ! これであたしが出てこなかったらどうする気だったんだよ!!」

「…………出てくるまで街を飛び回って呼び続ける気だったが?」

「ひい、止めて、これ以上あたしを恥ずかしくさせないで! そんなの想像しただけでここから飛び降りたくなるじゃんよ馬鹿!」

 それからしばらくサイノメは顔を両手で覆って、本来カタナが感じるべきである筈の羞恥に耐え忍んでいた。 

 そしてそこから立ち直ったサイノメは、深々とカタナにあてつけるように嘆息する。

「はあ…………ほら、早く移動しないと。シャチョーのせいで随分目立ってるからさ、このままだと大陸最速の竜騎隊に追っかけられることになるよ」

「それも気になるところだが、まずはお前だ。これを逃したらまた探すのが難しいからな」

「……心配しなくてもあたしは逃げないよ。もうシャチョーにあんな恥ずかしい真似されたくないしね」

 よっぽど堪えたのか、サイノメは少し力の抜けた様子で項垂れていた。

 カタナは頷き、クーガーに合図する。

「ピーーーーー!」 

 四枚の翼を持つ飛竜は風に乗り風を起こし、更に上空へ舞い上がったのだった。



++++++++++++++



 とりあえずレーデン近郊のクーガーも含めて身を隠せる場所に落ち着いたカタナ、隣には約束通りサイノメの姿もある。

「えらい無茶をやらかしたみたいだねシャチョー。自分から協会騎士団を脱走してくるなんて、根暗の怠け者が大胆な事をしたもんだ」

「……」

「でもこれで、ようやくシャチョーも自由になった。自分から枷を外して表の舞台に上がれるようになったんだ。これは誇ってもいい事だよ」

 得意げにそう言ったサイノメは、まるでこの時を待っていたようである。いや、実際に待っていたのだろう。

『本気を出せばなんだって出来る』

『凡人足らしめているのは過分な重荷を背負っているから』

『協会騎士団は檻』

 今までサイノメからカタナに投げかけられていた言葉には、それが多分に含まれていた。

「自由か……確かにな」

 カタナは作られてからずっと何かに囚われていた――帝国特技研に、帝国特務に、そして協会騎士団に。

「ねえ、シャチョーは今どんな気分?」

「……悪くない気分だ」

 囚われるものから解放されたカタナを、縛るものは何もない。居場所や立ち位置というしがらみに揺り動かされることなく、自分の足で世界の上に立っている事を実感していた。

 それを聞いたサイノメは満足そうに笑っている。

「さあ、何が知りたいの? あたしを呼んだって事は知りたい事があるんでしょ? 今のシャチョーになら包み隠さず全て話しても良いよ」

「騙していた奴が、偉そうに物を言うな」

「あはは、まあまあ。これでも今まで可能な限りはシャチョーのフォローをしてきたんだ、少しくらいは大目に見てよ」

 誤魔化し方は適当だが、それも事実なのでカタナは何も言えなくなった。

「それで何から知りたいの?」

「……じゃあまずはお前の事」

「え? あたし?」

 カタナの言葉が意外だったのか、目を白黒させて驚くサイノメ。

「お前の存在が俺にとっては一番の謎なんだ。秘密主義で掴み所のない、必要な時には現れていつの間にか居なくなる。今までは便利の一言で済ませてたが、これからはそれで済ませる気は無いぞ」

 カタナは全てと向き合い、はっきりさせる為に協会騎士団を抜けてきた。これはその第一歩なのだ。

「う、うーん、あたしの事かあ…………解った、全部話すよ。今のシャチョーには話してもいいだろうし」

 サイノメは迷っていた様子だったが、しばし考えた後に意を決したように話し出した。

「実はあたしも、帝国特技研の出身なんだ」  

「何?」

 カタナやゼロワン、そして聞いた話ではカトリもそこで作られた可能性が高い。

「シャチョーと違ってあたしは魔元生命体ホムンクルスではないけど、実験体の一人であったのは同じかな」

 言いながらサイノメは自身の胸の中心を指差した。

「魔術装置・夢幻ミッシングリンク……孤児だったあたしは、幼い時にそれを体に埋め込まれたんだ」

「魔術装置・夢幻ミッシングリンク? もしかしてお前が、いきなり現れたり消えたりしていたのは……」

「そう、知っての通り夢幻ミッシングリンクの力は主に空間転移だよ。ただし条件が色々あって、その一つの解答がこのあたしの身体さ」

 サイノメの身体は成人しているとは思えないほど未発達であり、よくカタナはそれをからかったり子ども扱いしていた。

夢幻ミッシングリンクの力で空間転移できるのは、極限られた質量だけでね。大人の体格ではまず不可能、だからあたしは人為的に体の成長を止められて適応させられた」

「そう、だったのか……」

「おいおいシャチョー、聞いておいてそんな顔をするのは反則だよ。大体こんなのシャチョーに比べたら全然どうって事ないじゃん」

 サイノメが狂った研究者達の犠牲者だったと聞き、少なからずショックを受けたカタナだったが、彼女自身はそれを否定する。

「あたしはシャチョーに対して行われた実験の研究記録を盗み見た時に、心から震え上がったよ。人間はここまで残酷な狂った行いが出来るんだってね。だから別にあたしの事は気にしないでよ、そうじゃないとこっちが辛くなるから」

「……ああ、解った」

 変に気を遣いあったり、傷を舐めあったりするのは両者とも求める事では無い。だからそれはそれとして事実だけ受け取ればいい。

「うん、じゃあ話を戻すけど、この力を使いこなした段階で、あたしは帝国特技研を出て気ままに過ごしてたんだ……まあ、生きていくために悪さばかりしていたよ。その辺はシャチョーの想像に任せるけど」

 間諜、窃盗、暗殺、サイノメの夢幻ミッシングリンクの力を使えばそれらの達成は容易だ。しかしカタナはあえてそれを口に出そうとは思わない。

「それで、どうしてお前は協会騎士団に雇われる事になったんだ?」

「あはは、何気ない質問だけど核心に迫ってるよ。あたしが協会騎士団に雇われていたのは……いや、シャチョーに近付いたのはある計画の為さ」

 当然ながら計画という言葉だけでは、カタナには何の事かは解らない。

 だがサイノメが次に漏らした一言は、かろうじて聞き覚えのあるものだった。

「『災予知パンドラ』って知っているかな?」

「ああ、確か五十年前の大戦で、黒の巫女と呼ばれた魔人の特異能力の呼称だ。信じ難いが、未来が予見できると記録にはある」

 魔人に関する記録では最高位に眉唾臭い情報で、カタナは信じてはいなかったが。

「確かに眉唾に聞こえるよね。でも、それを信じて動いている者達がいるんだ。黒の巫女が五十年前に残した今の時代の予言をね」

「は?」

「馬鹿らしいと思うかな? でも実はもうそれは的中しているんだ。ゼニスに魔竜が現れた一件は、実は黒の巫女によって予見されていた事だったんだよ」

「……そんな話は記録には残っていない、誰から聞いた?」

「協会騎士団の騎士団長シュトリーガル・ガーフォーク。彼が直接黒の巫女から聞いた事さ、そして他に予言の事を知っているのは王国と帝国の最高権力者とごく一部の者だけ」

 黒の巫女の話も含め、カタナには信じ難い、だがサイノメは知っている者達にとってはそれは現実であると語る。

「そもそも、シャチョーが作られたのだってその予言に対抗する為なんだよ。災予知パンドラの天敵である凶星としてね」

「凶星……それもどこかで聞いた言葉だな」

「凶星は災予知パンドラでも量る事が不可能な埒外エラーの事。五十年前の大戦ではそれが勇者ミルドレットであり、今の時代はシャチョーがその内の一人だよ」

「……それが本当だとして、俺がそうだという理由があるのか?」

「予言によると凶星とは、魔人でも人間でも無い者――つまりは魔元生命体ホムンクルスであるシャチョー、それとゼロワンやカトちゃんが該当するのかな」

「ゼロワンにカトリ……やっぱりお前はカトリの事も知っていたんだな」

「……そうだよ、それについては後で詳しく話すとして、今は凶星の事についてだ。あたしがさっき言った計画というのは、それと深い関わりを持っていてね……」

 サイノメは荒唐無稽とも思える話を、筋道立てて説明していく。

 



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