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魔剣カタナとそのセカイ  作者: 石座木
第二章 誰が為の騎士
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章間 王国の影

「今日の良き日をそなたらと迎えられた事を、わらわは喜ばしく思う」

 大陸の半分を国土として有するバティスト王国。その中心である絢爛豪華な王宮の謁見の間には、現国王であるユヨベール・ケニス・バティスト女王が平伏する臣下を前にふてぶてしく玉座に背を預けている。

「この王宮を害する愚か者共が消えた事で、妾の忠実な僕であるそなたらがこの王宮、ひいてはこの王国の真の忠臣である事が証明された。そしてそれは妾が真の王者として、バティスト王国に君臨するに相応しき事が証明された結果でもある」

 王国の女狐、ユヨベールの言葉に異を唱える者はこの場にはいない。

 王国と大陸の未来を案じていた者達は既に粛清、淘汰され。残ったのはユヨベールの傀儡かいらいとなった者達ばかりである。

 恐怖と力により支配された王宮、しかしその中で最大の傀儡といえば君主であるユヨベールに他ならない。

 その場の誰しもが気付いていても愚かな彼女だけがそれに気付いておらず、気付かせることが出来る者達も最早この世にはいなかった。

「来たる戦いの日に向けての準備は進んでおる。先祖の悲願である大陸の平定を我がバティスト王国が握るまで、そなたらのより一層の精進を期待する」

 平伏する臣下たちはただ女王の言葉を忠臣の皮を被って肯定し続ける事で、玉座の隣に立つ恐怖の象徴から目を逸らす。そこには女王に取り入り意に添わぬ者を切り捨て続ける、宰相のラスブートの姿があった。

(これで国内においては俺の地位も揺るぎ無い。問題はまだ残っているが、不穏分子を一掃できた今となっては微々たるもの)

 ラスブートはそう内心でほくそ笑む。女王に取り入り、左宰相でありながら王国内の全てを統括する権限を得た彼だが、目的はそこに留まらない。

(因果なものだ、かつて俺達を捨てた憎き王国の末裔を、今は俺達の計画に加担させているのだから)

 黒い髪、黒い瞳を持つ、五十年前までは人と争っていた種族、魔界と呼ばれる異世界の民――魔人。

 ラスブートが思う俺達とは、すなわち魔人の事であった。

(魔道と科学に堕ちた王国は既に無く、古代王国として過去の物となっている。その妄執にいつまでも囚われている俺達は、傍から見る者がいれば滑稽に映る事だろう……だが、それでもこの復讐は遂げねばならない)

 バティスト王国の宰相ラスブートとしてでは無く、魔人ラスブートとして、彼は散っていった仲間達を思う。

(最初の敗戦から続く長い戦いの中で失われた同志の命よ、俺は絶対にお前達の無念と怒りを忘れない。かつて俺達をゴミクズのように捨てたニンゲンと、この世界には必ず始末をつけさせてやる)

 そして過去を振り返るのはこれで最後と決め、いずれ至る災厄となる為にラスブートは今を見つめる事にした。

(当面の問題は『凶星』か、あのはみ出し者達を使って試してはみたが、ミルド協会騎士団のカタナがその片割れで間違いは無い様子……あとは奴か)

 女王に平伏する臣下達、そのほとんどはラスブートの計画の贄となる者だが、中に一人だけ異色で異質な者が混ざり込んでいる。

(ランスロー・ブルータス……奴の狙いは不気味だが、奴のもたらす情報は益が多い。女王のお気に入りでもあるから、今しばらくは手が出せぬが、放っておく訳にはいかないだろうな)

 ラスブートの視線を飄々と受け流すのは、ミルド協会騎士団の『聖騎士』に名を連ねるランスロー。『無血騎士』とも呼ばれる美剣士は、さも当然のようにこの場に居座っていた。

(……まあ、奴はその時が来れば始末すればいい。俺が今考えねばならないのはやはり凶星か)

 ラスブートは立ち止まらない。

 彼の計画はずっと以前から、彼の信じる予言に添って動き出していたのだから。






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