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魔剣カタナとそのセカイ  作者: 石座木
第二章 誰が為の騎士
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二章第十七話 竜騎長の業

 竜騎士とはただ飛竜に跨る者に与えられる言葉ではなく、飛竜と共に空を駆ける者の事。

飛竜を駆るというその本当の意味を、カタナはシュプローネの後ろで実感していた。

 飛竜が翼を羽ばたかせ起こす風、それを空間魔法により効率化、高回転させ、更に速く更に長く飛べるように補助する。

 まさに人竜一体の業、一糸乱れぬその呼吸は訓練された竜騎士とその騎竜だからこそ。

 カタナとクーガーではこうはいかない、シュプローネとサイガーによって成る大陸最速最高の飛行であった。

(……飛ぶところを見たことはあったが、実際に乗るとここまでの速さなのか)

 カタナがクーガーの背で体感した事のある速さと比べると、二倍以上はその差があるように感じた。

 そして本来は、カタナという余計な荷が無い状態で飛ぶわけだから、最高速は更に速い。

(これなら随分早く目的地に到着できる)

 目的地はトークスという小さな村。馬を走らせれば四、五日はかかりそうな場所にあるが、休憩含めてもこのペースなら一日も必要ないだろう。

 カタナとしてはシュプローネの助力は有難いものであり、その速さだけは素直に関心出来た。

 ただ、一つだけ問題も発生している。

「ヒャッハーーーーーーーーーーーー!! いいぞサイガー!! もっとだ!! もっと速く!! よーそろー!!」

 高揚したシュプローネが、飛び立ってからずっとそんな調子でうるさい。彼女曰く、空は地上で溜まった鬱憤を晴らすのに最適な場所だという事だが、一体どれだけの鬱憤を溜めればこんなになるのかカタナには疑問であった。

 その声も本当ならば向かい風によってかき消され、聞こえない筈なのだが。シュプローネはうまく空間魔法でそれを抑えているらしく、飛行を快適にする為のその行為がカタナにとってはむしろ苦痛を生むものだった。

「どうだカタナ、最高だろ? もういっそ、重力振り切って空の果てまで完全燃焼したくなるよな!!」

「うるさい、話しかけるな。重力振り切ってるのはお前の精神だろ」

「なんだよ、つれねーな。折角アンタの為に飛ばしてんだからもっとのってこいよ!! クーガーよりはやーい!! って言ってくれてもいいんだぜ」

「……死ね」

「うわお、過激だぜ!! ハハハハハハハハハハハハーーーーーーーーー!!」

 本当に精神が大丈夫なのか心配になるが、休憩で陸に降りるといつものシュプローネに戻る事から、一応本人的にはバランスは取れているんだろう。

 カタナとしても乗せてもらっている手前、シュプローネが一人で騒いでいる分には何も言わずに我慢しようと決めていた。



++++++++++++++



「そういや、何でトークスなんて場所に行くんだ?」

 サイガーに背を預け、濡らした布を顔に被せて疲れを癒していたシュプローネは、思い出したようにカタナにそう尋ねてきた。

 現在はちょうど良い場所に水場があったので休憩中。シュプローネもそうだが、ずっと全力で飛び続けたサイガーも、フラフラになって地面にへたり込んでいる。

「サイノメから聞いていなかったのか?」

「ああ、アンタに助力してほしいとしか言われてないぜ。それに、アンタに手を貸すんだから、理由はアンタから聞くのが筋ってもんだろう?」

 それはその通りかもしれないが、竜騎長が理由も知らずに許可なくこんな場所まで来るのはどうなのだろうか。

 もはやフットワークが軽いとかいう話では無い。

「……言わなければならないのか?」

「いや、無理に聞くような事はしないぜ。アタシはただ借りを返しに来ただけだから、アンタが言いたくないなら聞かないでいるのも筋ってもんだ」

 気を遣っているのか単に人が良いのかで言えば、おそらく後者だろう。御咎めを受けるのは確実だと解っていて、それでもシュプローネは何の対価も求めずに協力してくれている。

 彼女の言う『借り』も、カタナにとっては偶然の巡り合わせによるもので、意図したものでは無いというのに。

「知らなくていい」

「……そうかい、解った」

 そしてカタナが結局何も言わなかった事にも、シュプローネは言葉通り、別段気にした様子も無く納得したようだった。

 筋を通すという事なら、カタナは今回の事をシュプローネに話すべきだったのかもしれないが、考えた結果はそれ。

 シュプローネには何も知らせず、目的地までの水先案内だけをしてもらう。それが一番彼女に迷惑が掛からない事だと、カタナが思ったからである。

 もしフランソワやリュヌ達の事を話せば、きっとシュプローネは今以上の助力を申し出るだろう。そのようにまた、誰かを巻き込んでしまうような事を、カタナは最少に留めておきたかった。

(こういう考え方が、これまでの失敗の要因なんだろうがな……)

 解っていても、カタナは何度でも一人で戦う道を選ぶだろう。

 魔元生命体ホムンクルスとしての自身の存在が、この世に陰を作っている一因だと自虐するが故、そういう生き方を意識的に選んでしまうのだ。

「なんか小難しそうな事考えてそうな顔だな。何か悩みでもあるのか?」

 シュプローネから指摘されるが、カタナとしてはそんなつもりはまるでない。これは悩みでは無く決まり事なのだから。

「……何もない、気のせいだろ」

「ふうん、まあいいさ。とりあえず一時間後にはまた空の上だから、アンタも休んでおいた方が良いぜ」

 そう言ってシュプローネは、サイガーの尻尾を枕代わりにしながら仮眠に入った。ただ背に乗っているだけのカタナとは違い、魔法や方向指示にも気を遣わなければいけない分精神的な疲労は大きいだろう。

 そんな状態でもカタナの事を気にしたシュプローネは、やはり真性のお人好しかもしれない。

(これが空の上での、あれの原因なのかもしれないと考えると、何とも言えない気分になるがな)

 カタナはそう嘆息しながら、一時間後の騒がしい空の旅に向けて少し休む事にした。





 

 

 


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