二章第八話 従剣の誓い
(窮屈なもんだな……)
カタナは襟元を正しながら、鏡に映った白色の正装姿の自分を見て、溜息を吐いていた。
今日はフルールトーク家が主催するパーティーの当日。カタナはフランソワの警護の為に、パーティーに列席する事を決めていた。
嫌われている当主からは、当然のように反対されていたようだが、そっちはフランソワが説得したようで。参列者に混じる形で問題を起こさない事を条件に、パーティー会場の出入りを認められた。
だが、フルールトークのパーティーに、カタナのいつもの平服で列席出来る筈もなく。用意された正装に袖を通す事になったのだが。
(動きが大分制限されるな、状況によっては破り捨てる必要もありそうだ)
作りが作りだけに、戦いになった場合は足枷になる可能性もある。高価な物だが、想定はしておくべき事であった。
「おお、カタナっち結構似合ってるじゃんよ。これはロザリーさんの見立てが良かったねえ」
そこでちょうど様子を見に来た侍従長のロザリーに、褒めているのか唯の自画自賛なのか解らない言葉を貰いつつ、カタナは腰に短剣を隠し持つ。
「似合ってるかはどうかはどうでもいい、それよりも武器が目立ってないか見てくれ」
「……うん? ああ、どれどれ」
短剣とはいえ、他の参列者に見られてしまえば騒ぎになるかもしれない。そうなっては唯の間抜け、万全の注意を払う為に色々な角度からロザリーに確認してもらう。
「問題なさそうだよ。派手に動かなきゃ大丈夫だと思う」
「そうか、それならいい」
パーティーの最中は所定の場所を動くつもりは無い。有事の時までは隠しておける。
これでほぼ、カタナの用意は整ったようなものだ。
「フラウの様子はどうだ?」
「さっき見て来たけど、特にいつもと変わりないね。よっぽどカタナっちを信頼してるんだろうさ」
「……本当にか? あんたの見る目は、いまいちあてに出来ない所があるからな」
「そんな事ないだろうよ。カタナっちを高く評価する、このロザリーさんの御慧眼に向かって失礼な」
何故か胸を張って言うロザリーだが、カタナとしてはそれが一番心配な所。
(俺なんかを高く評価してる時点で、かなり見る目無しだからな……)
そこが侍従長の人の良い所なのか、駄目な所なのかは知らないが。あまり期待できない所だと、カタナは思っている。
「それじゃ侍従長、フラウの準備が出来たら呼びに来てくれ」
「ははは、それは大丈夫。準備が出来たら、お嬢様は真っ先にここに来るだろうから」
「何故だ? 護衛が離れていると不安なのか?」
そうだとしても、やはりフランソワの身支度にカタナが付き添う訳にもいかない。
「違う違う、お嬢様もいつもより気合いが入った格好をしてるからね。早くカタナっちに見て貰いたくて、きっとうずうずだろうさ」
「俺に見せてどうするんだ?」
貴族の恰好なんて見ても解らないし、それが女物となると尚更だ。確認の為ならそういうのを見る事に慣れている者が見るべきだし、現にカタナよりもその辺の侍女の方が造詣が深いだろう。
「アホだねえ、カタナっちは本当にアホだねえ」
「否定はしないが、あんたに言われるのはこの上ない屈辱だな。同じ事をもう一度行ったら眉毛を剃り落す」
カタナは短剣を取り出して静かに言った。
「恐っ!? そんなに腹立ったの? い、言わないから絶対にやめてな。眉毛無しの侍女とか流石に笑えないし」
「俺は笑うが?」
「鬼か!! この齢になって、そんな事で笑いを取りたくないっての……まったく、冗談キツイよ」
笑いながらも、僅かに間合いを空けたロザリーは案外抜け目がない。勿論カタナが言ったのは冗談で、そのつもりは無かったが。
「はあ、ともかく。お嬢様が来たら、一言でいいから褒めてやってよ。まあ、儀礼みたいなものだと思ってさ」
「……何だその儀礼って」
「女がいつもと違う恰好をしてたら、まず褒めるのが鉄則、そしてそれが男の甲斐性なのさ。カタナっちにはそういうのがまるっきり抜けてるからね、これを機に身に付けるべきだよ」
確かにカタナには、そういう処世術の知識はあっても、うまく使った経験が無い。基本的に他人との関わりを切り捨ててきたから、その必要が無かったとも言える。
どうすべきか少しだけ考えて、カタナは答えた。
「……それは、俺には必要ない。フラウの護衛は請け負ったが、それ以上の事はするつもりもない」
「何だよう、ちょっとくらいのサービス精神はみせてもいいだろう?」
「同じ事を何度も言わせるな」
頑なになったカタナを、やれやれと呆れた様子で見て嘆息するロザリー。だがそこで、ドアを控えめにノックする音が聞こえてきた。
「あ、あのおにーさま。入ってもよろしいですか?」
それはフランソワの声だった。噂をすれば、という事かさっそく来たようだ。カタナはどうぞと一言、招き入れる。
「失礼しま――!? お、お、おにーさま!? そ、その格好は……」
フランソワは入ってきて早々、硬直して顔を赤らめた。
カタナを一目見てそんな反応を見せたフランソワだが、その直後に我に返ると同時、興奮した様子で矢継ぎ早に言葉を発した。
「素敵です!! おにーさまはいつも素敵ですが、正装に威儀を正した今日のおにーさまは、いつもの荒鷲のような精強さに更なる気品が加わり、もはや芸術と言っても過言ではありませんわ!! いえ、おにーさまの前ではどんな優れた絵画彫刻でさえも、存在をかすませるでしょう。これほどの優美さ、わたくしは初めてお目にかかりました!!」
「あ、ん? そ、そうか……」
フランソワの目には自分がどう映っているのか、カタナは不思議でならなかった。鏡で見た限りでは、着慣れない服に少しだけ新鮮さを感じた程度だったので、まさかそんな反応を見せられるとは思っていなかった。
(……これじゃ、侍従長に言われたのと真逆だな)
カタナは自分を褒めちぎるフランソワに困り果てながら、ロザリーの方に視線を向ける。
だが、そこに居たのはカタナの知るロザリーとは別人。フランソワの斜め後ろに姿勢を正して立ち、黙して目を伏せる姿は、蟹股で煙草を吹かし、大口を開けて笑ういつもの姿とはまるで正反対。
おそらくそれが侍女の鏡と言われる、ロザリーの本領なのだろう。主の前ではしっかりと役割を果たすあたり、自覚はちゃんとあるようだ。
「ねえ、ロザリーもそうは思いません?」
カタナを褒め尽くしたフランソワは、そんなロザリーの方に振り向き、同意を求めた。
「ええ、まことにお嬢様の仰る通りです」
(いや、誰だよお前……)
そうカタナが指摘したくなるほど、ロザリーの豹変ぶりは凄まじい。
「そしてさることながら、お嬢様も比肩するほどお美しゅう御座います。カタナ様も言葉を無くすほど見惚れていらっしゃるご様子」
だがカタナにとって余計な事をしっかり言う辺り、これはロザリーで間違いない。
「い、いやですわロザリー。そのような事……」
ロザリーが主を思って言ったその言葉に、フランソワは触発されたのか。そわそわと何か期待するように上目遣いでカタナを見上げた。
(要らん事を……面倒な)
何か言わなければいけない空気にされてしまい、カタナは絶対に内心では笑い転げているだろう、すまし顔のロザリーを睨みつける。
だが、ロザリーは私心を隠すように目を伏せている。ある意味、いつものようにふざけている時よりも、カタナにとって手ごわい相手になった。
「……フラウ」
「は、ひゃい!?」
フランソワはいきなり呼ばれて驚いたのか、思いっきり舌を噛んだ。カタナはとりあえず落ち着かせるのに少しだけ待ち、意を決して口を開いた。
「そのドレス、似合ってるな」
社交辞令丸出しの、言わされている感が半端では無い台詞だが、今のカタナにはそれが精一杯。
一応、嘘は吐きたくなかったので、カタナ自身の正直な感想であったが。それだけに気恥ずかしいものがある。
「ほ、本当ですか!? おにーさまの御眼鏡に適うなんて……わたくし、感激です。ドレスの趣向を変えてみた甲斐がありましたわ!!」
「……趣向?」
言われてみれば、確かにいつものフランソワのドレスに比べると、大人っぽいデザインである。
具体的にはフリルが少なかったり、胸元が開いていたり、といった具合。
「ええ、少しでもおにーさまに釣り合う一人前の淑女となる為、フラウは努力を惜しみません!!」
そしてそれが自分の不用意な発言から出たものだとカタナは知り、天を仰いだ。
(……慣れない事は言うものじゃないな、本当に)
フランソワに何か言う時は、これまで以上に気を遣わなければと、カタナは決めた。そして相変わらず何が楽しいのか、カタナの腕にしがみ付いて鼻歌を歌っているフランソワを観察する。
(いつもと変わりないか……いや)
フランソワからは、奇怪な予告状の事を憂う態度は見えないが、どこか無理をしているように、カタナには見えた。
「なあフラウ、少し無理をしていないか?」
そしてこういう時のカタナは少しも迷う事は無い。護衛としての懸念事項からは目を背けるわけにはいかない。
カタナの指摘に、フランソワは少し驚きながら、顔を伏せて答えた。
「……やはり、おにーさまには解ってしまいますか。実を言いますと、少しだけ不安があるのです……」
それにはロザリーも驚いたようだった。長年侍女として連れ添ったフランソワの憂いを、見抜くことができなかったからだろう。
「不安か……確かに。フラウを狙う者がどの程度の規模でくるのか解らないのに、護衛が二人じゃ不安もあるよな」
カタナがそう言うと、それは違うと、フランソワは首を大きく振って否定した。
「おにーさまが守ってくれるのなら、わたくしはどのような者が相手でも不安はありませんわ!! ……ですが、おにーさまの身に降りかかる危険は? わたくしを守る事で、おにーさまの身に何かあれば……それを考えると、不安で堪らなくなってしまうのです」
フランソワが案じていたのは、自分の身では無くカタナの身であった。
元々フランソワは、この件にカタナを巻き込むことを良しとしていなかったと、ロザリーも言っていた。だがそれはカタナに対して信用が無いわけでも、強さに疑問を持っているわけでも無い。
それはフランソワが自身の事を、守られる事しかできない弱い存在だと自覚しているから。だからカタナの足を引っ張る事になるかもしれないという事や、それによる最悪の事態を想像して不安になってしまうのだろう。
「……馬鹿かお前は」
「え、おにーさま? ――あ」
カタナはフランソワのその不安を払拭する術を知らない。拙い話術は知っての通りだし、無表情な顔では優しく笑いかけてやることもできない。
だからカタナはそんな自分にできる唯一の事を行う。誰にでもできる事が出来ないからこそ、カタナにしかできない事をその時に確かに行えた。
フランソワの小さな手を取り、跪いて手の甲に口づけして誓いを交わす。
「『我が剣は我が為に非ず、我が剣は我が認める主の為に、我カタナはフランソワ・フルールトークを主と認め、その従剣となる事をここに誓う』」
それは従剣の誓い、国を守るために存在する協会騎士団の騎士が、誰か一個人のみの騎士になる為に行う契り。
協会騎士団の規定には確かにあるが、今までそれを真に行使した者はいない。事前に本部の認可も必要であるし、実の所はこの場でカタナが行った程度の略式では、真似事以上の意味も持たない。
だが従剣の誓いが存在する意味はある、それだけの覚悟を一個人に見せるという点においては、騎士としてこれ以上のものは無い。
「……これで俺はフラウだけの騎士だ」
「…………」
「そしてこれは俺の意志、フラウの為に戦い、フラウの為に傷付く事が誇り。だから気に病む必要は無い、なぜならそれは俺の誇りを汚す事だからな」
正直なところ、カタナは誇りなどという御大層なものは持ち合わせていない。ただ嫌だった、自分が傷つくことで誰かが傷つくのが。
自分にはそんな価値など無い。そう思っているからこそ、そんな自分に価値を見出している者が傷付くのは、カタナには耐えられない。
だからこそのその言葉、その行動だった。
「…………すん」
(……ん?)
あまりに突然の事だったからか、フランソワは目を丸くして硬直していたのだが。その瞳から滴が零れだした。何かまずい事をしてしまったのだろうか。
「……何故泣く?」
「……すん……すん」
カタナが尋ねても、フランソワは顔をふるふると横に振るだけで言葉が出てこない様子だった。
そんなフランソワと、戸惑うカタナを見かねたのか、ロザリーが口を挟む。
「あー、カタナ様。お嬢様は感極まって御言葉が出ない御様子、今しばらくお待ちくださいませ。ていうかホント見せつけてくれるよな、そういう事一度でいいから言われてみてーよって」
よっぽど毒気にあてられたのか、ロザリーは半分素に戻ってしまっていた。
「落ち着いたか?」
「はい、おにーさまに見苦しいところをお見せしてしまって、恥ずかしいですわ」
照れながらフランソワは、カタナに笑顔を見せる。
「そしておにーさまの誓い、しかと聞き届けました。わたくしなどには、過分にもったいなきお言葉ですが、そう思う事もおにーさまの誇りを汚す事なのでしょうね」
「そうだな。まあそんな大袈裟に考えんでも、小間使いが一人増えたとでも思っていればいい」
自分で行った事だが、誇りなどと言われると恥ずかしくなってくるのは事実。カタナは真っ直ぐに見つめてくるフランソワから目を逸らした。
「ふふ、おにーさまったら……解りました、もうわたくしも余計な心配はいたしません。元より、わたくしなどが大千世界に名を轟かせるおにーさまの心配をする事など、おこがしい事でありました」
「ん? あ、ああ。そうか」
そんなに名を轟かせた覚えはないが、フランソワは幾分と楽になったようなので、カタナとしては何よりだった。
「入るぞ」
だが、いきなりノックのも無しに、我が物顔で部屋に入ってきた者が、フランソワの笑顔に陰りを作った。
「……お父様」
入ってきたのはフルールトーク家の当主、ツヴェイク・フルールトーク。名家の当主らしく威厳ある風貌だが、フルールトークの実情を知るカタナにはそれが虚栄のように見える。
ツヴェイクはフランソワを見定めると、まるで睨みつけるように表情を険しくした。
「やはりここに居たかフランソワ。これから来賓の送迎だ、お前も来なさい」
「あ、はい」
実の父の険しい顔に、ビクリと体を震わせるフランソワ。何も悪い事をしていない筈なのに、ツヴェイクの態度はどこか咎めている様子だった。
それはカタナの事を良く思っていないという事も理由だろうが、根の部分ではフランソワの事をツヴェイクが恐れるが故の事。
既に自分以上の才能を発揮しているフランソワを、ツヴェイクはやる事成す事気に食わないのだろう。実の子に注ぐ愛情を、元々持ち合わせているのかも疑問であった。
「待て当主。それにはフラウも行かなければならないのか?」
ここで家の事にカタナが口出しする気はないが、護衛にあたっての問題にはその限りでは無い。
「ふん、聖騎士殿には解らないかもしれないが、貴族には守らなければならない慣例というものがあるのだよ」
鼻を鳴らして嘲るように言うツヴェイク。
「……フラウが何者かに狙われているのは、当主も知っているだろ? 表に出るのは危険が多くなる。今更パーティーに出すなとは言わないが、せめて開宴まではここに居させられないか?」
「警備は厳重にしてある。聖騎士殿の杞憂で段取りを変える訳にはいかんな」
案の定、カタナの話には耳を貸さないツヴェイク。フランソワはそれに胸を痛めたのか、口を挟んだ。
「あ、あのお父様。わたくし気分がすぐれませんの、開宴まで休ませて下さいませんか?」
「ふん、白々しい。どんな理由があろうと許さん、お前はフルールトークの名に泥を塗るつもりか?」
「い、いえ決してそんな」
「ならば下らぬ我儘を言っていないで早くしろ」
フランソワの言葉も、ツヴェイクの耳には入らぬようで、無理やり手を引いて引きずるように連れて行く。
「――痛ッ」
強い力で掴まれたからか、フランソワは顔を顰めた。ツヴェイクの物言いもそうだが、その対応は少しばかり、カタナの冷静さを失わせる。
「……おい」
気付けば、カタナはツヴェイクの腕を掴みあげていた。
「な!? は、放せ!!」
「……聞かせろ。当主はフルールトークの名と、フラウの身の安全、どちらが大事なんだ?」
ツヴェイクは掴まれた腕を振り解こうとするが、腕力で適うはずもない。静かな怒りを向けるカタナに、顔を青くした。
「な、何をする!? いいから放せ!! おい、ロザリー!! コイツを何とかしろ!!」
ツヴェイクは部屋の隅に居るロザリーに助けを求めるが、侍従長は笑顔で首を横に振る。
「……ぐ、何をして」
「答えられないならば、フラウを連れて行く事は許さない。当主には貴族として守りたいものがあるのだろうが、俺にも騎士として守らなければならないものがある」
そう言って、カタナはツヴェイクの腕を放す。
解放されたツヴェイクは何か言いたげだったが、カタナの無言で射貫くような視線に堪えられなくなったのか、忌々しげに顔を背けた。
「ぐ……勝手にしろ!!」
もはや一瞥もくれぬまま、ツヴェイクは逃げるように部屋を出て行く。フランソワはその後を追わず、少しの迷いも見せずにこの場に残った。
(……やっちまったか?)
当のカタナは冷静さを失ったその行いを、少しだけ悔やんでいた。今まで、なるべくフルールトーク家とは問題を起こさないように努めてきたが、今のはそれを台無しにするものだろう。
カタナ自身が当主を始めとするフルールトーク家から、どう思われようと関係は無いが。それによってフランソワの扱いが酷くなる恐れがある。それが気掛かりであった。
「……今のはまずかったか?」
「いえ、わたくしはとても嬉しいですわ。おにーさまがこれほどまで想って下さるなんて……」
フランソワならそう言ってくれるだろう事は解っていた、何があっても心配は掛けないように振る舞うからこそ、カタナは心配なのだ。
だが、それを踏まえてくれたのか、もう一人流れの中で迷惑をかけたロザリーは、忌憚のない意見を聞かせてくれた。
「まずかったに決まってんだろ、更に言うとロザリーさんの立場も危ういね。明日には職を失っているかもしんない。どうしてくれんだよカタナっちよ」
もはや侍従としての顔を取り繕う事をしなくなったのは、立場的にそれだけまずくなったという事なのだろう。
「すまんな」
「……そう思うなら責任とれよカタナっち」
「責任?」
責任という言葉を聞くと、嫌な予感しかしないのは、普段の行いが悪いからなのだろうか。ロザリーは笑いながら煙草に火をつけてカタナに言う。
「お嬢様だけの騎士なんだろ? 従剣の誓い、このロザリーさんが証人だよ。これからはお嬢様に何があっても、カタナっちが助けてくれるんだろ?」
「ロザリー、わたくしは何も心配いりませんから、おにーさまを困らせるような事は言わないで」
「そう言いつつ少し嬉しそうなお嬢様なのでした」
「も、もう!! からかわないで下さい!!」
主従の関係を少しだけ忘れ、ロザリーとフランソワはまるで仲の良い姉妹のように、接している。それが彼女達の元々の自然な付き合い方、フランソワがもっと幼い頃からロザリーがずっと面倒を見てきたからこその関係である。
(責任、か……)
もしそれを壊してしまう事になったのだとすれば、カタナはその責任を負わなければいけない。
(本当に俺は、壊す事だけは得意なんだな……直す方法は一つも思い浮かばないのに)
そう自嘲するカタナだが。フランソワも、言葉の裏ではロザリーも、本当に心の底から感謝している事には気が付いていない。
味方のいない者が、守ってくれる存在が居る事を行動で示される。その心強さをカタナはまだ知らなかったから。
だからフルールトーク家主催のパーティーが開宴するまでの間、カタナは自信が負う責任について、少しだけ悩む羽目になってしまった。