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魔剣カタナとそのセカイ  作者: 石座木
第一章 聖騎士と従騎士
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第三十一話 魔剣カタナと『魔術剣・巨無(ドレッドノート)』

(まさか、本当にやってのけるとはな……)

 カタナは素直に、カトリ・デアトリスの成した偉業に驚嘆していた。

 魔法書の知識だけで、戦術魔法を発現させ、しかも魔力を霊力に転換するという離れ業まで見せた。

 そして言葉通りに魔竜を討ち倒した、大陸中を見渡しても、これほどの武勇を持つ者はそうはいない。

(……俺はとんでも無い奴を、部下に持ったのかもしれない)

 感じる虚脱感は、きっと魔元心臓ダークマターを起動したせいだけではないだろう。

 この先の事を思うと、何だかどっと疲れが押し寄せてきた。

 そして、当のカトリ・デアトリス本人は、

「……は、はは」

 何故か呆然とした表情で、乾いた笑いを漏らしていた。

「おい、どうかしたのか?」

 無理をし過ぎたせいで気が狂ってしまったのかと、カタナは本気で心配になった。

 そしてカタナが肩に手をかけると、まるで全身の力が抜けるようにカトリは膝から崩れる。

「おい!?」

「あ……すみません隊長。腰が抜けてしまったようです」

 意識はあるらしく、抱き留めたカタナの声にはしっかりと応答があった。

「……異常がないならいい。少し休め」

「ふふ、何だか副隊長達の言っていた事の意味が解った気がします」

「何がだ?」

「隊長に優しくされると気味が悪いという事で……っきゃあ!?」

 カタナの支えを失って、カトリは尻をしたたかに地面に打ち付けた。

「そう言う事なら、望み通り厳しく接してやるか。さあ立て、この後には様々な面倒な事後処理が控えているんだ。それを全部お前とヤーコフに押し付けてやる」

「お、横暴な」

「お前がやらなくても、ヤーコフには押し付けるがな」

「いやあの、怪我人なんですからもう少し労わってあげて下さい」

 巻き添えをくわせてしまった事を申し訳なく思ったのか、カトリは真剣に懇願する。カタナはそれをどうするか少しだけ考えて、大きく一息吐いた。

「まあ、それもそうだ。今回はサイノメにやらせるとしよう」

 もちろん自分でやるという選択肢は初めからない。

「……それにしても、信じられません。本当に私が戦術魔法を発現させたのですよね? 魔竜を討ち倒す事が出来たのですよね?」

 改めて問いかけるカトリは、どうやら本当にそれが信じられない様子で、煙を上げて動かなくなった魔竜の亡骸を見やる。

「他に居ないだろう。まさか憶えてないのか?」

「いえ、そういう訳では無いのですが。想像以上だったと言いますか……理論上はあれだけの威力が出ると解っていたのですが、それが現実になると、やはり驚きの方が勝ってしまいます」

「……そういう、ものかもな」

 カタナは過去に戦術魔法というものを見る機会があったが、今回のものは過去に見たそれらとは、比べ物にならない威力を誇っていた。

 それは魔竜に対しての効果を上げられるものとしては、必要な分を満たしたに過ぎないのだろうが、逆を言えばそれだけの威力を弾き出せたのが奇跡に近い事。

 ここに、カタナとカトリ・デアトリスが揃っていたからこそ起こった偶然。

 カタナにはそれが恐ろしく思える程だった。

「ありゃあ? 俺ってひょっとしてさ、邪魔者? お二人さん、いい雰囲気じゃないかさ」

 そんな不躾な声が掛かって気付くと、全身を真紅の鎧で固めた鋼が所在なさげに立っていた。

「何がだ?」

 何がどういい雰囲気なのか解らないカタナが問いかけると、風神は笑って答えた。

「かはは、おにーさんは中々鈍いみたいさね。でもお嬢様は解った様子だから聞いてみるのがいいさ」

 言われてみると、なぜかカトリは赤面していた。

「……いや、いい。どうせ下らない事なんだろう」

 カタナはなんとなく、面倒な事になる予感がしたので聞き流す事にする。案の定、鋼は悪戯が失敗した子供のように、つまらなそうにしていた。

「それで、何の用だ? 魔竜を倒したのに、わざわざ俺の前に来たのは何か用があるからなんだろ?」

 とはいえ、この鋼という男が少しずれた認識があるのをカタナは知っていたので、理由があるかどうかは五分五分だとも思っていたが。

「うーん、本当はおにーさんとも喧嘩がしたかったんだけど……へばってるみたいだし、俺もそうだからそれは次の機会にとっておくさ。それはそれとして、風神から伝言があるさ」

「風神が?」

「そうさ、自分で言えばいいのに、きっと照れてるのさ……っと、霊力が尽きかけているから、伝言にするとの事さ。内容は〈近い内に会いに行く、覚悟しておく事だ〉との事さ」

「……何の覚悟だ?」

「さあ? 知らないさ。まあ本当は、覚悟が必要なのは風神の方じゃないかと思うけどさ」

「?」

「……いや、いいさ、もう。それじゃ俺はこの辺でおさらばするさ、でも今度会う時こそはおにーさんと喧嘩がしたいさ」

「それは絶対にお断りだ」

「はは、どうかな? おにーさんは見たところ、売られた喧嘩は買うタイプさ」

「……」

 それは自覚している……というよりも、その方が面倒が少なくて済む、と知っているという方が正しい。

 だがカタナも、買った方が面倒になる喧嘩がある、というのも今回の事で知ったので。鋼に対してはどうすべきか今は解らない。

 それでも魔竜を相手にするよりはマシかもしれないと思ったカタナは、結構鋼と似通っている所があるのかもしれなかった。

「待って下さい」

 立ち去ろうとした鋼を、カトリ・デアトリスが制止する。その顔には、若干の緊張が漂っていた。

「あの、私は……」

 何か言い難そうにしている様子、鋼は何かを察したのか、一言だけ言い残す。

「お嬢ちゃんについては何も聞いてないさ、だから好きにしていいって事だと思うさ」

「そうですか……」

 カトリは複雑な表情をしていて、鋼が言い残した言葉の意味を、なんとなくカタナは理解できた。

 だが指摘はしなかった。今だけは、そういった浮かび上がってくる問題を無視していたかった。

(折角の勝利だ、誰だって余韻に浸りたいだろうさ……)

 それは当然カタナもそうだ。

 

 オオオオオオ……


 だがそんな思いを吹き飛ばす唸り声、絶望の予兆。

「嘘……!?」

「何で!? 俺は確かに死んでるのを確認したさ!! まさか……あの状態から息を吹き返したってのか!?」

 顔の半分以上は焼けて失っている、そして背中に続く大穴が抉っていて、雷撃の熱量に肉が焼かれ、ところどころ骨が剥き出しなっている

 それでもなんという生命力か、魔竜はまだ生きていた。

 片方しかなくなった眼でカタナ達を睨み付け、今まさに竜言語魔術ドラゴンブレスを発現させようとしている。


 オオオオオオガアアアアアアアア!!


(馬鹿な!! タイミングが今までよりも早いだと!? 魔元心臓ダークマターの起動が……間に合わない)

 カトリの戦術魔法によって中断された竜言語魔術ドラゴンブレス、その分の魔力がまだ残っていたのだろう。

 カタナ達三人を漆黒の業炎が容赦なく包み込んだ。



++++++++++++++



「……隊長……隊長!!」

「……ん、う」

 カトリ・デアトリスが呼び続ける声に、カタナは意識を取り戻した。

 どうやら一瞬だけ気を失ってしまったらしい。

(何とかいきてるのか……ぐ)

 気付くと同時に、背中を始め全身を走る激痛。風が撫でるだけでも、脳まで響くような痛みがカタナを襲った。

「そんな……隊長、その背中。私なんかを庇ったせいで……」

 そう言われて気付いたが、カトリを押し倒すようにカタナの体はその上に重なっていた。竜言語魔術ドラゴンブレスを防げないと判断したカタナは、無意識の内にカトリを庇う選択を取ったらしい。

「このぐらい、平気だ……」

 大きな火傷を負ってしまったが、竜言語魔術ドラゴンブレスを受けてそれだけで済んだのは、きっと外套に刻まれた三連魔法印・守天導地しゅてんどうじが防いでくれたおかげなのだろう。

(だが、これでそれも使い物にならなくなったか。一張羅が台無しだ)

 ボロボロになった外套、これではもう魔法印は機能しない。ヤーコフに使われた分も合わせて、二着も魔竜に駄目にされたことになる。

 だがそのおかげで、カトリは無傷。近くには鋼も倒れていて、自前の鎧で防いだのか息もあるようだが、既に魔法も解けて気を失っているようだった。


 オオオオオオオオオオオオオオオ……


 そんな中、再度響いてくる絶望の予兆。もうそろそろ聞き飽きてくるが、それを聞くのもこれできっと最後だろうとカタナは思った。

 なぜならば、天には希望を指し示すかのような白い輝きを放つ、魔法陣が構築されていたのだから。



++++++++++++++



「魔法陣?」

 カトリ・デアトリスは天を仰ぎ、いきなり現れた魔法陣に視線を奪われていた。

 自分が構築したものでは無いそれが、どういう法式を持っているのかカトリには理解できた。

 一度だけ、本で読んだことがある。記憶力にはそれなりに自信があるカトリは、それを思い出したのだ。

「あれは……転移魔法」

 物体を、時空を超えて瞬時に長距離を移動させる魔法。現在の技法では人間や動物を転移させることは叶わないが、一定以上の硬度を持つ無機物ならばそれを行う事は可能。

 だが、今の状況でそれが何の意味を持つのか、カトリはカタナの表情を見るまでは見出せなかった。

「隊長?」

 カタナは気怠げに、だが僅かに笑っていた。

「遅いぞ、サイノメ」

 カタナは、カトリでは無く、いつの間にか正面に立っていたサイノメにそう言った。

「文句ならあたしじゃなくて本部の魔法士に言ってよ。あいつら準備がどうだこうだってチンタラしすぎなんだもん」

 少しふてくされたサイノメがそう言うのと同時に、空から一本の剣が降ってきて、サイノメのすぐ横の地面に突き刺さった。

 装飾は無いが、柄から刀身まで黒一色のその剣は、見る者に禍々しい印象を与える。もしこれを人が作ったと言うのならば、それは余程の狂人とみられるだろう。

 だがその剣は人が作ったもので無い。

それは異世界で作られた武器、魔人が魔人を殺す為に魔術によって生み出した『魔術武装』と呼ばれるもの、五十年前の大戦の負の遺産。

カトリ・デアトリスは話の中でそれを聞いたことがあった。元々彼女が帝国から共和国に渡ったのは、それの調査の為であり、可能ならば奪い取る為であった。

「待って下さい、隊長!!」

 だが、その時にカタナを制止したのは、そんな打算は関係なく。無理を押して立ち上がる姿が、あまりにも見ていられなかったから。

「……待ってる暇はない」

 魔竜の竜言語魔術ドラゴンブレスを今度受ければお終いだ。それはカトリにも解る。だから今は、他の事に気を回すべきではないと考えた。

「私が代わりにその剣を振ります!!」

 カトリはカタナに庇われたおかげでほぼ無傷、魔術武装を扱った事が無い事を差し引いても。それが剣であるならば、外も中も全身傷だらけのカタナよりもマシだと思って駆け寄る。

 だが、サイノメがそれを遮った。

「それは無理だよ、あれはシャチョーにしか扱えない。なにせ魔人ですら、あれを扱うのも扱われるのも恐れた、正真正銘の『魔剣』なんだから」

「……隊長だけ? それは、どういう……」

「見ていれば解るよ」

 それだけ言って、サイノメはカタナに視線を送った。カトリも困惑の渦中でそれに習う。

 その時に見たのは、溢れんばかりの魔光を生み出すカタナと、それに呼応するように不気味に黒く輝く剣。

 『魔術剣・巨無ドレッドノート』が真価を発揮する瞬間だった。

 

 

++++++++++++++



「……魔元心臓ダークマター、起動」

 カタナの体内に魔力が生み出される。無理をし過ぎたせいで、その負担がカタナの気を遠くさせるが、何とか耐えながら巨無ドレッドノートを握る。

 するとまるで、久方振りの使用者を歓迎するように、巨無ドレッドノートは黒く輝く。

 その魔光は、魔元心臓ダークマターより生み出されたもの。

巨無ドレッドノートは魔力を糧に力を成す魔術剣。強大な魔力が無ければすぐに枯渇して、一度振るう事も叶わない諸刃の剣。

 故に、魔元心臓ダークマターを持つカタナだけが、それを真に使いこなす資格を持つ。

「……相変わらずのじゃじゃ馬だな。もう少し使用者の都合も考えてくれ」

 剣に意思など無いが、次々に魔力を吸い取っていく事が、『もっと寄こせ』という剣の意思表示に想えてしょうがなかった。

「まあ、悠長にはしていられないか」

 魔竜の竜言語魔術ドラゴンブレス、向こうも決死の覚悟なのか、その力は今まで以上のものに感じた。

 

 ガアアアアアアアアアアアア!!

 

 視界いっぱいを埋め尽くす黒い業炎。それをカタナは、防ぐことも避ける事も考えずに真っ向から挑みかかる。

「はあああああああっ!!」

 そして切り裂いた。

魔竜の竜言語魔術ドラゴンブレスを、巨無ドレッドノートの一振りで両断する。

魔力で力を増し、魔力によって発現する真の刃は魔術すら破壊する。

今のカタナを阻むものはこの世には存在しない。圧倒的なまでの存在だった魔竜も、その力を前にしては、それを敵に回した不幸を呪う他ない。

カタナは突き進む、巨無ドレッドノートを携え、その身に走る痛みを堪え、迷わず魔竜にその刃を向ける。

魔竜の爪がカタナに迫る、しかしそれは巨無ドレッドノートの一振りであっさりと斬り砕かれて破壊された。

もはや魔竜を守るものは何もない、堅牢な竜鱗もそれ以上の力の前では無いも同じ。

「――終わりだ」

 振り抜いた一刀は魔竜の首を斬り落とし、舞う鮮血はこの戦いの幕を引いた。



++++++++++++++

 


ボロボロの黒い外套、痛々しい全身の火傷、病的に白い肌と、くすんだ灰色の髪、濁った灰色の瞳。どこをどう見ても、騎士だとか英雄だとかという概念には到底結びつかない姿。

 だがカトリ・デアトリスにはその姿が、彼女が崇拝する戦いと希望の神と重なって見えた。

 そう、五十年前に世界を救い、人々の信仰となった勇者ミルドレットと。


「――隊長!!」

 力尽きて倒れるカタナの姿を認め、全力でカトリは駆け寄った。

「うるさい……な。久々にぐっすり眠れそうなんだ、少し静かにしろ」

 そう鬱陶しげに言われるのが、何故か心地よかった。きっとこれだけの憎まれ口を叩けるのなら、命に別状が無いと思えたのだろう。

「すみません。でも一言だけ」

「……何だよ」

「素敵でした」

「……どこがだ、こんなボロボロで……アホらしい。結局こうなるなら、もっと楽できたのに」

 まるで照れ隠しのようにそう言ったカタナが可笑しくて、ついカトリは笑ってしまった。

「とんだ道化だった……」

 笑われたのが不満だったのか、カタナはそれだけ言って目を閉じる。余程限界だったのか、それから数秒で寝息が聞こえてきた。

「……おやすみなさい」

 目覚めを待たず、カトリ・デアトリスはすぐさまその場を後にした。

 その胸には、一つの新たな決意が宿っていた。



+++++++++++++



「……どうして貴様は、顔を合わせたくない時に限って私の前に現れるのだ」

「うしし、偶然だよ、偶然」

 風神は、ここまで連れて来てくれた飛竜から降りると、なるべくサイノメとは関わらないように、気絶した鋼の元まで近寄った。

「起きろ愚図。噛ませ犬」

 そして風神は容赦なく鋼の横腹を蹴り上げた。

「――痛ってええええええええええ!! はっ、この蹴りは風神? おはようございます」

 鋼のあまりにも慣れている反応で、むしろ風神の方が困ってしまう。

「起きたなら帰るぞ」

「え? あれ? 魔竜は何処さ?」

「魔竜なら魔剣が倒した。詳しい説明は後でしてやる」

 状況について行けていない鋼には、そんな乱雑な説明で済ませて、風神は今度はカトリの方に向かおうとする。

 しかし、ちょうどその先にはサイノメが待ち構えていた。あえて風神の行く道を塞ぐようにしているようだったが、風神はそれすら構わず無視して進む。

「ありがとね。風ちゃんなら、シャチョーを助けに来てくれると思っていたよ」

 しかし、すれ違う間際にサイノメが言ったその言葉を、風神は無視できなかった。

「私は魔剣を助けてなどいない。部下の生存を優先させただけだ」

 むきになって答えてしまった事を、風神は後悔したが。サイノメはそれ以上何も言ってはこなかった。いつもならば何か風神の気分を逆なでするような事を言ってくるのに。

(本当に、掴めん奴だ……)

 それが逆に風神の調子を狂わせるが、今はサイノメには構わず、カトリ・デアトリスの方に向かう事する。

「……風神」

「ご苦労だった、カトリ・デアトリス」

 その労いの言葉は、魔竜を倒した事にでは無く、カトリが従事していた任務に対する言葉。

 共和国ならびに協会騎士団においての魔術武装の調査。過程はともかく、カトリはその任を確かに達成していた。

 魔術武装はその存在をずっと否定されていたもの。何せ魔人が作ったものであり、魔人同様にこの世界には存在するべきものではない、と考えられている。

 それを、勇者の信仰を笠に着ている協会騎士団が使用しているという事実は、帝国にとって恰好の外交材料になり得る事。

「ここで起こった事は上に報告するつもりだ。だがキミが発現させた魔法については、隠しておこうと思っている。あれは魔術武装同様に、この世に存在するべきものではない」

「……そうですね」

「……いや、言い方が悪かったか。ともかく、キミの処遇については、任務達成の約束通りキミ自身で決めていい。このまま我々と帝国に帰還しても、ここに残っても好きにしたらいい」

 そう言う約束であった。実のところ風神は、末端で内部の情報をあまり持っていないとはいえ、帝国特務から離脱者を出すようなその上の配慮に疑問もあったが、それはきっとかつての帝国栄華五家の、デアトリス家に対する配慮なのだろうと一応納得はしていた。

 とはいえ、危惧もある。如何に約束したとはいえ、帝国からカトリが離れる事を選べば、帝国特務はそれを処分する構えを見せるかもしれない。

 自由にしてもいいという事は、必ずしも干渉はされないという事では無いのだから。

「私は、帝国に戻ります」

 だからカトリがそう決断した事に、風神は内心でホッとしていた。家同士でのつながりは無かったが、それなりに共感するところもある妹のような存在を、この手で殺す事をさせられずに済むのだから。

「解った。では共に行こう」

「……放っておいていいのですか?」

 カトリが指摘したのは、魔剣と魔術武装の事だろう、それについては遺憾だが、今は放っておくしかない。

「どちらも帝国に持ち去りたいが、目を光らせている奴がいるからな。今回は生きて情報を持ち帰る事が先決だ」

 霊力を使い果たした風神は、サイノメに対抗できない。鋼も然り、カトリに頼むのも荷が重いと判断した。

「……首を洗って待っていろ」

 誰にも聞こえないような声で、風神は宿敵に向かってそう言い残し、その場を後にした。

 

 


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