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魔剣カタナとそのセカイ  作者: 石座木
第一章 聖騎士と従騎士
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第十七話(裏) 暗いゼニスと黒いゼニス

 夜のゼニス市の協会騎士団の駐屯所で、ヤーコフはせっせと残業に勤しんでいた。

 カタナとサイノメが留守にしている今、そのおかげで溜まっている二人分の仕事と自分の分の仕事をこなさねばならないヤーコフだったが、朝から居るのに一向に終わる気配がない。

 その事に半ば絶望を感じつつも、それを投げ出さないでいるのは、ヤーコフという騎士の人物像を如実に表している。

「う~ん、これは本当に……サイノメ秘書官殿の優秀さがよく解るっすね」

 普段カタナが居ない時でも、サイノメが居るからこそ、ヤーコフは自分の仕事だけに集中ができているという事を実感した。

 ヤーコフが今やっている仕事は三人分ではあるが、それが単純にいつもの三倍というわけでは無く。量だけで言えば四倍に相当するという事は、単純にサイノメは普段からヤーコフの三倍は仕事をしているという事になる。

「これは、いよいよ頭が上がらないっす」

 今でも簡単に思い出す事が出来る、ヤーコフがサイノメとの初対面時にしでかした失敗。

 サイノメの少女というより幼女のような風貌により。ヤーコフは初対面時に思いっきり子供扱いで接してしてしまい、大いにサイノメの怒りを買ってしまった。

 そのためサイノメに対してヤーコフは苦手意識を持っているが、その優秀さを実感して更にそれが強くなった気がした。

(それにしても、隊長と秘書官殿はどういう関係なんだろ? 結構仲良さげっすけど、恋人同士には見えないし、かといって仕事だけの関係にも見えない……)

 ヤーコフが協会騎士団の本部に居た時から、カタナはある意味で有名だったが。その時から、カタナの専属秘書官を務めていた筈のサイノメの事は何も知らなかった。

(まあ、そういう意味じゃ僕は、隊長の事だって知っているとは言えないっすけど)

 隊長と副隊長、隊の中では一番近しい間柄にある筈のヤーコフも、カタナの事は知らない事の方が多い。

 普通の上司と部下のように、飲みに行ったことも無ければ、人生相談をしたことも無い。

 そういうのを求めている訳ではないが、ヤーコフとしてはもっとカタナの事を知っておくべきだと思うし、知りたいとも思う。

(隊長が帰ってきたら、ご飯でも一緒に食べに行くのもいいかもしれないっすね。まあ、隊長は何故かいつも金欠だから、ワリカンになりそうっすけど)

 そんな事を考えつつ、もう一人気になる人物の顔をヤーコフは思い浮かべた。

 カトリ・デアトリス……ヤーコフの見立てでは自分以上の実力を持ち、ともすれば協会騎士団でも屈指の実力者であろう女性。

(隊長の事を頼んでみたのはいいけども、余計な事だったっすかね……)

 カタナが魔人の討伐に向かう事をカトリに話したのは、大事な時にカタナの隣で補佐できないヤーコフ自身を不甲斐なく思ったからだ。

本当ならどうしても自分がカタナについて行きたいと思ったが、それが許されない以上誰かに頼むしかない。

その誰かがカトリになったのは、彼女ならカタナの足手まといにはならないと思ったからだ。

その理由は一緒に数日訓練して感じた、カトリの中にある底知れない何か。カトリ本人はヤーコフとは互角くらいだと言っていたが、ヤーコフはカトリがまだ何か手を隠しているように感じた。

そしてカトリに感じた底の知れなさは、カタナを相手にした時に近いものだと思える。

(デアトリスさんが隠しているものが何かは、自分には測れなかったっすけど。隊長の助けになってくれると信じたいっすね)

 ヤーコフとしては悩み抜いて出した結論だったが、それがプラスに働くかマイナスに働くかは解らない。

 もしかしたら何もしない方が良い結果につながるのかもしれない、しかしヤーコフは何かをせずにはいられない性格なのだ。

(隊長はデアトリスさんを拒まなかったみたいっすから、うまくやってくれてるといいっすけどね……それにしても年下の女の子にこんな大事を託すなんて、僕は本当に不甲斐ない男っすね)

 少し自虐的になってしまうのは、暗い駐屯所に一人で居る事で鬱がさしてしまったのだろうか。

 気づけば仕事もまるで手についていなかった。

「あ~今日はもう無理っすね、夜勤の皆が帰ってきたら終わりにするとしますか」

 仕事は溜まってはいるが、急ぎのものはそれほどない。後は明日に回しても問題ないはずだ。

 ヤーコフが時計を見ると、ちょうど夜勤の者が定時の巡回から帰ってくる時間になっていた。

 本来駐屯所にも最低一人は詰めていなければならないが、今日はヤーコフが残っていたので、皆外に出てしまっている。

 退屈しのぎにもう一仕事だけやっていこうかなと思った矢先、背後のドアが開く音がした。

「お、流石時間通りっすね、関心関心……え!?」

 ヤーコフは部下が帰って来たものと思い振り返ると、そこには夜勤の部下だけでなく、自警団の者が数人取り囲んでいた。

 自警団の面々の中にはヤーコフの顔見知りであり、以前に揉め事を起こしたダルトンの姿もあるが。それよりもヤーコフの目に留まったのは、部下が自警団の者から剣を突きつけられ怯えている姿。

「こんな夜更けに、自警団の皆さんが雁首揃えてうちに何用っすか?」

 由々しき事態だが、ここは冷静に対処するのが賢明と判断し。ヤーコフはとりあえずこの凶行とも言える行動の真意を問う。

 それに対して下衆の様な笑みを浮かべたダルトンが喜々として答えた。

「なに、市長の命令でな。お前ら駐屯騎士を拘束しろって言われてんだ」

「市長の命令?」

「そうだ。新たな街作りの為にお前ら騎士は不要なんだとよ」

(どういう事っすか? 市長にとって僕らが不要? 昨日は魔人の討伐を依頼しに来たのに……いや、まさか)

 ダルトンの話を鵜呑みにするのは危険だが、自警団を動かせる人物というのは限られる。

 ヤーコフの知る限りではダルトンに人を動かす人望も、言いくるめる頭の良さもない事は周知の事実。

 そして自警団の団長が殉職したという話も聞いていることから、一つの仮説が立った。

「ダルトンさん、魔人の一件を貴方は知っていますか?」

「あん? 魔人だあ? いきなり何を訳のわからん事を言ってんだ?」

「いえ、何でもないっす」

 やはりダルトンは知らされていない。

(市長が依頼した事が、僕らの戦力を削ぐためだとするなら。このタイミングで自警団を動かす事が最良……そうだとするなら殉職した自警団の団長や団員も、市長の思惑によるもの?)

 しかし魔人の事もある。あるいはそれがただのガセネタであるなら問題は無い。そちらに向かっているのはその程度の嘘には踊らされない、でたらめな人なのだから。

 だが魔人の事が真実であったとするなら、それはありえない事を意味する。

(市長と魔人に繋がりがあるって事になるっすね。そうなると新たな街作りっていうのが、かなり危険な臭いのするものになるっすね)

 あくまで推測、ヤーコフの頭の中で構築された情報の断片がどこまで的を射ているのかは不明だ。

「おい、急に黙って何を考えてる? 下らない真似しようとすればお前の部下の命は無いぞ」

 それよりもまず、ヤーコフは目の前の事態を解決せねばならない。

 既にヤーコフは囲まれており、ダルトンを始めとする自警団の人数は八人。そして部下が一人人質に捕られている。

 切り抜ける方法はいくつかあるが、その為には犠牲になるものも出てきてしまう。

「二つ、聞きたいっす」

「何だ、言ってみろ?」

「まず、僕らを拘束するって事でしたが、命の保証はしてもらえるんすか?」

「……ああ、しばらく牢に入って臭い飯を食う事になるがな。殺せとは言われてねえ」

「つまり、僕がダルトンさんの言う、下らない真似をしようとしなければ、部下の身の安全は保障されるんすよね」

「俺が市長に言われたのは、駐屯騎士を拘束して牢に入れろという事だけだ。お前らをどうこうする気はねえ」

「……本当っすね?」

 ヤーコフは鋭い目つきで真っ直ぐダルトンを射貫いて問う。

 それが以前に感じた恐怖を呼び起こすものだったのか、ダルトンは臆した様子で脂汗を垂らしながら首を縦に振る。

「ほ、本当だ。お前もお前の部下の身の安全は保障する」

「嘘です副隊長! さっきこの人、副隊長にいつかの仕返しをしてやるって息巻いてました!」

 ダルトンの言葉を即座に否定したのは、人質になっていたヤーコフの部下。

 まだ十代の若い騎士だが、この状況でそれを言えるのは大した胆力だった。

「てめえ!?」

「待って下さいっす」

 激昂したダルトンが部下に手を上げようとしたところを、ヤーコフは言葉で制した。

「解りました、おとなしく拘束されることにするっす」

 そしてヤーコフは全て受け入れたように両手を挙げて、降伏を示す。

「副隊長!?」

「大丈夫っすから。ここで無駄に血を流す必要は無いっす」

 ヤーコフにとっての重要な事は約束された。ここはそれで充分である。

 ヤーコフという男は、人である前に騎士だと言える。自分の事よりもまず他人の事を考え、自分の身よりも他人の安全を考える。

 それが彼の騎士道にしている『我が剣は我が為に非ず』という協会騎士団の憲章の一説である。

 そしてヤーコフが言った『無駄な血』というのは部下の騎士の事だけでなく、ダルトンを始めとする自警団の面々の事でもある。

 ヤーコフがこの場を切り抜けるには、部下か自警団のどちらかが血を流さねばならなくなり、それをヤーコフ自身が良しとしない。

 確かにダルトンはヤーコフに恨みを持っているようだが、それ以外の自警団員は命令に従っているだけのようであり、悪意も敵意も感じられない。

そんな相手に向ける剣をヤーコフは持ち合わせていないのだ。

「やけに素直だな、何を企んでいるんだ?」

 そういうヤーコフの思いはダルトンには理解できないのだろう。妙に訝しげに警戒した視線を向けている。

「何も企んではいないっすよ。どうぞ拘束するなら早くして下さいっす」

 余裕を見せ始めたヤーコフに、不満を抱きつつもダルトンは近くの自警団員に指示を出す。

「おい、早くこいつを拘束しろ。さっさと連れて行くぞ」

「ちっ、なんで俺が。ていうか何でダルトンが仕切ってんだ?」

「う、うるせえ。さっさとしろ」

 どうやらヤーコフと面識があったからダルトンが率先して話していただけで、別にリーダー格というわけではなさそうだった。

 指示された自警団員は不満そうな顔をしながらも、結局誰かがやらなきゃならない事だと割り切ったのか、最終的にダルトンに従った。

「副隊長……」

「大丈夫っす」

 心配そうに見つめる部下を、拘束されながらもなるべく頼もしく見えるように笑顔を作りながらヤーコフは元気づけた。

(とは言ったものの、何がどうなっているか確信が無いから、動けなくなるのはまずいと言えばまずいんすけどね)

 そんな思いも押し殺し、それでも自分の甘さを省みないのは、それが自分の騎士道だと信じているから。

 そして自分に何かあっても、自分が信じる者がきっとどうにかしてくれると信じているから。

(って、また他人頼みになっちゃってるっすねこれ。本当に僕は不甲斐ないな、こりゃ隊長が帰ってきた時が怖いっす)

 そして仕事が溜まっている事も危惧しながら、ヤーコフは連れられて行く。



++++++++++++++



 ゼニス市の市長を務めるベルリークの執務室にノックの音が響く。

「入れ」

 ベルリークは誰が来たのか確認もせず、ただそれだけ言って招くと、自警団の制服を着た体格の良い大男が入ってくる。

「君は……確かダルトンだったか?」

「は、そうであります。市長から貰った指令が完了したので、報告に来ましたぜ」

 畏まった話し方出来ていないダルトンに、ベルリークは眉根を寄せるが。そういう繊細な部分の観察もダルトンは苦手なようで、気づいてはいなかった。

「……つまり協会騎士団の駐屯部隊は全て拘束したのだな?」

「ええ、隊長のカタナは対象外って事だったんで。副隊長のヤーコフ以下の隊員は、全て拘束して牢に入れてやりました」

 実は一人だけ、カトリ・デアトリスという従騎士は街の外に出ているようだったので、拘束できていなかったが、ダルトンは虚偽の報告をした。

 ベルリークの指令では、今日の夜中の内に行っておけと言われていた事と、その従騎士が最近配属された新人であったから、後で誤魔化す事も出来るだろうという打算があったからだ。

「ふむ、ご苦労。では下がって良いぞ」

 ベルリークは自分が指示した事でありながら、特に関心を待たぬかのようにそれだけ言って報告を終わらせた。

「あ、あの市長……約束の件ですがね」

 恐る恐るダルトンが尋ねると、ベルリークは苛立たしげに険しい顔で答えた。

「殉職した団長の代わりに、君を新たな自警団の団長に取り立てるという話かね? 覚えているが、それがどうかしたのかね?」

「い、いえ。何でもありません失礼しやした」

 ダルトンも結構な強面であるが、老獪さの滲むベルリークの凄味は相当なもので、睨み付けられると震え上がった。

「何でもないのなら早く出て行きたまえ。見ての通り私は忙しい」

「し、失礼しやす」

 心象を悪くしてはいけないと、ダルトンは慌てて市長の執務室を出て行った。

 バタンッと大きな音を立てて閉じられたドアに、またしてもベルリークは眉根を寄せたが。その後険しい表情は笑みへと変化した。

「滑稽だな。偽りの地位に目が眩み、自分が何に与しているかも気付かずにいるとは」

 それは嘲笑。それが向いているのはダルトンだけでなく、ベルリークという男を市長の座に置いた、ゼニス市の市民すべてに向けられていると言っても良い。

「明日、とうとう明日だ。この街は変わる、いや世界が変わる。偽りの平和、偽りの世界が私によって変えられる……黒の予言の第一幕、この栄光が成った時を思うと身が震えるな」

 ベルリークは興が乗ったのか、執務室の窓から夜の街を眺めながら独りごちる。

「凶星を運ぶ聖騎士も、まんまと誘導に従った。これで私の邪魔が出来る者はこの街に居ない」

 いつもシワの消えない眉間のせいで、不機嫌な印象しか他人に与えないベルリークだが、この時ばかりは晴やかに自然な笑みが浮かんでいた。

 そしてベルリークは机からシャンパンを取り出した。たった一人の執務室で、たった一人で祝杯を挙げる。それは五十年の時を一人で待ちわびたベルリークの、人生そのものを表しているようだった。

「祝杯など、まるでニンゲンのようだが。何年も偽ってきたのだから、最後の時までそうするのも悪くないだろう……」

 そう言ってシャンパンの栓を開けたベルリークの背後から、不意に声が掛かった。

「ねえねえ市長さん、なんならあたしがお酌をしたげようか♪」

 ベルリークが振り返ると、そこには見知らぬ少女(というか幼女に見える)の姿があった。

「……誰だね君は?」

「あたしはただの通りすがりの大人の女性だよ。これでも成人しているから一緒に祝杯を楽しむこともオーケーなのさ」

「ふざけるな、君の行っている事は不法侵入という立派な犯罪だ。返答如何によってはすぐに牢に入ってもらうぞ」

 上機嫌だったベルリークの眉間にシワが戻る。しかしダルトンが震え上がったベルリークの凄味のある睨み付けも、少女には通用していないようで、へらへらとした笑みが返ってくる。

「まあまあ、そう常識ぶらない。代わりにあたしも冗談は言わないよ。あ、でも成人しているってのは冗談じゃないから、そこは勘違いしないでね」

 少女のおちょくるような物言いは、ベルリークを更に苛立たせるには充分なものだった。

(どこまで聞かれていたかしらんが、殺すべきか?)

 準備に十年近い年月をかけたベルリークの計画には、僅かなイレギュラーも許したくは無かった。

 たとえ相手が無力な少女だとしても、例外ではない。

(いや、私が気配を悟らせずに背後を取られたのだ。これを無力な少女と思っていいはずがない)

 ベルリークは思い立つと同時に、少女に向けて右手を振るった。

 すると黒い線が少女に向かって伸び、その場を切り刻んだ。

 それは紛れもない魔術……黒い魔光をはらんだ魔力によって発現する、魔人が使う異界の異能。

 それをベルリークが駆使したという事は、彼が魔人であるという事の証明であり、それを知る者は彼の同族を除いてもういないはずだった。

 しかし、今まさにそれを目撃された事で、新たに知る者が増えてしまう。

「……今、何をした?」

 先程までとは反対側の位置、またしてもいつの間にか背後にいた少女にベルリークは尋ねた。

「ふふーん、それは企業秘密だよ。でも一つ言える事があるとするなら、無駄な事は止めて、あたしとお酒を飲もうよって事かな」

「……何者だ貴様は」

 少女の言う事は無視して、ベルリークは今一度問う。

 冷静に考えればまともな答えが返ってくるとは思えないが、すでにベルリークは冷静さを欠いていた。

 しかしその様子を見て、少女は満足したように。あえてまともな答えを返した。

「あたしはサイノメ。しがない情報屋、そして貴方の信じるものの敵だよ」

「サイノメ……そうか、貴様が。なればここにいる理由は、私の邪魔をしに来たという事だな」

「いんや違うよ。本当は今日の所は様子見だけだったんだけど、うまそうなお酒を出すもんだからついね」

「……おちょくっているのだな」

 我慢の限界といった様子で、眉間が痙攣しているベルリークだが。対するサイノメはあくまで自然体。

「別にあたしは市長さんをおちょくる気も、邪魔をする気もないんだけどね。まあでもそういう風にとられちゃうならしょうがない、今日のところは帰るとするよ」

「生かして帰すと思っているのか?」

 ベルリークは再び右手を振るう、同じように黒い線が現れてサイノメの居る場所を切り刻むが。先程と同じ結果、刻まれた絨毯だけがその場に残ることになった。

 当のサイノメは執務室のドアに手をかけ、出て行こうとしている。

「待て!」

「それじゃあ、明日の余興楽しみにしているよ♪」

 サイノメがドアを出て、閉めるのと同時。ベルリークは三度目の魔術を放つ。

 黒い線が執務室のドアを切り刻むが、その向こうには無人の廊下が続いており、既にサイノメの姿は無かった。

 ベルリークはどこにも向けようのない苛立ちを感じ、シャンパンを床に叩きつける。

(くそっ、なんなのだこの苛立ちは!! もはやあんな小娘一人にはどうにもできない所まで来ている筈だ!! それが、なぜこうも許せない!!)

 今までが順調すぎた故、それが不安という感情だという事にベルリークは気付かない。

 そしてそれが取り越し苦労だという事にもまた、気付いていなかった。



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