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魔剣カタナとそのセカイ  作者: 石座木
終章 魔剣カタナとそのセカイ
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終章第一話 前線と城塞騎士

タイトルの抜けを修正

王国軍は先遣部隊として一個連隊を、本体から少し離れた前線に送っていた。

その任は日ごとの野営地の選定や、協会騎士団の動向をいち早く察知する為の視察。

特に戦術魔法による遠距離からの攻撃を警戒しての事である。


 そしてとうとう先遣部隊の物見が、異変を知らせる時が来る。

怒涛のように押し寄せる蹄の音。

 その発信源には誰もが驚いていた。

「な、なんなんだよ、あれは」

 地を揺らす程に力強く走り迫る、重々しき巨体。

 それは重装騎兵。

 飛竜と同じ魔獣の新種である八脚馬スレイプニルを騎馬として運用し、足の遅くなってしまう重装備の騎士の欠点を克服した、協会騎士団の誇る機動戦隊。

 筆頭は一回り大きな黒馬に跨り、威風堂々たる巨体を更に巨大に見せる聖騎士グラクリフト。

絶対的な存在感と威圧感を放ち『城塞騎士』というその異名に恥じぬ姿は、王国側の兵士達に恐怖を伝播させる。

「何をしておる! 魔法戦部隊は戦術魔法の準備、前衛の兵士は槍を構えて密集陣形を整えよ!!」

 王国近衛騎士である連隊長から檄が飛ぶ。

それによってようやく前線の兵士が迎撃の陣形を整え、後方では戦術魔法が魔法陣によって構築され始める。

「見たところ百程度の小隊規模だ、何も恐れるな!!」

 連隊長が檄によって士気を整え、約三千の連隊に戦場の空気が流れ始める。

「戦術魔法の準備はまだできないのか!!」

 重装騎兵の存在は王国側にとって僅かばかりの誤算。

 現代の戦術理論では戦術魔法の存在によって、馬の臆病な性格が魔法の飛び交う戦場に合わず、的が大きくなる事や落馬のリスクも相まって、その価値は低く見られている。

 だが魔獣である八脚馬スレイプニルを騎馬として扱った場合、普通の馬とは比べられないほど戦術的価値がある。

 元々の荒い性格は戦場という場所でこそ光り、底知れぬ体力は全身を魔法武装で固めた大柄な騎士も悠々と運ぶことができた。

 だから王国側にとって発見から接敵まで猶予の無かった事が、大きく響く。

「戦術魔法、準備が整いました。突撃してきた敵の騎兵は既に効果範囲内です」

「放て!! 早くしろ、奴らの鼻先にぶつけてやれ!!」

 連隊長は胸を撫で下ろす。

 如何なる重装で身を固めた騎兵であれど、戦術魔法さえ間に合えば一網打尽にできる。

 そう思っていたから。



++++++++++++++



 戦場の中心を越え、更に突撃するグラクリフト。

 手綱も必要とせずに八脚馬を駆り、大楯と戦槌を両の手に持つ。

 その眼に映るのは王国軍の大軍勢のみ、味方を背にして誰より速く突き進む。

 自ら意思で引き受けた先駆けの大任に、彼は最上の誇りを抱く。

「……きたか」

 戦場に上る霊光、戦術魔法の予兆に他ならない。 

 それに合わせてグラクリフトは大楯を構えた。

 そして戦場に降り注ぐいくつもの雷霆。

 発現した戦術魔法が重装騎兵達の頭上より襲い掛かる。

 見極めたグラクリフトは大楯を天に掲げた。


不退ヴァンガード……解放!!」


 協会騎士団の所有する魔術武装の一つ、『魔術楯・不退ヴァンガード』。

 相応しき者は誰より勇気を持ち、決して退かぬ不屈の闘志を持つもの。

「……括目せよ、貴様らが何を敵に回しているのかを」

 グラクリフトの闘志に応じるように、不退ヴァンガードはその力を発現させる。


 まるで、それは底なし沼のよう。

 戦術魔法によって降り注ぐ雷撃は黒き障壁に飲み込まれていく。

 グラクリフトの持つ楯が放つその力は、彼の後ろを行くもの達全てを守護する絶対防御の壁となった。

 その様相はまるで堅牢な『城塞』。

 王国の派遣部隊はそれに圧倒され、駆け抜ける重装騎兵の接敵を許す。

「……どけい!」

 迎撃の為に密集陣形をとった王国の前陣が槍と盾を構えるが、八脚馬による突撃はその尽くを踏み荒し突破する。

 先駆けであるグラクリフトが目指すのは、最奥でふんぞり返ったいっとう豪奢な鎧に身を包んだ騎士。

「ひい!?」

 グラクリフトの迫力と並々ならぬ殺気に気付いたのか、部隊をまとめる隊長と思わしきその者は悲鳴を上げた。

「……我こそはミルド協会騎士団の聖騎士グラクリフト」

 全身を戦用の漆黒の鎧で固め、素顔すら兜で隠した男が上げた名乗りの声。

 それは恐怖を与える為の死刑宣告にも等しい。

 周囲の王国騎士達は竦みあがり、グラクリフトが振り上げた巨大な戦槌の軌道をただ見ているだけであった。

「ぐぼっ」

 武器と鎧ごと、グラクリフトの戦槌による一撃は敵の連隊長を叩き潰し、原型を留めさしはしなかった。

「……しかと聞け、王国の者共よ!!」

 たった一撃でその場の全員に恐怖を植え付けたグラクリフトは、くぐもった重々しい声で叫んだ。


「我ら協会騎士団は最強!! 最強なのだ!!」


 その一声は味方を鼓舞し、敵には敗北を刻み付ける。

 重装騎兵の突撃で瓦解した陣形と、それを立て直すための指揮官を失った王国軍の先遣部隊には戦線の維持など不可能。

 先遣部隊の残った手段は、自陣の本体に向け敗走する事だけであった。

「……追撃はするな、我らはここで本隊の到着を待つ」

 城塞騎士グラクリフトの活躍により、たった百騎の重装騎兵が三千の連隊を破る結果となった。


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