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魔剣カタナとそのセカイ  作者: 石座木
第四章 友との誓い
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四章第十話 道の終わり

 それから何合切り結んだであろうか。

 正確にはケンリュウが放つ飛ぶ斬撃をカタナが防いでいるだけの事であるが、両者とも相当の集中力をもってして戦いに臨んでいる。

 そしてそのままいけば、不利なのは間違いなくカタナの方であった。

(……くそ、体が重くなってきた)

 魔元心臓ダークマターを起動し続ける事で、カタナには相当な負荷がかかっている。

 

 オギャアアアアアアアアアアアアアアン


 しかし、休む間などない。カタナを切り裂こうと一閃が迫る。

 そして一時も巨無ドレッドノートに発現する霊子断の力を止めず、ケンリュウが放つ殺気のこもった刃を今また防ぐ。

(なんとかしないとな……)

 このままでは消耗戦、後に控える者の事を考えれば、それはカタナが一番避けたい事である。

 だが、肝心の一歩が踏み出せない。

 勝負を決する為に必要な要素が足りない。

(……勇気、か)

 カタナは恐れている、ここで終わる事を。

 いつもならば死ぬことなど怖くない。自分の安い命をいくら散らせようと構わないと思うのに、今に限っては違う。

(今までは戦うのに勇気は必要なかった……どこで終わっても大差ない、投げやりに考える逃げ場があった)

 言われるがまま、求められるがまま、魔剣あるいは聖騎士カタナとして、その役割を適当に果たせば良かった。

 だがその居場所を全て失って、背負ったものは多かったと気づく。

(俺は……ここでは終われない)

 カタナの為に戦ってくれた者、カタナの為に戦ってくれている者の為に。

 誰だって戦うときには敗北を思い浮かべる、死ぬ時の無様な姿を想像する。

 だがそれを振り払い、奮い立たせるものがカタナの中にはある。

「……いくぞ」

 その一歩が勝負を決めた。



++++++++++++++



「――な!?」

 剣を抜こうとしたケンリュウの眼前を塞いだのは、カタナが踏み砕いた石畳が上げる砂煙。

踏鳴ふみなりだと!?)

 震脚とも呼ばれる、足で地面に強く踏みつける動作。

 常人のものとは桁が違うの力で踏みつけられた石畳は、その衝撃を受けきれず砕かれ伝い、カタナの周囲の一帯は煙幕のように長い年月をかけてたまった砂埃が舞い上がる。

 だがそのような目くらまし、気配によって相手の位置を察知できる達人の域にあるものには子供だましでしかない。

 むしろケンリュウの動きが見切れなくなったカタナの方が、分の悪くなる行為。

 そのはずであった。

 

 ヒュンヒュン

 

 砂塵の中から飛来するもの。

 カタナが踏み砕いた石の破片を蹴り、ケンリュウにつぶてとして浴びせかける。

「――猪口才なあ!!」

 それを全て体で受けきるケンリュウ。

 鍛え上げたのは剣の技だけでなく、己自身の肉体。

その程度では壊れない事を信じ、剣を抜くことにのみ神経を集中させる。

剣を抜けばケンリュウの勝利、音速を超える断空を防ぐ方法を失ったカタナにはもう手立てが無い。


 しかし一瞬、ほんの一瞬だが、ケンリュウには隙が生まれた。

 それは人として生まれた者には抗うことができない、反射神経というもの。

 飛来してくる礫に対して瞬きすると同時、体が硬直する。

 知覚するのも難しいコンマ数秒の世界、それでもカタナという存在を前にしてのそれは致命的であった。

 剣を抜けばケンリュウの勝利、実際に刃の先端近くまで抜きかけられていた十月十日であったが、想像だにしていなかったものに阻まれる。


 魔術剣・巨無ドレッドノート

 歪だが剣の形状を取っているそれは、硬い材質とも相まって霊子断の力などなくとも武器として機能する。

 それも超人的な力で投げつけられたそれは、音速には程遠くとも十分な速さと破壊力を兼ねていた。


「見事……なり」

 

 手からこぼれた十月十日が地面に落ちる。

 利き腕の肩を砕かれ、敗北を認めたケンリュウが、失せる砂塵の中から現れたカタナを称えた。

 油断も慢心もなく、ただ自分の剣を信じて戦ったケンリュウだが、この敗北はそれゆえといえるだろう。

 カタナが行ったように自分の剣を投げつけるなど、人生を剣に捧げてきたケンリュウには到底選択できない事。

「これが凶星……いや、違うな、カタナという男の強さか」

 常識にとらわれず、常に想像の先を行く。

 剣というものに縛られたケンリュウにはできない戦い方であった。

 カタナが向かってくる、人生と信じた道の終わりが近い。


「武士道とは死ぬことと見つけたり、満足のいく戦いであった……」

 

 数多の強者を斬ってきても得られなかった充足、それは敗北にこそあった。

 だからこそカタナがケンリュウにとっての真の光明。

 父を斬って受け継いだ人斬りの技と共に、破られ死する。

「さあ、殺せ」

 この世の全てを恨むような表情ではなく、ケンリュウは清々しさすら感じる笑みを浮かべ、最期の時を待つ。

 しかし向かってきたカタナはあろう事に、ケンリュウの横を素通りした。

 一瞬呆気にとられたが、ケンリュウは痛む肩の事を忘れ思いっきり振り向いた。


「ま、待たれい!!」

「……何だよ」

 カタナは呼び止めたケンリュウを鬱陶しげに睨んだ。

「何だではない!! 貴様はまた決着を有耶無耶にする気か!!」

 砦内にケンリュウの怒号が響く。 

 カタナはそれに臆さず、あくまでどうでもよさげに答えた。

「決着ならついた。どう見ても俺の勝ちだ」

「……ぐ、確かにそうだが、某に情けをかける気か!! ここで殺さねば、また貴様に挑む事になるぞ」

 生きている限り、ケンリュウは剣と共にある、それは絶対に捨てられない。

「挑みたければいつでもこい。不意打ちでもなんでも、俺のところにくるならいつでも受けてやる」

 殺しても後腐れがない相手、それでもカタナはケンリュウを殺して人殺しの罪を背負う事を拒否した。

 今更の事だと言われても、その罪は少女との約束を果たすのに邪魔になる。

「某が憎くはないのか、兄を殺された恨みを晴らしたいとは思わないのか?」 

「……ゼロワンの事であんたを恨んでいない。恨むべきは俺自身だ、戦わず怠け逃げ続けていたせいで決まった結果だ。この始末はあんたを殺してつけられるもんじゃない」

 そう、カタナが真に決着をつけるべき相手は別にいる。

 だからこんなところで足踏みしてはいられない。

「納得がいかん!! 某は……が……く」

 話の途中で遮るように、ケンリュウの鳩尾にカタナの正拳がささる。

 そしてもう一撃、顎に痛烈な掌打を見舞った。


「うるせえよ。負けたいならいつでも相手になってやるって言ってんだ、それで納得しろ」

 気絶してもう言葉が聞こえていないケンリュウにそう言い残し、カタナはもう一人の相手と対峙する為に巨無ドレッドノートを拾い上げた。

 


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