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魔剣カタナとそのセカイ  作者: 石座木
第四章 友との誓い
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断章 悪友の話

「魔人の事が知りたいやて?」

 私の共犯者であり、悪友でもある彼は少し意外そうに眉を顰めた。

「ええ、いけませんか?」

「いけないもなにも……知ってもおもろい事はなんもないし、逆にやりにくくなるかもしれへんで」

 そうやって注意をする彼の言葉には、私の事を案じるニュアンスが幾分か感じられる。

 だが私はそれでも聞きたい、いや聞かねばならないと思っていた。

「……敵を知り、己を知れば百戦危うからず」

「なんやそれ?」

「友の言葉です、なんだかそれが耳にいつまでも残っていましてね。きっと彼もキミに同じことを聞いたのではないですか?」

「う、鋭いな自分」

 私の悪友は誰よりも嘘がうまいが、確信を持っている相手には隠し事をしないという特徴があった。

「彼が何を知り、何を思って戦ったのか……私は少しでも近づきたい。だから教えてくれませんか?」

 どうしても知りたい私が頭を下げると、悪友は困ったように頬を掻く。

「別に教えんとは言うてへんやろ。まあ相応の覚悟があるみたいやし、楽しい話やないけど聞かせたるわ」

「ありがとう」

「感謝されるいわれもない。ワシとお前は共犯者や、本当ならもっと早くに教えるべきだったかもしれん」

「ん?」

「……まだ引き返せるうちに、そうしなかったのはまあワシの気持ちが半々やったからやろな」

 その半々が何と何の感情であったのか悪友は語らず、代わりに私が知りたいと乞うた魔人についてのほぼ全てを語りだしてくれた。



++++++++++++++



 かつて大陸には一つの王国が栄えていた。

 たった一人の王の下に大陸中の民が集い、そしてその国は現在とは比べ物にならないほど発達した文明を誇っていたらしい。

「今の時代の人間からは古代王国や旧王国といわれとる、まあお前さんも知っとる例の聖剣はその時代に生まれたもんや」

 聖剣、それは彼が勇者として誕生したきっかけであり、今は彼そのものだ。

「……それが魔人と何の関係があるのです?」

「魔人が生まれたのも、その時代の古代王国での話やからや」

「――!?」 

 驚きと戸惑い。

 私が知っていた魔人とは魔界と呼ばれる異界からの侵略者であり、元々は大陸と何の関係もない存在だと思っていた。

「魔界な……まあ他に呼び名がないからしゃあないか」

 悪友は何か引っかかる言い方をし、そのまま話を続けた。

「古代王国では一つの娯楽としてコロッセオいうのが大変な人気やった」

「コロッセオ?」

「まあ闘技場みたいなもんや、今の時代とは環境も設備も段違いやったけどな」

 悪友は、その環境や設備であるテレビジョンやホログラフィーというものについて説明してくれたが、私の想像を超えるものだった為に完全に理解はできなかった。

「まあええ、重要なのはそのコロッセオが理由で魔人が作り出されたということや。古代王国は長いこと戦争もなく平和やったから、民衆はスポーツ感覚で殺し合いを楽しんどった」

「……悪趣味な」

「はは、せやな。でも今の時代でも少なからず同じようなもんは存在しとる。帝国の裏闘技場では金持ちが法も守らず好き勝手やっとるし、王国では奴隷の強さも一つのステイタスで、闘技場で戦わせる為だけの闘技場奴隷なんてもんもあるらしいな」

 嘆かわしい話だ、命がけの戦いとは見て楽しむものではない。

 今まで私は剣を極める為に、達人と呼ばれる者達に真剣勝負を挑んできた。道は違えど彼らの高潔さには敬意を評しているし、その刹那の時間を私は生涯忘れはしない。

 だが悪友から聞く話にあるのは、ただただ命を冒涜する醜さだけだ。

「魔術と科学の両方の文明が発達しきった古代文明には、そういう倫理観が恐ろしく欠如しとった。クローン技術、魔術医療、魂や肉体に至るまで全てが解明されたあの時代では不老不死も夢物語やなかったからな」

 私は相槌もうたず、悪友の言葉に耳を傾け続ける。

「そして互いに戦わされるだけに生み出された魔人……まあそん時は長ったらしい頭文字を並べたMA-JINと呼ばれとったけど、その彼らには観客をより楽しませる為に個性が与えられた」

 その個性とは主に性格ではなく、戦いに関してのもの。

「魔術武装……あれは魔人が作ったもんやない、コロッセオの戦いをより楽しむ為に古代王国人が用意したただのオプションや」

 魔人が魔人を殺すために作られたといわれている魔術武装。それはある意味正しく、しかし本来の意味とは歪められていた。

「他にも特異能力と言われた『黒死病パンデミック』や『災予知パンドラ』、それに『異装甲ヴァリアント』なんかもただコロッセオを盛り上げる為に生み出されたもんや、今の時代では超常と呼ばれ恐れられた力も、古代王国ではただの娯楽を盛り上げるための一要素にすぎんかったんやから、ほんまにとんでもない話や」

 そしてそれらの力の基は魔術と科学の融合にあると悪友は語る。

 黒死病パンデミックはナノマシン、災予知パンドラは超量子演算コンピューターなど、またしても私の想像を超える文明の話を聞かされた。

「そんなかで古代王国に唯一の誤算を生んだのが『不明視アンノウン』やな、光学迷彩を基に時には消えあらゆるものに姿を変えるその存在によって、命を消費させられ続けた魔人は反乱を起こす事ができた。大陸の人間には見られない特徴として、見分けをつける為に与えられた黒い髪と瞳にちなんで『黒の民』と名乗ってな」

 いつしか話に夢中になっていた私は、悪友の言葉を待ちきれなくなっていた。

「それで、どうなったのです?」

「分かるやろ、魔人側の完全敗北や。この世界を追い出され、今は魔界と呼ばれる異空間の掃き溜めに飛ばされた。魔術装置の『夢幻ミッシングリンク』は知っとるやろ? あれのもっと大規模なもんによってな」

 もともと魔界とは古代王国人がゴミ捨て場としていた空間らしく、魔竜をはじめとした魔獣達も元は古代王国人が生物実験によって生み出したもの。

「でもな、魔人たちにも希望はあった。未来を知ることができる災予知パンドラの力を持つルルによって、その閉ざされた空間からいずれ出ることができるとな」

「ルル……黒の巫女ですか」

「せや、それがなければ魔人はあがく気力すら保てんかったやろな。もっとも巫女本人は、そうやって道を示してしまった事を悔んどったが」

 自分の一言が後の争いを生んでしまった事、そして自分の力によって争いの中で多くの命が失われていった事。

 巫女がそれを悔んでいたことは私もよく知っている。

「まあそんなこんなで今の大陸があるわけやな。魔人が人間を憎み侵略する本当の理由、それを知った感想はどうや?」

「……」

 言葉も出ない。いや、できないといった方が正しい。

 私にとって魔人は敵、そんな単純なものであったが、悪友の話によって今は同情すら覚えている。

「やりにくくなったか?」

「いえ、それはありえません」

 今唯一断言できるとすれば、その話を聞いても私の決心は揺らがなかったということだ。

「魔人の境遇には同情をしましたが、それでも私の彼との誓いはそれ以上に大切なもの。それをしっかりと確信を持つことができました」

 同情するべき相手でも、その怨念を背負ってでも勝たねばいけない。

 私にとって彼との誓いは、人生すべてをかけるべきものなのだから。

「……敵を知り己を知るか、なるほどやな。敵を知ることでお前さんも自分の決心の絶対さを実感したわけか」

「ええ、迷いなどありません。魔人が信じる希望を踏みにじってでも、私は彼の救った世界を守っていかねばならない」

 そう、それも誰に頼るわけでもなく私の手で。

「踏み出しましょう、ここより凶星を生み出すための第一歩を」

 私ことシュトリーガル・ガーフォークは目の前の悪友と頷き合い、罪深き茨の道を踏み出し始めた。

 


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