四章プロローグ 勇者の言葉とは
――怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物とならぬように心せよ。汝が長く深淵を覗き込む時、深淵もまた汝を見ている――
友から聞いた、とある哲学者の言葉だ。
その哲学者が何を思ってそう言ったのかは、本人にしか正解は解らない。
友が何を思ってそう言ったのかも、彼にしか正解は解らない。
しかし想像は出来る。
力を持ちすぎた事に彼は苦しんでいた。祭り上げられ、期待され、それに応えた結果が勇者という偶像にされる事。
誰も本当の彼を見ていない。
彼の功績と、取り繕った振る舞いだけに目を向け、その裏で彼がどんな心境であったのかなど興味が無いのだ。
勇者だから強く、恐れず、傷付かず、特別。
それがどれ程異常な事か、誰も知らない。
彼の友であった私にも、本当の意味では理解できない。
私は特別ではないただの一人の人間、彼のようには千回生まれ変わったとしても、決してなれないだろう。
「だからこそ私は求める。特別になる事に、異質である事に、それが怪物として忌み嫌われる存在になる事だとしても……」
私が望むのは彼になる事だ。
彼の居ないこの世界を、彼の代わりに守り、そして本当の彼を知りたい。
「……これが、私なりの答えだよレット」
神は死んだ。
殺したのは……私達だ。
「さあ、カタナ。ようやくキミの存在が意味付けられる時が来たよ」
運命や宿命という言葉は好きでは無い。
しかし、実際に存在する以上は無視するわけにはいかない。
私が長く生きた末に出した答えは、それに抗う事が出来るのか。
「……切り札か、道化か、好きな方を選ぶといい」
どちらにしても、私は友のように笑う事は出来ないだろう。




