何か持ってる人達
「お前、何か持ってるよな?」
そう言われた男は、
「お前こそ、何か持ってるよな?」
言われた男にそう返した。
二人は互いに手ぶら、見た限りではどちらも何も持っていない。
だが二人は、お互いにお互いに、
「何か、持ってるよな?」
と言い合っていた。
その、何かとは……
「知りたくない? その、持っている何か」
そこに一人の少女が会話に入ってきた。
妙な格好をした少女だ。特に頭に被る帽子は、身を包む服と同じ―――縦や横の線が多く書かれた、まるで迷路のような模様―――柄をしていた。
「さっきから聞いてれば、何か持ってる何か持ってる何か持ってる何か持ってる。その何かがよく分かってないんでしょ? 二人揃って」
さらりとひどいことを言ったが、二人の男は、
「そうだ、だがこの男は必ず何か持ってる」
「そう、この男は何か持っているんだ」
互いを指さしながらそう言った。
「あーもう、なんでワタシの担当はこんな変な奴らばっかりなのさ!」
少女は憤慨したように地団太を踏んだ。
「とにかく! その持っている何かを分かるようにしてあげる!」
そう言って少女が取り出したのは、虫眼鏡だった。
「これを通して人を見ると、その人が持っている何かを見通すことができるの♪でもね、それを隠している、あるいは気付いていないというのが条件なんだ」
虫眼鏡を目にあて、男達を見た。
「ふむふむ……うわ、どっちもどっちってやつだね」
うわー、と妙な顔をした。
「どちらも凄い保険金だね。どっちも同じだけ凄い金額、これがアナタ達共通で持ってるもの」
女の子はピンと指を伸ばして、片方の男を指し、
「アナタは、すっごい病気を持ってる」
もう片方を指して、
「アナタは、すっごい健康的な体を持ってる。これはどちらが長生きするかは確実だね♪」
そう、二人は互いに互いにかかっている金を狙っていたのだ。
そしてその言葉を聞いた持病持ちの男はがっくりとうなだれ、健康持ちの男はガッツポーズで喜んだ。
「これで悩みは解決したよね♪―――――――――それじゃ、行き止まりまで、お幸せに」
妙な言葉を残して、女の子は去って行った。
その後、二人の男は亡くなった。
先に死んだのは―――――――――――健康持ちの男だった。
持病持ちの男は、よく病院に行き、その病の治療に専念、早期に見つかったために、難を逃れることができた。
逆に健康的な男は、自分はいつまでも健康だと思いあがり、病気になったことに気付かず。その病におかされて死んでしまった。
男が亡くなった後、その金は持病持ちの男に渡されたが、病気の治療費で全てを使ってしまい。
結果として、どちらも互いの持っていた何かを手に入れることは無かったのだった。
「別に誰かが何かを持ってるからって、それを他人が手に入れられるとは限らないし、ましてや、それに本人が気づくのかも分からないよね♪」
でもね
アナタも
何か持ってるよね?
流行語大賞を見ていて思いついた話です。
おそらく、自分も何か持っています。
だから、あなたも、何か持っていますよね?
感想及び評価、お待ちしています。