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眠りし羽

掲載日:2026/05/23

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 刀剣。

 なぜ我々は、この武器に心ひかれる者が多いのだろうな。

 歴史的に見れば槍、石、弓などのほうが古いし、リーチ的にも勝っている。斧だったら長さはどっこいかもしれないが、こちらは木を伐るのをはじめ工具としての役割も多い。剣で同じように木を処理するには、相当の技を持つ達人でなくては難しいんじゃないかな。

 そうなると刀剣は武器としては、ほぼ対人用になるだろう。毛皮など、生まれついての鎧を持つ動物たちを想定してのものとも異なる、人間同士が身一つで決闘する意思を表明するのに向いた得物ではなかろうか?

 無粋なものを排除し、徒手空拳のみでは示しづらい相手への敬意や殺意や戦意をひと目で表現する。そのような儀式めいた要素が、どこか我々の遺伝子に刻まれたものを刺激するのではないかなあ、と考えているんだ。

 相手を斬るためだけではない。純粋に祭具やそのほかの使い方をされているものも少なくないだろう。昔、私が出会った特殊な剣についての話、聞いてみないかい?


 あれは夏にセミの抜け殻集めをしているときだったな。

 私の地元だと、夏休み明けに抜け殻をどれだけ集められているかは、男子間でステータスのひとつ。今後、なめられるかどうかが決まってしまう以上、手は抜けなかった。

 ご近所などは競争率が高く、費用対効果はよくない。誰も手をつけていない場所を、自らの足で発掘したほうがいいだろう。

 そう考える私は、日焼け対策をしつつ自転車を駆り、あちらこちらへ出かけたものだ。そこの地元の子供たちが同じことを考えている可能性はあるが、どこかしら探っていないすき間が存在するはず。そこをつければ、と。

 地図に頼ることをしない私は、自転車をセンスの赴くままに飛ばし、毎日のように新ロケーションの探索に力を入れていたんだ。


 そして、当時の私の行動半径的に東部最果ての地。

 そうだな……仮に「打錠だじょう山」としておこうか。

 後で調べたところ、かつてその山では薬の材料が豊富にとれて、一部は錠剤に使われることもあったとのことで。そこからとった。

 その打錠山のふもとの一角で、私は大量のセミの抜け殻に出くわしたんだ。

 目的からして、それだけならば大喜びだったのだけど、集まり方がどうにもおかしい。

 ひとことでいうなら、ダンゴ状態だ。

 一本の木ならば、その幹にセミの抜け殻が連なっている。互いの頭と尻へかぶりつくように列をなし、巣へ一直線に向かうアリさんのごときお行儀のよさでもって、根元から木のてっぺんまでズラリと、だ。

 それはもはや、誰かの手が入った美術品と形容したほうがいいような不自然さで、私も驚いたよ。

 アホや鈍感のたぐいなら、これ幸いと無頓着に抜け殻たちを手早く回収していってミッションコンプリートだろうが、私はそこまで図太くなれなかった。同じような状態になっている他の木や岩壁などを探り、用心しながら観察していったんだ。

 事前に風が吹いたのか、緑色の葉もかなりの枚数が地面に落ち、その裏にも同じように抜け殻が列を成している箇所が、いくらかあった。

 見て回ってみると、乱れている点はいくらかあったが、いずれの列もとある一点から放射状に広がっているのが察せられたんだ。その中心へ向かって、私は歩を進めていく。


 中心点は陸橋のように渡された大きな岩の真下だった。すり鉢状になっているその地形はおおよそ1メートルくらいの深さ。陽が当たりづらい角度のためか、むき出しになった土には湿り気がたっぷりと残っている。

 そのくぼんだ地面の中心を見ると、ぼろぼろのひもを巻いた棒とわずかに鍔がのぞいていたんだ。

「なにかの道具か?」と興味本位で私は、そばまで寄ってみる。やはり抜け殻の列たちはこの棒と鍔の根元から、各方向へ広がりを見せているようだった。


 先にアホがどうだのと話したが、このときの私もやはりアホの領域を抜け切れていなかったのだろう。

 よせばいいのに、湧き上がる興味のまま私はその棒へ手をかけて、引き抜いてしまったんだ。

 それはおそらくは刀であったのだろうが、ぱっと見て判断に困った。おそらく柄に当たる棒の部分とその鍔といった、地面より外へ出ていた部分はまだいい。

 でも地面へうずまっていた部分は根元数センチこそ錆びた刀身に思えたものの、そこから先は二又に分かれてしまい、どちらも数十センチほど伸びていたのだから。

 その色も、赤茶けた鍔元付近と異なり、真っ白いもの。刀身といえば銀とか灰色とか、あるいは血をたっぷりまぶしたような赤とかを想像していた私にとって、意外なものだったよ。


 が、それを持ち帰るどころか、長々と持っている気持ちにはならなかった。

 分かたれていた一対の刀身へ、葉脈を思わせるような筋がじょじょに浮き出てきたからだ。それが双方の先端にまで届いてしまうと、今度は刀身そのものがにわかに茶色く染まり出していく。

 それを見て、ピンと頭にうかんだものがある。

 セミが羽化していくときの様子。それを猛烈に早回ししているかのごとくなんだ。それを裏付けるように、私の握る柄からセミをつかんだ時とよく似た、絶え間ない震えが襲ってくる。


 夢中で刀を元の穴へ刺し直すや、周囲の土たちをどんどんかぶせて埋め立ててしまう私。幸い、といっていいのか分からないが、それ以上の異変は見られない。

 そのまま、周囲の抜け殻たちに目もくれずに逃げ帰った私は、何日もの間びくびくしっぱなしだった。自分のために、何か恐ろしいことが起こりやしないかと。

 夏休みが終わっても、それらしい報せが来ることはなく、やがて私も地元を離れた。

 何年かしてから様子を見に行ったときには、地震などの影響があったか。橋のように渡されていた大岩が地面に落ちていて、例のくぼみもろとも刀らしきものを隠してしまっていたんだよ。

 あの岩が封印がわりとなってくれているなら幸運ではあるが、いずれ誰かや何かが、取り除いてしまうときが来る恐れもまた十分にある。

 そのときに、マズい事態とならないことを願うばかりさ。

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