番外編 恋?いいえ、使えそうな奴を鍛えたいだけです
「あら。あの方、とっても筋が良いですわね」
ある日の午後。
訓練場を通りかかった私、ラーナの目に留まったのは一人の少年騎士候補生でした。
名はカイル。
没落寸前の伯爵家出身ながら泥臭く剣を振るう彼の瞳には…濁りのない真っ直ぐな志が宿っていました。
「ふふ。お姉様方を守るための『私の手駒』として、磨けば光りそうですわ」
私はただ、純粋に「戦力補強」の視点で彼を眺めていました。
ええ、断じて「恋」などという浮ついたものではありません。
ですがこの一言が、背後にいた姉様の耳に届いてしまったのが運の尽きでした。
「…今、ラーナが『あの方』と言ったわ。……あんな、どこの馬の骨ともしれない男を!」
リーシェ姉様の瞳からハイライトが消えました。
「筋が良い…? 私がもっとマシな男を千人ほど並べて選別してあげるわ、ラーナ!」
ルージュ姉様が腰の剣に手をかけ、今にもカイル君を排除しそうな勢いです。
「ラーナが…恋? 隣国の第三王子ですら門前払いしたラーナが!? 許さない。その男、今すぐ隣国へ連れていくわよ!」
レオナ姉様が、普段の甘えん坊キャラを忘れて魔導具を起動させています。
「…辺境の国の魔物に食べさせてしまいましょうか。あ、それとも一生地下牢でキノコ栽培でもさせる?」
ローズ姉様が、一番おっとりした笑顔で一番恐ろしいことを口走っています。
数日後。
何も知らないカイル君の元へ、代わる代わる「試練」という名の地獄が訪れました。
リーシェ姉様からは「第五王女の夫としての教養に必要な資料」が山のように送りつけられ。
ルージュ姉様からは「地獄のしごき」が毎日挑まれ。
レオナ姉様からは「身辺調査」が行われ。
ローズ姉様からは「辺境国の特産品…ただし高級品過ぎて下手をすると持ってるだけで危ない奴」で部屋が埋め尽くされました。
「あの、ラーナ姫殿下。僕、何か姫殿下方に恨まれるようなことをしましたか…?」
ボロボロになったカイル君が、涙目で私に縋りついてきました。
私は彼の頭をよしよしと撫でながら、背後で殺気を放つ四人の姉様たちに向き直ります。
「姉様方、いい加減になさいな。カイル君は、私の『お気に入り』なんですの。彼を壊してしまったら、姉様方の秘密の弱点を、お父様にバラして差し上げますわよ?」
「「「「…っ!!」」」」
一瞬で静まり返る姉様たち。
私はにっこりと、最高に愛らしい笑顔で続けました。
「カイル君、大丈夫よ。姉様たちはただ、私があまりにカイル君を高く評価したから嫉妬しているだけですわ。そんなことより、これからも私のために精進してくださる? 報酬はそうね。私の隣で、一生お姉様方を守る権利をあげるわ」
「…は、はいっ! 喜んで!」
頬を赤らめるカイル君。
それを見て背後で歯噛みする姉様たちと、ついでに卒倒したお父様。
私の「恋」への道のりは、この過保護すぎる家族という名の巨大な壁によって、まだまだ前途多難なようです。
カイル君への気持ちは、恋ではないですけどね!
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