番外編 姉過激派姫の誕生
「私、生まれた瞬間から分かっていましたの」
たまに生まれた頃からの記憶がある人間がいる。
私、ラーナもその一人。
私がこのリュキア王国にて誕生したあの日。
視界が開けた瞬間に目に飛び込んできたのは、それはそれは美しい〝四つの宝物〟でした。
「まあ! 見て、お母様! ラーナが私の指を握ったわ!」
「リーシェ姉様、ずるい。次は私よ! ほら、ラーナ、私はルージュよ」
まだ赤ん坊だった私の周りで、キラキラと目を輝かせる四人のお姉様方。
その時、私の幼い脳に電撃が走りました。
『あぁ…なんて尊いのかしら。この方たちは、一生をかけて私が守るべきお方ですわ!』
そう…私のシスコンは、本能。
呼吸。
そして世界の真理だったのです。
それから三年の月日が流れ、私が三歳になった頃のことです。
私はある「真実」に気づいてしまいました。
それはお庭でリーシェ姉様が心無い家庭教師から「王太女としての自覚が足りません。妹と遊ぶ暇があるなら、この歴史書を暗記なさい」と、冷たい言葉を浴びせられていた時のこと。
『…は? 姉様の笑顔を奪うその口、今すぐ接着剤で固めて差し上げましょうか?』
私は三歳児特有のよちよち歩きで、その家庭教師の背後に忍び寄りました。
そして彼が大切にしていた最高級の万年筆を〝うっかり〟暖炉の中に放り込んだのです。
「あぁっ! 私の宝物が!」
「あら、先生。宝物を失うのは悲しいことですわね? でも姉様と私との時間を奪われるということは、私にとってそれ以上の悲劇なんですの。…次は、先生の『職』という宝物を燃やして差し上げましょうか?」
三歳の私が、わざと天使のような笑顔で見上げると、その家庭教師は腰を抜かして逃げ出しました。
これが、私の「初断罪」。
そして、一つの結論に至った記念すべき日でもありました。
『姉様たちは、優しすぎる。だから、毒を吐き、泥を被り、敵を地獄の果てまで追い詰める役割を務める者が一人くらい必要だわ。…ええ、それは末っ子である私の天職ですわね!』
それからの私は、まさに姉様の敵を屠る騎士として邁進いたしました。
リーシェ姉様の婚約者のご家族には厳しい先生をあてがって、「早いところ息子の性格の矯正をしないと大変だ」とわからせ。
ルージュ姉様に無礼を働いた近衛兵は、翌日からなぜか「激辛の食事」しか出されない呪いにかかり。
レオナ姉様を「甘えん坊」と馬鹿にした令嬢は、夜会の最中にドレスが「絶妙にダサい色」に変色する魔法薬を浴びせられ。
ローズ姉様にすり寄る胡散臭い男は、私の「お父様へのちくり攻撃」によって、国境付近の開拓村へと飛ばされました。
「ラーナ、あなたはどうしてそんなに強い子なの?」
ある日、リーシェ姉様に膝の上で抱かれながら聞かれました。
私は、姉様の柔らかな髪に顔を埋めながら、心の中で答えました。
『姉様。強くなければこの不条理な世界で、姉様たちの「純粋な優しさ」を守り抜くことなんてできませんのよ』
「それはね、姉様。私が世界で一番、お姉様方を愛しているからですわ!」
にっこりと、世界一可愛い笑顔で答える私。
お姉様方は「まあ、ラーナったら!」と顔を赤らめて私を抱きしめます。
こうして、リュキア王国の「最強の防波堤」である〝私〟は完成しました。
お姉様方を貶める不届き者の皆様。
どうぞ、首を洗ってお待ちになって?
私の愛はとっても、とっても重いですわよ。




