お父様は馬鹿なの?あ、親バカでしたね
「却下です。お父様、その書類は今すぐ暖炉に放り込んで燃やしてしまいなさいな」
リュキア王国の執務室。
私は、国王であるお父様がドヤ顔で広げた一枚の計画書を、扇子でピシャリと叩きました。
「な、なぜだラーナ! 娘たちの門出だぞ!? 王都から国境まで、全ての道に薔薇の絨毯を敷き詰めて、国民全員に三日三晩、最高級のワインを振る舞うという名案を…!」
「どこが名案ですの。ただの『暴走』ですわ」
私は冷ややかな視線をお父様に向ける。
わが国の王、エドワードお父様。
善人で歴代屈指の名君…のはずなのですが、私含め娘のこととなると、途端に頭脳が幼児退行する悪癖があります。
「いいですか、お父様。我が国が豊かなのは、お父様とお母様方、そして姉様たちが日々公務に励み、無駄な支出を削ってきたからです。それなのに姉様たちの輿入れとなった途端、嫁入り道具の宝石を『山盛りの特注品』に変更したり、護衛の騎士を『千人体制』にしたり…そんなことをしたら、隣国や辺境のあの国に『リュキア王国は戦でも始める気か』と警戒されて、姉様たちが向こうで肩身の狭い思いをしますわよ?」
「そ、それは困る! 娘たちが冷遇されるなど、耐えられん!」
「でしたら、まずはその予算を、姉様たちが嫁いだ後の『定期的な連絡用魔術陣の整備』と、私が行き来するための『直通転移魔術陣の開発』に回すべきですわ」
「…ラーナ、お前も大概私利私欲に走っていないか?」
隣で苦笑いしているのは、王妃様と側室であるお母様。
お二人は今日も今日とて仲良くお茶を飲みながら、この茶番を眺めていらっしゃいます。
「あら、これは姉様たちとの絆を守るための『国防費』ですわ。ねえ、リーシェ姉様?」
「ふふ、そうね。お父様、妹二人の嫁ぎ先での安全のためにも薔薇の絨毯は諦めてくださる?」
いつの間にか執務室に集まっていた四人の姉様たちが、一斉にお父様を取り囲みます。
「お父様、私はその計画書なんかよりもっと実用的な剣を騎士団に配布するのが先だと思うの」
「私はラーナたちがいつでも遊びに来られるような、転移魔術陣の開発費がいいわぁ」
「お父様、辺境の国は寒いそうですから、薔薇の絨毯より暖かな毛布の方が助かりますわ」
「ぐ…っ、娘たちが、娘たちが眩しい……! ラーナ、分かった。お前の言う通りにしよう」
お父様は泣きながら予算案を書き直し始めました。
やれやれ。
この国が平和なのは結構なことですが、私がしっかりしていないと、この王国は〝娘大好き教〟という名の新興宗教国家になってしまいそうですわ。
「あーあ。姉様たちが嫁いでしまったら、お父様の暴走を止める人が減ってしまうわ」
私がポツリと呟くと、リーシェ姉様が私をひょいと抱き上げました。
「何を言っているの、ラーナ。あなたが一番お父様に愛されてるじゃない。貴方がいれば大丈夫よ。これからも、私たちの大事な妹として、この国を…そして私たちを、お父様の暴走や色々な困難から守ってちょうだいね?」
姉様たち全員の温かな視線が、私に注がれます。
全く、これだから姉様たちは………大好きなのです。
「もちろんですわ! 姉様たちの幸せを邪魔するものは、例え神様でも私が跪かせて差し上げますわ!」
私はまだ八歳の王女、ラーナ。
私の〝姉様第一主義〟な日々は、これからも賑やかに続いていく…はず。




