姉様がお前らなんか相手にするわけねぇだろカス
「あら? そこでコソコソと、何のお話をされているのかしら」
お茶会の準備が進む中、こそこそサボって好き勝手言っている連中を発見。
私は柱の陰で耳を疑うような会話を繰り広げていた二人の令嬢の前に、扇を広げて優雅にかつ可愛らしく見えるように登場しました。
彼女たちは、三番目の姉であるレオナ姉様の嫁ぎ先である隣国から「親善」という名目でやってきている使節団の令嬢たち。
「…ラーナ姫殿下。失礼いたしました、ただの世間話でございますわ」
「そう? 私の耳には『レオナ様は隣国に嫁いでも、どうせ愛されないわ。あんなに甘えん坊では、我が国の皇太子殿下も愛想を尽かすに決まっている』…なんて、とっても不快な雑音が聞こえた気がしたのだけれど」
私がにっこりと首を傾げると、令嬢たちの顔が引き攣りました。
レオナ姉様は、十四歳。もうすぐ隣国へ嫁ぐことが決まっています。
寂しがりやな姉様は、今のうちにと思い切り甘えてくる私を「ラーナ、世界一可愛いわ!」と抱きしめてくださる、とっても優しくて愛らしい方。
上の姉様たちには逆に甘えまくっているのは本当だけど、そのくらい輿入れ前には許されるはず。
…それを、「愛されない」ですって?
そもそも隣国の皇太子殿下は姉様にゾッコンでしてよ?
馬鹿なの?
その程度の噂すら耳に入らない無能なの?
「お黙りなさいな、自称未来の側近候補さん。あなたたちの国の皇太子殿下が、姉様の可愛らしさを理解できないような節穴なら、その婚姻自体こちらから願い下げですわ。大体姉様と皇太子殿下の仲は良好ですし…まあでも、お望みとあらばお父様にお願いして、国交断絶と経済封鎖の検討を始めてもいいのですよ?」
姉様が皇太子殿下と別れれば、姉様は国内の有力な貴族と結婚する。
その方が私として寂しくなくていい。
まあ本当にそうなったら、皇太子殿下はそんなこと許さないし原因となった彼女たちを素早く首斬りするでしょうけど。
もちろん物理的な意味の、首斬りね。
「そ、そんな、冗談でしょう…?」
「あら、冗談だなんて。私、お父様とお母様たちにはとっても可愛がられていますの。…ねえ、お父様たちが、私の涙を見て黙っているかしら?」
あえて瞳を潤ませて、可愛らしく演じてみせます。
下手に言い返せば、それは「王女を泣かせた」という外交問題。
青ざめた令嬢たちが逃げ出すのを見届けてから、私は冷めた視線でその背中を見送りました。
「…ふん。姉様の価値がわからないような国なら、私が滅ぼして差し上げますわ。皇太子殿下への直接の抗議も必要かしら?」
「まあ、ラーナ。そんな物騒なことを言っているのは誰かしら?」
背後から聞こえてきた、おっとりとした声。
振り返ると、そこにはレオナ姉様が立っていました。
「レオナ姉様!」
「ふふ、また私を庇ってくれたのね? でも大丈夫よ。私、あの国に行っても、ラーナが誇れるような立派な王妃になってみせるわ。だって、こんなに可愛い妹がいるんですもの」
レオナ姉様は私をぎゅーっと抱きしめて、その頬をすりすりとしてきました。
「んぅ、姉様…苦しいですわ」
「あら、ごめんなさい! でも、ラーナが応援してくれるなら、私、どんな意地悪な令嬢がいても平気だわ。あ、でも…たまに寂しくなったら、魔術による通信で泣きついてもいいかしら?」
「もちろんです! その時は私がすぐに、お父様を説得して隣国まで飛んでいきますわ!」
姉様の腕の中で、私は固く誓いました。
次は、四番目のローズ姉様をダメにしようとしている不届きな奴らを掃除しに行かなくては。




