姉様を馬鹿にするな死ね
「所詮は女だ。剣筋が細くていけねえ」
「全くだ。姫殿下の『騎士ごっこ』に付き合わされるこちらの身にもなってほしいよな」
訓練場の隅で、下品な笑い声を上げている近衛騎士たちが二人。
その視線の先では、私の二番目の姉、ルージュ姉様が汗を流して一人黙々と打ち込みをしています。
ルージュ姉様は、凛々しくて、お美しくて、自分に厳しくて…。
私たちが甘えようとすると「公務はどうしたの」「淑女の嗜みが疎かよ」なんて厳しいことをおっしゃいますが、実はその後に必ず私たちの大好きな甘いお菓子を差し入れてくれる、とってもツンデレで可愛いお姉様なのです。
そんな姉様を「騎士ごっこ」?
いい度胸ですわ。
あのお馬鹿さんたちの口、全部縫い合わせて差し上げましょうか。
「あら、お仕事中に楽しそうですわね?」
私は日傘を従者に持たせ、ふわりと軽やかに可愛らしく見えるように二人の前に歩み寄りました。
「…っ、これはラーナ姫殿下!」
「失礼いたしました!」
慌てて居住まいを正す騎士たち。
ですが、その瞳の奥には「子供には今の話はわかるまい」という侮りが透けて見えています。
あぁ、不愉快。不快指数がカンストしましたわ。
「先ほど、素敵な言葉が聞こえてまいりましたけれど。『女の剣は細い』…でしたかしら? ぜひ、そのご高説を詳しく伺いたいですわ」
「い、いえ、それは…」
「あら、黙ってしまうの? 勇猛なリュキア王国の騎士様が、八歳の子供相手に言葉を失うなんて。それでは、お父様に『近衛騎士の選定基準に、言語能力と謙虚さを追加してください』と直訴しなくてはなりませんわね」
にっこりと、花が咲くような笑顔で首を傾げます。
もちろんわざとです。
ああ、姉様たちに似て可愛いお顔に生まれてよかった。
騎士たちの顔が引き攣るのを見て、私はさらに畳みかけました。
「ルージュ姉様は、あなたたちが酒場で油を売っている間も、誰よりも早く鍛錬を始め、誰よりも遅く剣を置いていらっしゃいます。その努力を『女だから』という言葉一つで片付けるなんて…。あなたたちの剣は、相手の性別を見てから威力が変わる魔法の杖か何かですの?」
「…っ、しかし、実際に力比べをすれば男の方が……!」
一人が顔を真っ赤にして反論してきました。
よし、食いつきましたわね。
…こんな安い挑発に乗るとか馬鹿なのかしら?
「では、私と賭けをしましょう。今からルージュ姉様と立ち合いをして、もしあなたたちが一本でも取られたら…そうね。今日から一ヶ月、王城の全てのトイレ掃除を『素手で』担当していただきますわ」
勝手な賭けをしても、おそらくルージュ姉様は本気では怒らない。
事情は即理解してくださるはず。
そしてこんなボンクラどもに姉様が負けるわけもなく。
「なっ…!?」
「その代わり、あなたたちが勝てば、お父様に頼んであなたたちの昇進を約束してあげます。…どうかしら? 自分の言葉に責任が持てるなら、安い賭けでしょう?」
お父様も、この賭けに対して本気で怒ることはない。
だって私たち姉妹を溺愛しているから。
まあそんなこんなで、私の挑発に乗った騎士は鼻息荒くルージュ姉様の元へ向かっていきました。
結果? 言うまでもありません。
「…っ、はぁっ!」
鋭い風の音と共に、騎士の剣が宙を舞う。
ルージュ姉様の鋭い一撃が、男の喉元でピタリと止まる。
「…私の妹を巻き込んで、何をしているのかしら?」
ルージュ姉様が、冷徹な瞳で騎士を見下ろします。
その姿、最高に素敵で優雅で痺れますわ…!
まあ、私が巻き込まれたのではなく私が持ちかけた賭けなのですけど。
「ラーナ。こんな低俗な者たちの相手をして、あなたの品位を落とすことはないわ」
姉様は私の方を向くと、少しだけ眉を下げて困ったように笑いました。
そして、騎士たちを氷のような声で一蹴します。
「賭けは妹の勝ちよ。 明日から一ヶ月、道具の使用は禁止よ。心を込めて磨きなさいな。…私の妹に、不快な思いをさせた罪は重いわよ」
腰を抜かした騎士たちを放置して、姉様は私の手を引いて歩き出しました。
「さあ、ラーナ。あんなものを見ていたら目が汚れるわ。お部屋でシャーベットでも食べましょう」
「はい、ルージュ姉様! 大好きです!」
姉様の繋いだ手に力がこもるのに私は気付きましたが、あえて何も言いません。
ふふ、次はレオナ姉様とローズ姉様を困らせる不届き者を探しに行かなくっちゃ!
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