番外編 そもそも何故この王室はドロドロ昼ドラ展開に至らなかったか
「アン。あなた、今日も世界で一番お美しいわね。その髪に、この新作のかんざしを贈らせて?」
「まあイザベラ様。そんな、私こそイザベラ様に捧げるために最高級の茶葉を取り寄せましたのよ」
リュキア王国の後宮。
本来なら〝正妃と側室のドロドロした権力争い〟が繰り広げられるはずの魔窟だが…。
そこにあるのはお互いを褒め称え、愛を囁き合う二人の美女の姿。
かつて、この国にも〝世継ぎ争い〟の火種を撒こうとした愚かな貴族たちがいた。
「正妃に子がいないうちに、側室が第一王女を産んだ! これぞ好機!」と。
だが、彼らは知らなかった。
国王エドワードが、そもそも「争いなんて面倒だし、みんなが仲良しなのが一番格好いい」という、究極の平和主義者だったことを。
そしてイザベラとアンがそんなエドワードを慕い、お互いを〝エドワードを支えるためのビジネスパートナー〟として認めていたことを。
「イザベラもアンも、僕にとっては二人とも『太陽』なんだ。太陽が二つあったら、世界はもっと明るくなる。…そうだ、二人で協力して娘たちを世界一幸せに育てようじゃないか!」
国王のこの一言から、リュキア王国の「溺愛教育」は始まった。
「いい、リーシェ。あなたはアンの子だけど、私の娘でもあるのよ。だから、私が全力で甘やかしてあげるわ」
「イザベラ様…! では、私もルージュを実の妹として慈しみ、守り抜くと誓います!」
正妃と側室。
二人は手を取り合い、〝女の争い〟に使うはずだった全エネルギーを〝娘たちの教育と、彼女らを邪魔する害虫の駆除〟へと転換した。
誰かが「側室の子が王位を継ぐのは…」と囁けば、正妃イザベラが「あら、私の可愛いリーシェに文句があるのかしら? そのうるさい口、黙らせて差し上げましょうか?」とにっこり微笑み。
誰かが「正妃の子の方が血筋が…」と煽れば、側室アンが「あら、そんな古臭い考え、我が家の仲良し姉妹には不要ですわ。お引き取りを」と冷たくあしらう。
その背後では、国王が「うむうむ、今日も我が家は平和だ」と頷いている。
そんな、愛が深過ぎてドロドロになる〝可能性〟すら愛で埋め尽くされた家庭環境。
そこで育った五人の王女たちが、歪みなくかつ〝姉妹愛を害する者には容赦ない〟という最強の性格に育ち上がったのは、ある意味必然だった。
「結局のところ、争いなんて『愛』が足りないから起こるのですわ」
八歳のラーナは、今日も仲睦まじい両親たちと、自分を奪い合う姉様たちを眺めながら、確信していた。
この国がドロドロにならない理由。
それは、王家の愛が〝常識という枠を破壊して、限界ギリギリまで膨らんでいるから〟に他ならない
「…さて。お父様たちが愛を語り合っている間に、私はお姉様方の嫁ぎ先の『不純物リスト』でも更新しておきましょうか」
ドロドロを未然に防ぐ。
それが、愛溢れる家庭で育った末っ子王女の、ささやかな恩返しだ。
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