6話「仮面の下にあったもの」
#6話「仮面の下にあったもの」
昼休み、職員室でざわつく教師たちの声が廊下まで漏れていた。
「岸本の件、本当なんですか……?」
「……教育委員会にも通報があったみたいですよ」
俺は念のため用意していた次の仕込みも投入した。思ったよりも岸本がしぶとかったからな。やはり、もともと優等生面していただけに先生からの追及は甘い。
先生も優等生を問題視するとややこしいと判断する側面もあるからな。下手すれば部活動のストップもあり得るから先生も及び腰。
そこでSNSで拾った“当時の教育実習生の愚痴”を再構成し、
“匿名の外部通報”として学校相談窓口と教育委員会に同時送信した。
もちろん「なぜか岸本君の追及はすごく甘いですね。きちんと処分しないとマスコミにも送信します」という文言も入れておいた。自己保身ばかり考える教育機関の上層部はこれで間違いなく動くことだろう。
中学時代の部活での暴力騒ぎ――もみ消された事件。
それを今になって掘り返された岸本は、もう逃げ場がなかった。
午後、岸本が呼び出された。
柴田のときと同じく、静かに、しかし確実に“粛清”の鐘が鳴る。
本人は冤罪を主張していたが、教師はすでに犯人として扱っている。
そしてそれ以上に教室の空気は既に「クロ」一色だ。呼び出された時点で疑われている。
「もう岸本くんも信用できないよね……」
「あんなに先生に媚びてたくせに裏ではいじめ?無理無理、最低だよ」
「俺はああいう表向きだけ良い人が一番怖いよ……裏で何を考えているか分からない」
やはり周りはこんなものだ。柴田の時と同じ。ちょっとした噂を更に話を大きくして容赦なく切り捨てていく。本人の近くではコソコソ話。離れたところでは容赦なく悪口を言いあい笑う。
そうして、あれほど“人当たりのいい優等生”だった岸本が、今では完全に避けられる存在に変わっていた。先生も距離を置いている。もう学校には居場所がない。これから3年間は針の筵だろう。
放課後。
俺は下駄箱で帰り支度をしていた。
そこに岸本がふらつくようにやってきた。
「なあ、お前……なんか知ってるんじゃないか?」
そう言って俺を見る目は、怒りというよりは“助けを求める目”だった。おそらく人の良さそうな人間に声かけて少しでも仲間を作ろうとしているのだろう。やっぱり頭がいいな。最後まであがく。
「……なんで、こんなことになってんだよ。俺、そんな悪いことしたか……?何もしてないよな」
さすがに気の毒になり俺は一瞬だけ、迷った。
だが、すぐに心を冷やした。
「君は本気で“何もやってない”とでも思ってるのか?」
「……俺は……ただ……柴田に合わせてただけで……」
「俺、少し見てたけどさ。柴田をけしかけて人をいじめさせ、それに合わせて笑ってたよな。しかもそいつが殴られるのを見下すように見てたよな。それが“悪くない”って本当に、本気で言えるのか?それじゃいつまで経っても変わらないぞ」
岸本は絶句した。
言い返せない。ただ、肩が落ちて、靴箱に寄りかかった。
「……俺……そうだったのかな……そうだな。俺はただ見てただけだと思っていたけど、確かにけしかけて笑っていたよな。止めずに笑っていたよな。ああ、何てことをしたんだ。最低だ俺」
しばらく沈黙が続いたあと、岸本は小さく呟いた。
「……ごめん」
誰に向かって言っているのか分からないその言葉に、俺は何も返さなかった。
ただ黙って靴を履いて、歩き出した。
(もう反省しても遅い……岸本はこれで終わりだ。学校にはもう居場所がない。これから3年はずっと苦しむことになる。そうだな、直接いじめていたわけではないからこれぐらいにしておいてやろう)
くそっ、すぐに反省し謝るぐらいなら悪いことするなよ。
満足感は確かにあった。
だが、それと同時に、どこか空っぽな気持ちが胸に残っていた。という心のどこかに小さな棘が刺さったような気分だ。
復讐は気持ちいい。だが――
あいつらを潰して何が変わった?ここまでやる必要があったのか?あいつらの人生は終わったけど本当にそれで良かったのか。
そんな疑問が、ふと脳裏をかすめた。
いや違う!そうじゃない!
やはり悪は叩き潰さないと駄目だ。そうしないと犠牲者が増えるばかり。潰れるのは善人の人生ではない。悪人の人生であるべきだ。
まだやるべきことが残っている。俺こそが動かないといけない。
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